イスラム教徒のラマダン中の血糖管理を補助するツールが開発され、その有用性についての報告が「Annals of Family Medicine」3・4月号に掲載された。このツールを用いた群はラマダン終了後のHbA1cがツールを用いなかった群よりも有意に低く、かつ、絶食に伴う低血糖の増加は見られなかったという。イスラム教のラマダンは通常約1カ月にわたり、夜明けから日没までの間、喫煙、性的行動、摂食(薬物も含む)を控え絶食する。イスラム法では疾患のある者は絶食が免除されるが、社会文化的理由のため絶食を行う患者が少なくない。糖尿病患者の場合、絶食によって血糖変動の予測が困難となり、急性合併症のリスクが高まる。.シンガポール国立大学のJoyce Yu-Chia Lee 氏と米カリフォルニア大学アーバイン校の研究者らは、ラマダン中の2型糖尿病患者の血糖コントロールの自己管理を補助するツールを開発した。これは、リスク評価や血糖自己測定(SMBG)の結果に基づく薬剤投与量変更の提案などを行うもので、「FAST」と名付けられている。.研究者らは、このFASTの有用性を97人の2型糖尿病患者で検討した。登録条件は、21歳以上、HbA1c9.5%以下、ラマダン中に10日以上絶食する意思があることで、腎機能が低下している人(eGFR30mL/分/1.73m2未満)や入院中の患者、ステロイド使用中の患者は除外した。.FASTを使用する群(46人)と使用しない群(51人)に無作為に分け、HbA1cの変化、低血糖の頻度などを検討した。ベースライン時の年齢は59.5±11.2歳、男性40.2%、BMI30.3±5.5、HbA1c7.8±0.9%、糖尿病罹病期間10年(中央値。四分位範囲5~20年)で、これらに有意差はなかった。ラマダン期間中に絶食した日数は両群ともに30日(中央値)だった。.FASTを使用した群はラマダンの前後でHbA1cが0.4%低下した。一方、使用しなかった群は0.1%の低下で、変化量に有意差が見られた(P=0.049)。空腹時血糖値もFAST使用群が3.6mg/dLの低下、非使用群は20.9mg/dLの上昇で有意差が見られた(P=0.034)。食後血糖値は同順に16.4mg/dL、2.3mg/dL低下していた。.低血糖の頻度には群間差がなかった。具体的には、自己申告による軽度の低血糖(症状から低血糖と判断し糖摂取せずに回復したもの)がFAST使用群14人(30.4%)、非使用群15人(29.4%)、SMBGで確認された軽度の低血糖(血糖値が72mg/dL未満であるが症状は伴わないもの)が同順に4人(8.7%)、6人(11.8%)、実際に生じた軽度の低血糖(血糖値が72mg/dL未満であり症状を伴うもの)が1人(2.2%)、5人(9.8%)で、いずれも群間差は非有意だった。.著者らは、「FASTのような血糖管理ツールは、糖尿病を抱えながらも戒律を順守しようとするイスラム教徒の安全な絶食の助けになる」と述べている。.この報告に関して、米ミシガン大学アナーバー校のJonathan Gabison氏は「糖尿病患者で絶食を考えている人は、医師の監督の下で実施することが大切」と指摘した上で、「さらなる研究が必要であるが、薬物療法の安全性を確保しながら間欠的絶食を行うプロトコルは、肥満や糖尿病の管理に有用な戦略となるかもしれない」との論説を寄せている。(HealthDay News 2020年 3月10日).https://consumer.healthday.com/diabetes-information-10/diabetes-management-news-180/new-tool-helps-muslims-with-diabetes-manage-blood-sugar-during-ramadan-fast-755507.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.
イスラム教徒のラマダン中の血糖管理を補助するツールが開発され、その有用性についての報告が「Annals of Family Medicine」3・4月号に掲載された。このツールを用いた群はラマダン終了後のHbA1cがツールを用いなかった群よりも有意に低く、かつ、絶食に伴う低血糖の増加は見られなかったという。イスラム教のラマダンは通常約1カ月にわたり、夜明けから日没までの間、喫煙、性的行動、摂食(薬物も含む)を控え絶食する。イスラム法では疾患のある者は絶食が免除されるが、社会文化的理由のため絶食を行う患者が少なくない。糖尿病患者の場合、絶食によって血糖変動の予測が困難となり、急性合併症のリスクが高まる。.シンガポール国立大学のJoyce Yu-Chia Lee 氏と米カリフォルニア大学アーバイン校の研究者らは、ラマダン中の2型糖尿病患者の血糖コントロールの自己管理を補助するツールを開発した。これは、リスク評価や血糖自己測定(SMBG)の結果に基づく薬剤投与量変更の提案などを行うもので、「FAST」と名付けられている。.研究者らは、このFASTの有用性を97人の2型糖尿病患者で検討した。登録条件は、21歳以上、HbA1c9.5%以下、ラマダン中に10日以上絶食する意思があることで、腎機能が低下している人(eGFR30mL/分/1.73m2未満)や入院中の患者、ステロイド使用中の患者は除外した。.FASTを使用する群(46人)と使用しない群(51人)に無作為に分け、HbA1cの変化、低血糖の頻度などを検討した。ベースライン時の年齢は59.5±11.2歳、男性40.2%、BMI30.3±5.5、HbA1c7.8±0.9%、糖尿病罹病期間10年(中央値。四分位範囲5~20年)で、これらに有意差はなかった。ラマダン期間中に絶食した日数は両群ともに30日(中央値)だった。.FASTを使用した群はラマダンの前後でHbA1cが0.4%低下した。一方、使用しなかった群は0.1%の低下で、変化量に有意差が見られた(P=0.049)。空腹時血糖値もFAST使用群が3.6mg/dLの低下、非使用群は20.9mg/dLの上昇で有意差が見られた(P=0.034)。食後血糖値は同順に16.4mg/dL、2.3mg/dL低下していた。.低血糖の頻度には群間差がなかった。具体的には、自己申告による軽度の低血糖(症状から低血糖と判断し糖摂取せずに回復したもの)がFAST使用群14人(30.4%)、非使用群15人(29.4%)、SMBGで確認された軽度の低血糖(血糖値が72mg/dL未満であるが症状は伴わないもの)が同順に4人(8.7%)、6人(11.8%)、実際に生じた軽度の低血糖(血糖値が72mg/dL未満であり症状を伴うもの)が1人(2.2%)、5人(9.8%)で、いずれも群間差は非有意だった。.著者らは、「FASTのような血糖管理ツールは、糖尿病を抱えながらも戒律を順守しようとするイスラム教徒の安全な絶食の助けになる」と述べている。.この報告に関して、米ミシガン大学アナーバー校のJonathan Gabison氏は「糖尿病患者で絶食を考えている人は、医師の監督の下で実施することが大切」と指摘した上で、「さらなる研究が必要であるが、薬物療法の安全性を確保しながら間欠的絶食を行うプロトコルは、肥満や糖尿病の管理に有用な戦略となるかもしれない」との論説を寄せている。(HealthDay News 2020年 3月10日).https://consumer.healthday.com/diabetes-information-10/diabetes-management-news-180/new-tool-helps-muslims-with-diabetes-manage-blood-sugar-during-ramadan-fast-755507.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.