マカクザルを用いた研究で、HIVに似たサル免疫不全ウイルス(SIV)感染症を、薬剤を服用しなくても抑制できる可能性が示された。標準の薬物療法に追加して抗体療法を実施すると、薬剤の中止後も2年近くにわたりウイルス値が検出限界以下を維持していたという。研究著者である米エモリー大学(アトランタ)教授のAftab Ansari氏によると、HIV治療に使用される抗レトロウイルス療法(ART)は、血液中のウイルスをほぼ検出限界値以下にまで抑える極めて高い効果があるという。しかし、ARTを中止するとウイルスが再び増加するため、患者は一生薬を続けなくてはならず、さまざまな副作用の長期的なリスクに曝されることになる。また、いずれ薬剤に対する抵抗性が生じ、他の薬に切り替える必要も出てくる。.今回の研究では、α4β7インテグリンと呼ばれる蛋白を標的とする抗体を用いた。この蛋白にはT細胞が腸内のリンパ組織にたどり着くのを助ける作用がある。腸はHIVの主要な貯蔵所であり、HIVはT細胞に感染する。そのため、HIV感染の急性期にT細胞が腸に殺到することを阻止できれば、T細胞を保護できる可能性があるとAnsari氏は考えた。.研究グループは、SIVに感染して5週間経過したマカクザル18頭に3カ月間のARTを実施し、さらにART開始から4週間後よりα4β7抗体または「対照」物質を3週間おきに注入した。薬物療法により血液中のSIV値は低下したが、投薬を中止すると、対照群にはウイルスの再増加がみられた。一方、抗体治療群では、8頭中6頭にはある程度のウイルス再増加がみられたが4週間以内で治まり、あとの2頭にはSIV再増加はみられなかった。.この知見をヒトに転用できるかどうかは不明だが、すでに米国で承認済みのヒトα4β7アナログ製剤が存在することを活かして、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)で予備研究が進められているという。vedolizumab(商品名:Entyvio)と呼ばれるこの薬剤は、クローン病や潰瘍性大腸炎の治療に用いられている。.しかし、依然として多くの疑問も残ると専門家らは指摘する。その1つは、HIV感染の急性期を過ぎてからα4β7抗体を投与した場合の有効性である。さらに今回の研究では、抗体治療を実施したサルの腸内の常在T細胞が逆に拡大するなど、不可解な所見も認められている。またAnsari氏は、この方法がヒトにおいて成功したとしても、「治癒」に至るわけではないと強調している。.この研究は「Science」10月14日号に掲載された。(HealthDay News 2016年10月13日).https://consumer.healthday.com/aids-information-1/aids-and-hiv-sexually-transmitted-diseases-news-607/monkey-study-hints-at-drug-free-suppression-of-hiv-715829.html.Copyright (c) 2016 HealthDay. All rights reserved.
マカクザルを用いた研究で、HIVに似たサル免疫不全ウイルス(SIV)感染症を、薬剤を服用しなくても抑制できる可能性が示された。標準の薬物療法に追加して抗体療法を実施すると、薬剤の中止後も2年近くにわたりウイルス値が検出限界以下を維持していたという。研究著者である米エモリー大学(アトランタ)教授のAftab Ansari氏によると、HIV治療に使用される抗レトロウイルス療法(ART)は、血液中のウイルスをほぼ検出限界値以下にまで抑える極めて高い効果があるという。しかし、ARTを中止するとウイルスが再び増加するため、患者は一生薬を続けなくてはならず、さまざまな副作用の長期的なリスクに曝されることになる。また、いずれ薬剤に対する抵抗性が生じ、他の薬に切り替える必要も出てくる。.今回の研究では、α4β7インテグリンと呼ばれる蛋白を標的とする抗体を用いた。この蛋白にはT細胞が腸内のリンパ組織にたどり着くのを助ける作用がある。腸はHIVの主要な貯蔵所であり、HIVはT細胞に感染する。そのため、HIV感染の急性期にT細胞が腸に殺到することを阻止できれば、T細胞を保護できる可能性があるとAnsari氏は考えた。.研究グループは、SIVに感染して5週間経過したマカクザル18頭に3カ月間のARTを実施し、さらにART開始から4週間後よりα4β7抗体または「対照」物質を3週間おきに注入した。薬物療法により血液中のSIV値は低下したが、投薬を中止すると、対照群にはウイルスの再増加がみられた。一方、抗体治療群では、8頭中6頭にはある程度のウイルス再増加がみられたが4週間以内で治まり、あとの2頭にはSIV再増加はみられなかった。.この知見をヒトに転用できるかどうかは不明だが、すでに米国で承認済みのヒトα4β7アナログ製剤が存在することを活かして、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)で予備研究が進められているという。vedolizumab(商品名:Entyvio)と呼ばれるこの薬剤は、クローン病や潰瘍性大腸炎の治療に用いられている。.しかし、依然として多くの疑問も残ると専門家らは指摘する。その1つは、HIV感染の急性期を過ぎてからα4β7抗体を投与した場合の有効性である。さらに今回の研究では、抗体治療を実施したサルの腸内の常在T細胞が逆に拡大するなど、不可解な所見も認められている。またAnsari氏は、この方法がヒトにおいて成功したとしても、「治癒」に至るわけではないと強調している。.この研究は「Science」10月14日号に掲載された。(HealthDay News 2016年10月13日).https://consumer.healthday.com/aids-information-1/aids-and-hiv-sexually-transmitted-diseases-news-607/monkey-study-hints-at-drug-free-suppression-of-hiv-715829.html.Copyright (c) 2016 HealthDay. All rights reserved.