出産をきっかけにホルモンバランスや環境の変化によって発症するとされている「産後うつ」。出産から1カ月時点で産後うつ状態だと、子どもへの愛着が不十分な状況が産後1年にわたり続きがちなことが、富山大学エコチル調査ユニットセンターの笠松春花氏らの研究で明らかになった。研究の詳細は「Psychological Medicine」9月2日オンライン版に掲載された。産後の不安への介入が、子どもへの愛着低下(ボンディング障害)の予防につながる可能性もあるという。笠松氏らの研究は、環境省が2011年から継続している疫学調査「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の登録者を対象としたもの。同氏らは既にエコチル調査のデータを用いた横断的研究から、産後1カ月の「エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)」と「赤ちゃんへの気持ち質問票(MIBS-J)」のスコアが有意に相関することを報告している。今回は対象を産後1年まで追跡する前向き研究によって両者の関連を詳細に検討した。.エコチル調査に登録している母親8万3,109人に対し、産後1カ月、6カ月にEPDSを用いて産後うつ状態を評価。さらに産後1年経過した時点でMIBS-Jを用い、対児愛着(ボンディング)の程度を評価した。過去の出産経験や健康状態など、ボンディングに影響し得る因子を調整した上で両者の関連を比較すると、産後1カ月、6カ月のEPDSスコアは、いずれも産後1年のMIBS-Jスコアの有意な予測因子だった。そのオッズ比は、産後1カ月で1.088(95%信頼区間:1.086~1.089)、6カ月は1.085(同:1.083~1.087)で、両スコアの関連の強さは5カ月経ても同等だった。.また、これまでの研究でEPDSからは「不安」、「快感消失」、「抑うつ」、MIBS-Jからは「愛情の欠如」「怒りと拒絶」という因子を読み取れることが示されているが、本研究ではさらにこれらの因子について、相互の関連性を検討した。すると、全ての因子同士が統計的に有意な関連を示し、中でも「快感消失」と「愛情の欠如」、および「不安」と「怒りと拒絶」が、より強い関連があることがわかった。この結果から、産後うつに対して適切なケアを施すことが、その後のボンディングの向上に結び付く可能性が示唆された。.産後の母親の10~15%にうつ症状が現れると言われ、特に産後1カ月の発症が多いとされている。一方、ボンディング障害では、自分の子どもに対して愛情が沸かず、イライラしたり敵意を感じたり攻撃したくなるといった症状が現れ、子どもの成長や発達に悪影響を与えたり虐待につながる危険性も指摘されている。.笠松氏らは、本研究が観察研究であることから因果関係については断言できないとした上で、産後うつに特有の症状とされる「不安」因子が「怒りと拒絶」因子と特に強い関連を示したことを根拠とし、産後の「不安」のケアによって、子どもへのネガティブな感情を抑制できる可能性が高いと述べている。そして今後に向けて、「産後うつケアのための早期介入プログラムを提供するといった研究を積み重ね検証していく必要がある」と展望をまとめている。(HealthDay News 2019年9月30日).Abstract/Full Texthttp://dx.doi.org/10.1017/S0033291719002101.News Releasehttps://www.u-toyama.ac.jp/outline/publicity/pdf/2019/20190911.pdf.Copyright © 2019 HealthDay. All rights reserved.