米国では近年、大腿骨近位部骨折に対して、大腿骨頭だけを人工骨頭に入れ替える「部分置換術(人工骨頭置換術)」よりも、股関節を全て人工関節に置き換える「人工股関節全置換術(THA)」を受ける成人患者が急増している。しかし、マックマスター大学(カナダ)整形外科部長のMohit Bhandari氏らが行った国際的な研究で、これらの手術後の短期的な転帰にはほとんど差はみられず、むしろTHAの方が術後合併症の頻度は高いことが分かった。研究結果の詳細は「New England Journal of Medicine」9月26日オンライン版に掲載された。米国でTHAを受ける大腿骨近位部骨折患者は年間50万人と推定され、その患者数は部分置換術を受ける患者のほぼ3倍に上る。Bhandari氏らは今回、10カ国80施設から登録した50歳以上の大腿骨近位部骨折患者1,495人を対象に、ランダム化比較試験を実施。対象患者を、THAを受ける群と部分置換術を受ける群にランダムに割り付け、術後24カ月以内に2回目の手術を必要とする確率と身体機能、QOL、重篤な有害事象の発生率を比較した。なお、対象患者は全て骨折後も自力で歩くことができた。.その結果、術後24カ月以内に2回目の手術を必要とする確率は、THA群では7.9%、部分置換術群では8.3%と両群間に有意な差はみられないことが分かった(ハザード比0.95、P=0.79)。また、THA群では、部分置換術群と比べて身体機能の改善度がわずかに大きく、痛みやこわばりが少なかったが、臨床的に重大な意味をもつほど十分な差ではなかった。.一方、重篤な合併症の発生率は、THA群では42%だったのに対し、部分置換術群では37%と両群間に差がみられた。Bhandari氏は、いずれの手術も合併症の直接的な原因ではない可能性もあるが、「手術にかかる時間がより長く、手技が複雑な方が合併症リスクは高まると考えられる」と説明している。.今回の結果だけを見ると、人工股関節の部分置換術はTHAよりも優れているようにみえる。しかし、専門家らは慎重な解釈を求めている。その一人で、米国整形外科学会(AAOS)のスポークスパーソンを務める米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン整形外科病院・筋骨格ケアセンター整形外科准教授のClaudette Lajam氏は「この研究は、観察期間が2年間という短い期間に過ぎない点に注意が必要だ」と指摘する。.また、Lajam氏によれば、部分置換術では、埋め込んだ人工の金属ボールの表面が当たることで、患者自身のソケット部分の軟骨がすり減ってしまう。そのため、結果的にはほとんどの患者が再手術を受けることになるとしている。.米国では、幅広い医療保険がTHAをカバーしているため、一般には、術式を決める上で費用は重要な要素ではなく、患者の年齢や余命の長さで判断されることが多い。Lajam氏は「51歳の患者なら長期的なベネフィットを優先するが、90歳であればより早くベネフィットが得られ、リスクが小さい方を選ぶだろう」説明している。なお、今回の研究結果は、新たな洞察をもたらすものだが、現在の治療選択に大きな影響を与える可能性は低いと、同氏はみている。(HealthDay News 2019年10月3日).https://consumer.healthday.com/bone-and-joint-information-4/bone-joint-and-tendon-news-72/is-partial-hip-replacement-often-the-better-option-750840.html.Copyright © 2019 HealthDay. All rights reserved.
米国では近年、大腿骨近位部骨折に対して、大腿骨頭だけを人工骨頭に入れ替える「部分置換術(人工骨頭置換術)」よりも、股関節を全て人工関節に置き換える「人工股関節全置換術(THA)」を受ける成人患者が急増している。しかし、マックマスター大学(カナダ)整形外科部長のMohit Bhandari氏らが行った国際的な研究で、これらの手術後の短期的な転帰にはほとんど差はみられず、むしろTHAの方が術後合併症の頻度は高いことが分かった。研究結果の詳細は「New England Journal of Medicine」9月26日オンライン版に掲載された。米国でTHAを受ける大腿骨近位部骨折患者は年間50万人と推定され、その患者数は部分置換術を受ける患者のほぼ3倍に上る。Bhandari氏らは今回、10カ国80施設から登録した50歳以上の大腿骨近位部骨折患者1,495人を対象に、ランダム化比較試験を実施。対象患者を、THAを受ける群と部分置換術を受ける群にランダムに割り付け、術後24カ月以内に2回目の手術を必要とする確率と身体機能、QOL、重篤な有害事象の発生率を比較した。なお、対象患者は全て骨折後も自力で歩くことができた。.その結果、術後24カ月以内に2回目の手術を必要とする確率は、THA群では7.9%、部分置換術群では8.3%と両群間に有意な差はみられないことが分かった(ハザード比0.95、P=0.79)。また、THA群では、部分置換術群と比べて身体機能の改善度がわずかに大きく、痛みやこわばりが少なかったが、臨床的に重大な意味をもつほど十分な差ではなかった。.一方、重篤な合併症の発生率は、THA群では42%だったのに対し、部分置換術群では37%と両群間に差がみられた。Bhandari氏は、いずれの手術も合併症の直接的な原因ではない可能性もあるが、「手術にかかる時間がより長く、手技が複雑な方が合併症リスクは高まると考えられる」と説明している。.今回の結果だけを見ると、人工股関節の部分置換術はTHAよりも優れているようにみえる。しかし、専門家らは慎重な解釈を求めている。その一人で、米国整形外科学会(AAOS)のスポークスパーソンを務める米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン整形外科病院・筋骨格ケアセンター整形外科准教授のClaudette Lajam氏は「この研究は、観察期間が2年間という短い期間に過ぎない点に注意が必要だ」と指摘する。.また、Lajam氏によれば、部分置換術では、埋め込んだ人工の金属ボールの表面が当たることで、患者自身のソケット部分の軟骨がすり減ってしまう。そのため、結果的にはほとんどの患者が再手術を受けることになるとしている。.米国では、幅広い医療保険がTHAをカバーしているため、一般には、術式を決める上で費用は重要な要素ではなく、患者の年齢や余命の長さで判断されることが多い。Lajam氏は「51歳の患者なら長期的なベネフィットを優先するが、90歳であればより早くベネフィットが得られ、リスクが小さい方を選ぶだろう」説明している。なお、今回の研究結果は、新たな洞察をもたらすものだが、現在の治療選択に大きな影響を与える可能性は低いと、同氏はみている。(HealthDay News 2019年10月3日).https://consumer.healthday.com/bone-and-joint-information-4/bone-joint-and-tendon-news-72/is-partial-hip-replacement-often-the-better-option-750840.html.Copyright © 2019 HealthDay. All rights reserved.