自閉症の青年が成人期を迎え、社会に出るにはさまざまな障壁がある。そうした障壁を乗り越えるための治療として、精神療法の一種である「認知強化療法(Cognitive Enhancement Therapy : CET)」が有望であることを示す米国の小規模なランダム化比較試験(RCT)の結果が明らかになった。CETを受けた若い成人の自閉症患者では、注意力や情報処理能力といった神経認知機能が改善し、就労の可能性が高まったという。このRCTは米ピッツバーグ大学社会福祉学・精神医学教授のShaun Eack氏らが実施したもの。詳細は「Autism Research」2017年12月29日オンライン版に掲載された。.対象は、知能レベルが平均を上回り、フルセンテンスでのコミュニケーションが可能な自閉症の男女54人。平均年齢は20歳代前半だった。Each氏らは対象者を18カ月間にわたってCETを実施する群と強化支持療法(enriched supportive therapy:EST)を実施する群のいずれかにランダムに割り付けた。.CET群では、認知機能や社会的理解の向上を目的とした介入を実施。具体的には、注意力や記憶力、問題解決能力を高めるためのコンピュータを使った訓練を数カ月間実施した後、他者の理解や社会的な情報の処理能力を高める訓練を少人数のグループで行った。いずれの訓練も1週間に約3時間、実施した。.一方、EST群では感情やストレスを管理する方法をマンツーマンで指導する1時間のセッションを1週間に1回のペースで実施した。ESTは認知行動療法(CBT)といった従来の精神療法に基づいた治療法で、ストレスの要因を意識し、ストレスやネガティブな感情への対処法を学んで日常生活に取り入れるというものだった。.RCTの主要評価項目は神経認知および社会的認知の評価スコアの変化、副次的評価項目は一般雇用(competitive employment)とした。.その結果、18カ月後の時点でCET群では神経認知機能が改善し、特に注意力と迅速に情報を処理する能力が大幅に高まった。また、こうした機能の改善がみられた患者の一部では一般雇用の仕事に就くことができた。さらにCET群では9カ月の時点で社会的認知機能の改善が認められた。.一方、EST群でも社会的認知機能が大幅に改善した。ただ、CET群では介入から9か月後の時点で社会的認知機能の改善がみられたが、EST群では効果が認められるまでさらに9カ月間の介入を要した。その要因として、Eack氏は「CETの治療強度がESTを上回っていたからではないか」と考察。ただ、ESTは自分自身の感情を理解する能力を高めるという点ではCETよりも優れていたとことから、同氏は「今後はCETとESTのそれぞれの治療に適した患者の特徴を明らかにする必要がある」と話している。.これらの治療法に大きな期待を示すのは、14歳の自閉症の子どもを持つノースカロライナ州のRenee Zlotnickiさんだ。Zlotnickiさんの娘のNicoleさんは現在、学業では上位の成績を収めているが、親しい友人はいないなど「社会的な行動に困難を抱えている」という。「幸運なことに、現在はさまざまな(自閉症患児向けの)サービスがあり、娘の症状も改善している。ただ、高校を卒業した後には大きな変化が待ち受けていることを考えると、成人向けのプログラムが利用できるようになるのであれば歓迎する」とZlotnickiさんは話す。.一方、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校TEACCH自閉症プログラムの研究を統括するMark Klinger氏は「勇気づけられる研究結果だ」と評価した上で、「CETは脳トレーニングと社会的スキルの向上を目指した訓練の2つの要素を組み合わせたものだが、これらを併用したから効果が得られたのか、あるいはいずれか単独でも効果が得られるのかは不明だ」と指摘。また、適切な介入期間についても、今後さらなる研究で検証する必要があると指摘している。.なお、RCTを主導したEack氏は「今後、より大規模な臨床試験でCETの効果が裏付けられ、最終的には保険が適用されるようになることを望んでいる」としているが、「この治療さえ行えば他のサポートは不要になるわけではない」と強調している。ただ、CETが若い自閉症患者を就労に導く効果については「特に期待できる」と話し、「仕事がうまくいかない人は、計画性や自己管理に問題があり、社会的スキルが不十分で、何かに失敗すると混乱してしまう傾向がある。こうした部分をサポートできれば、自閉症の成人が就労し、楽しく仕事を続ける可能性を最大限に高めることは可能だ」と説明している。(HealthDay News 2018年2月13日).https://consumer.healthday.com/cognitive-health-information-26/autism-news-51/therapy-helps-those-with-autism-navigate-adulthood-731072.html.Copyright © 2018 HealthDay. All rights reserved.
