磁気を用いて脳を刺激する経頭蓋磁気刺激(TMS)療法は、うつ病の治療選択肢の一つだが、それでもなお症状が改善しない患者は存在する。米スタンフォード大学精神医学のNolan Williams氏らは、従来のTMS療法をより強化した「シータバースト刺激(TBS)」をさらに集中的に行う新しい手法を開発。この手法が、標準的な抗うつ薬が効かない難治性のうつ病患者の症状改善に有用だったとする研究結果を「American Journal of Psychiatry」4月7日オンライン版に発表した。TMSとは、頭皮の上に置いた特殊なコイルを用いて発生させた磁力で、大脳皮質を局所的に刺激する治療法のこと。うつ病に関連する脳領域に非侵襲的に磁気刺激を与えることができる。現在、標準的な抗うつ薬治療が効かない難治性のうつ病の治療法として行われている。.Williams氏によると、TMS療法は通常、1日1回、6週間にわたり行う。この治療はうつ病の症状改善に有用だが、寛解に達する患者は約3人に1人にとどまるという。そこで同氏らは、難治性のうつ病患者を対象に、TMS療法を強化したTBSを改良して集中的に行う新しい手法の有用性を検討する研究を行った。.まず、Williams氏らは、過去の研究から得られた知見に基づき、治療をより集中的に行う新しいプロトコルを作成した。具体的には、1回の治療で磁気パルスの施行回数を増やし、施行頻度も1日当たり10回とし、5日間連続で治療を行った。.また、新しいプロトコルでは、治療目標の個別化を目指した。従来のTMS療法では、記憶や学習、抑制、判断など思考の幅広い脳機能に関与する「背外側前頭前皮質」と呼ばれる脳領域を刺激する。それに対し、Williams氏らは今回、対象患者に脳MRI検査を行い、背外側前頭前皮質内の「前部帯状回膝下部(sgACC)」と呼ばれる脳領域を標的とした。大うつ病患者ではこの領域が過活動になりやすく、局所的に刺激を与えると活動は弱まると考えられているという。.Williams氏らは、治療抵抗性のうつ病患者21人を対象に、この新しいプロトコルで治療を行った。その結果、対象患者のうち19人(90.5%)は、治療を受けてから数日以内に寛解に達したことが分かった。なお、寛解達成までの期間は平均で約3日だった。.Williams氏らは「この研究は小規模なものに過ぎないが、これまで難治性のうつ病に対する治療法の初期段階の研究で、90%もの高い治療成功率が報告されたことはなかった」としている。.専門家の一人で米国の非営利団体Brain & Behavior Research Foundationの会長を務めるJeffrey Borenstein氏は「有望な成績だ」とした上で、今回の研究は盲検化されておらず、偽治療を行う対照群がない初期段階のものであることを指摘。「今回の新たなプロトコルの有効性については、まだ明らかになっていない」と慎重な解釈を求めている。.Williams氏らの研究チームは今後、対照群を設定した大規模な臨床試験の実施を予定している。Borenstein氏は「今後の試験で、この新しい手法の有効性が確認された後には、治療効果が持続する期間や、治療効果を維持するためには再治療を必要とするのかなどが検討課題になるだろう」と述べている。(HealthDay News 2020年4月7日).https://consumer.healthday.com/cognitive-health-information-26/neurology-news-496/magnetic-brain-zap-shows-promise-against-severe-depression-756494.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.