貧困から抜け出して経済的成功を収めたとしても、それが心血管の健康の改善につながるわけではない―。そのような研究結果を、米ノースウェスタン大学政策研究所のGregory Miller氏らが報告した。貧困家庭で生まれ育ち、成人後に経済的な成功を収めて"社会的地位が上昇した"米国人は、生涯にわたって貧困生活を送る米国人と比べて、ストレスが少なく、抑うつ症状を抱えている人の割合も低いことが分かった。一方で、肥満や高血圧、高血糖、脂質異常症などを有する割合は、経済的レベルが向上した人たちと貧困層の人たちの間に差はなかったという。詳細は、「Journal of the American Heart Association」4月28日オンライン版に掲載された。Miller氏らが今回報告した研究は、1990年代に開始された米国の2件の研究(Add HealthとMIDUS)のデータに基づくもの。Add Healthからは、登録時(11〜20歳)と追跡時(24〜32歳)の関連データが全て揃った7,542人、MIDUSからは生体データの揃った成人(25〜78歳)1,877人が対象となった。.これらのデータを解析した結果、どちらの研究においても、貧困から抜け出せずにいる人と比べて、"社会的地位が上昇した"人では、知覚されたストレスおよび抑うつ症状が少なかった。しかし、腹部肥満や高血圧、高血糖、脂質異常症といった心疾患のリスク因子が重なるメタボリックシンドロームの有病率については、"社会的地位が上昇した"人の方が、有意差はないが、若干高かった(Add Health:29%対28%、MIDUS:44%対40%)。なお、生涯を通して社会経済的地位が高い人のメタボリックシンドロームの有病率は、Add Healthで24%、MIDUSで33%だった。.この報告を受けて、研究には関与していない米国心臓協会(AHA)のボランティアエキスパートで循環器医のNieca Goldberg氏は、「意外な結果とみる向きもあるだろう」と話す。高収入や良好なメンタルヘルスはいずれも、良好な身体的健康と関連することがこれまで一貫して示されてきたからだ。しかし、同氏は、今回のような研究結果となったのにはいくつかの要因が考えられるとする。「貧困から抜け出して経済的成功を収めた人たちは、全てを犠牲にして仕事を優先している可能性がある。そのため、運動する時間がなかったり、持ち帰り用の食品を大量に食べたりしているかもしれない」との見方を示す。また、「低収入の人と比べて高収入の人は、経済面や安全面で不安を抱く機会が少なく、精神的に良い状態を維持できるとも考えられるが、だからといって、彼らの生活習慣が健康的であるとは限らない」としている。.Miller氏も「運動する時間や体力を回復させるための休暇を取る時間がないことが、このような結果を生んだ要因の一つである可能性はある」と話し、Goldberg氏と同様の見解を示している。ただし、社会的地位が上昇した米国人では精神的苦痛が見られる頻度は低かったが、「研究で用いた精神的苦痛の評価法では、微妙な問題を拾えなかった可能性はある」と説明している。.Miller氏によると、社会経済的地位を上げるためのステップは、貧困家庭で生まれ育った子どもが逆境に打ち勝って大学に進学する場合のように、早い段階から始まることもある。入学以前に十分に学ぶ機会のなかった学生は、より有利な環境で育った同級生と比べて2倍の勉強量が必要になるかもしれない。その後も常に「自分は人一倍頑張らなくてはならない」という信念を持ち続ける人は少なくない。特に人種差別にさらされるマイノリティーにはこうした人が多い。しかし、このような努力を続けることは、ストレスホルモン値の上昇や血液細胞の老化に関連するとの研究結果がこれまでに報告されている。.経済的に上向きの人たちは収入が高いため、自分の親が直面していたような家賃や食費の支払いに伴う不安といった重大なストレス要因がない。しかし、Goldberg氏は「お金で健康を買うことはできない」と指摘し、「家族と散歩をするなど、シンプルなことで構わない。ハードワーカーの人たちは、自分自身をケアすることを忘れないでほしい」と呼び掛けている。(HealthDay News 2020年4月28日).https://consumer.healthday.com/cardiovascular-health-information-20/misc-stroke-related-heart-news-360/more-money-better-heart-health-not-always-757046.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.