自閉症の青年が成人期を迎え、社会に出るにはさまざまな障壁がある。そうした障壁を乗り越えるための治療として、精神療法の一種である「認知強化療法(Cognitive Enhancement Therapy : CET)」が有望であることを示す米国の小規模なランダム化比較試験(RCT)の結果が明らかになった。CETを受けた若い成人の自閉症患者では、注意力や情報処理能力といった神経認知機能が改善し、就労の可能性が高まったという。このRCTは米ピッツバーグ大学社会福祉学・精神医学教授のShaun Eack氏らが実施したもの。詳細は「Autism Research」2017年12月29日オンライン版に掲載された。.対象は、知能レベルが平均を上回り、フルセンテンスでのコミュニケーションが可能な自閉症の男女54人。平均年齢は20歳代前半だった。Each氏らは対象者を18カ月間にわたってCETを実施する群と強化支持療法(enriched supportive therapy:EST)を実施する群のいずれかにランダムに割り付けた。.CET群では、認知機能や社会的理解の向上を目的とした介入を実施。具体的には、注意力や記憶力、問題解決能力を高めるためのコンピュータを使った訓練を数カ月間実施した後、他者の理解や社会的な情報の処理能力を高める訓練を少人数のグループで行った。いずれの訓練も1週間に約3時間、実施した。.一方、EST群では感情やストレスを管理する方法をマンツーマンで指導する1時間のセッションを1週間に1回のペースで実施した。ESTは認知行動療法(CBT)といった従来の精神療法に基づいた治療法で、ストレスの要因を意識し、ストレスやネガティブな感情への対処法を学んで日常生活に取り入れるというものだった。.RCTの主要評価項目は神経認知および社会的認知の評価スコアの変化、副次的評価項目は一般雇用(competitive employment)とした。.その結果、18カ月後の時点でCET群では神経認知機能が改善し、特に注意力と迅速に情報を処理する能力が大幅に高まった。また、こうした機能の改善がみられた患者の一部では一般雇用の仕事に就くことができた。さらにCET群では9カ月の時点で社会的認知機能の改善が認められた。.一方、EST群でも社会的認知機能が大幅に改善した。ただ、CET群では介入から9か月後の時点で社会的認知機能の改善がみられたが、EST群では効果が認められるまでさらに9カ月間の介入を要した。その要因として、Eack氏は「CETの治療強度がESTを上回っていたからではないか」と考察。ただ、ESTは自分自身の感情を理解する能力を高めるという点ではCETよりも優れていたとことから、同氏は「今後はCETとESTのそれぞれの治療に適した患者の特徴を明らかにする必要がある」と話している。.これらの治療法に大きな期待を示すのは、14歳の自閉症の子どもを持つノースカロライナ州のRenee Zlotnickiさんだ。Zlotnickiさんの娘のNicoleさんは現在、学業では上位の成績を収めているが、親しい友人はいないなど「社会的な行動に困難を抱えている」という。「幸運なことに、現在はさまざまな(自閉症患児向けの)サービスがあり、娘の症状も改善している。ただ、高校を卒業した後には大きな変化が待ち受けていることを考えると、成人向けのプログラムが利用できるようになるのであれば歓迎する」とZlotnickiさんは話す。.一方、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校TEACCH自閉症プログラムの研究を統括するMark Klinger氏は「勇気づけられる研究結果だ」と評価した上で、「CETは脳トレーニングと社会的スキルの向上を目指した訓練の2つの要素を組み合わせたものだが、これらを併用したから効果が得られたのか、あるいはいずれか単独でも効果が得られるのかは不明だ」と指摘。また、適切な介入期間についても、今後さらなる研究で検証する必要があると指摘している。.なお、RCTを主導したEack氏は「今後、より大規模な臨床試験でCETの効果が裏付けられ、最終的には保険が適用されるようになることを望んでいる」としているが、「この治療さえ行えば他のサポートは不要になるわけではない」と強調している。ただ、CETが若い自閉症患者を就労に導く効果については「特に期待できる」と話し、「仕事がうまくいかない人は、計画性や自己管理に問題があり、社会的スキルが不十分で、何かに失敗すると混乱してしまう傾向がある。こうした部分をサポートできれば、自閉症の成人が就労し、楽しく仕事を続ける可能性を最大限に高めることは可能だ」と説明している。(HealthDay News 2018年2月13日).https://consumer.healthday.com/cognitive-health-information-26/autism-news-51/therapy-helps-those-with-autism-navigate-adulthood-731072.html.Copyright © 2018 HealthDay. All rights reserved.