貧困から抜け出して経済的成功を収めたとしても、それが心血管の健康の改善につながるわけではない―。そのような研究結果を、米ノースウェスタン大学政策研究所のGregory Miller氏らが報告した。貧困家庭で生まれ育ち、成人後に経済的な成功を収めて"社会的地位が上昇した"米国人は、生涯にわたって貧困生活を送る米国人と比べて、ストレスが少なく、抑うつ症状を抱えている人の割合も低いことが分かった。一方で、肥満や高血圧、高血糖、脂質異常症などを有する割合は、経済的レベルが向上した人たちと貧困層の人たちの間に差はなかったという。詳細は、「Journal of the American Heart Association」4月28日オンライン版に掲載された。Miller氏らが今回報告した研究は、1990年代に開始された米国の2件の研究(Add HealthとMIDUS)のデータに基づくもの。Add Healthからは、登録時(11〜20歳)と追跡時(24〜32歳)の関連データが全て揃った7,542人、MIDUSからは生体データの揃った成人(25〜78歳)1,877人が対象となった。.これらのデータを解析した結果、どちらの研究においても、貧困から抜け出せずにいる人と比べて、"社会的地位が上昇した"人では、知覚されたストレスおよび抑うつ症状が少なかった。しかし、腹部肥満や高血圧、高血糖、脂質異常症といった心疾患のリスク因子が重なるメタボリックシンドロームの有病率については、"社会的地位が上昇した"人の方が、有意差はないが、若干高かった(Add Health:29%対28%、MIDUS:44%対40%)。なお、生涯を通して社会経済的地位が高い人のメタボリックシンドロームの有病率は、Add Healthで24%、MIDUSで33%だった。.この報告を受けて、研究には関与していない米国心臓協会(AHA)のボランティアエキスパートで循環器医のNieca Goldberg氏は、「意外な結果とみる向きもあるだろう」と話す。高収入や良好なメンタルヘルスはいずれも、良好な身体的健康と関連することがこれまで一貫して示されてきたからだ。しかし、同氏は、今回のような研究結果となったのにはいくつかの要因が考えられるとする。「貧困から抜け出して経済的成功を収めた人たちは、全てを犠牲にして仕事を優先している可能性がある。そのため、運動する時間がなかったり、持ち帰り用の食品を大量に食べたりしているかもしれない」との見方を示す。また、「低収入の人と比べて高収入の人は、経済面や安全面で不安を抱く機会が少なく、精神的に良い状態を維持できるとも考えられるが、だからといって、彼らの生活習慣が健康的であるとは限らない」としている。.Miller氏も「運動する時間や体力を回復させるための休暇を取る時間がないことが、このような結果を生んだ要因の一つである可能性はある」と話し、Goldberg氏と同様の見解を示している。ただし、社会的地位が上昇した米国人では精神的苦痛が見られる頻度は低かったが、「研究で用いた精神的苦痛の評価法では、微妙な問題を拾えなかった可能性はある」と説明している。.Miller氏によると、社会経済的地位を上げるためのステップは、貧困家庭で生まれ育った子どもが逆境に打ち勝って大学に進学する場合のように、早い段階から始まることもある。入学以前に十分に学ぶ機会のなかった学生は、より有利な環境で育った同級生と比べて2倍の勉強量が必要になるかもしれない。その後も常に「自分は人一倍頑張らなくてはならない」という信念を持ち続ける人は少なくない。特に人種差別にさらされるマイノリティーにはこうした人が多い。しかし、このような努力を続けることは、ストレスホルモン値の上昇や血液細胞の老化に関連するとの研究結果がこれまでに報告されている。.経済的に上向きの人たちは収入が高いため、自分の親が直面していたような家賃や食費の支払いに伴う不安といった重大なストレス要因がない。しかし、Goldberg氏は「お金で健康を買うことはできない」と指摘し、「家族と散歩をするなど、シンプルなことで構わない。ハードワーカーの人たちは、自分自身をケアすることを忘れないでほしい」と呼び掛けている。(HealthDay News 2020年4月28日).https://consumer.healthday.com/cardiovascular-health-information-20/misc-stroke-related-heart-news-360/more-money-better-heart-health-not-always-757046.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.