手術を受けた後の患者には、下肢の血流を良くする目的で弾性ストッキングが用いられてきた。病床にある患者の下肢の静脈で血栓が形成されないようにするためである。しかし、この不快なストッキングを患者に履かせる必要はないとする報告が、「BMJ」5月13日オンライン版に掲載された。この論文の上席著者である英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)のAlun Davies氏によると、手術後の血栓症発症率は、長年にわたり劇的に低下してきた。これは、術後早期から患者を歩かせて、早めの退院を図るなど、治療がさまざまに改善されたことによるという。Davies氏らは今回、主に消化管手術または婦人科手術を受ける予定であった18歳以上の患者1,905人を、術後に低分子量ヘパリンによる標準的薬物療法を受ける群(薬物療法のみの群)、または同薬物療法に加え弾性ストッキングを着用する群(弾性ストッキング併用群)に、ランダムに割り付けた。年齢、肥満、心疾患などの健康状態に基づく対象者の静脈血栓塞栓症リスクは、中等度もしくは高度のいずれかであった。このうち、実際に手術を受けた1,858人(薬物療法のみの群937人、弾性ストッキング併用群921人)を対象に、ITT(治療企図)解析を行い、通常の薬物療法に加えて弾性ストッキングを用いることにベネフィットがあるのかを検証した。.その結果、90日以内に静脈血栓塞栓症が生じたのは、薬物療法のみの群で1.7%(16/937人)、弾性ストッキング併用群で1.4%(13/921人)であった。両群のリスク差は0.30%あり、95%信頼区間(−0.65%〜1.26%)が非劣性マージン(3.5%)を超えなかったため、薬物療法単独が、薬物療法+弾性ストッキング併用に対して劣っていないことが示された。.米Hospital for Special SurgeryのMichael Ast氏は、この結果に驚きはないとし、「医師らはもはや弾性ストッキングを使用していない。血栓を防ぐ最善策は、患者を起き上がらせ、動き回らせることだ」と説明する。しかし、同氏は弾性ストッキングの利点にも言及し、「脚がむくみやすい人では、むくみにより痛みが生じて可動性が妨げられるため、弾性ストッキングが必要かもしれない」との見方を示している。そのような場合、Ast氏は通常、退院後1カ月間の弾性ストッキング着用を勧めているという。.Ast氏によると、現在では、術後の血栓症は一般的ではなく、発症した場合にも問題はないことが多いが、かつては今よりはるかに大きな懸念事項だったという。例えば1970~1980年代では、股関節・膝関節置換術後の血栓症発症率は25%にも及んでいたという。しかし、年を経て状況は大きく変化。疼痛管理の向上もあり、現在では、早期に動くことが重要であるという認識が重視されている。血栓予防の薬物療法も進歩しており、注射で投与し出血性合併症のリスクを伴うヘパリンの代わりに、小児用アスピリンの服用も選択肢に加えられている。下肢血栓症で主に心配されるのは、血栓がはがれて肺に到達して肺塞栓症を生じることであり、これは生命を脅かすこともある。今回の研究では、対象者のうち3人(全員65歳以上)に肺塞栓症が生じた。.退院後のことについてAst氏は「動くこと以上に重要なことはない。われわれは患者に退院後、たとえ多少の痛みを伴っても、1時間に1回は立ち上がって動くよう勧めている」と述べている。(HealthDay News 2020年5月14日).https://consumer.healthday.com/general-health-information-16/inflammation-news-757/compression-stockings-may-not-be-needed-after-surgeries-study-finds-757691.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.
手術を受けた後の患者には、下肢の血流を良くする目的で弾性ストッキングが用いられてきた。病床にある患者の下肢の静脈で血栓が形成されないようにするためである。しかし、この不快なストッキングを患者に履かせる必要はないとする報告が、「BMJ」5月13日オンライン版に掲載された。この論文の上席著者である英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)のAlun Davies氏によると、手術後の血栓症発症率は、長年にわたり劇的に低下してきた。これは、術後早期から患者を歩かせて、早めの退院を図るなど、治療がさまざまに改善されたことによるという。Davies氏らは今回、主に消化管手術または婦人科手術を受ける予定であった18歳以上の患者1,905人を、術後に低分子量ヘパリンによる標準的薬物療法を受ける群(薬物療法のみの群)、または同薬物療法に加え弾性ストッキングを着用する群(弾性ストッキング併用群)に、ランダムに割り付けた。年齢、肥満、心疾患などの健康状態に基づく対象者の静脈血栓塞栓症リスクは、中等度もしくは高度のいずれかであった。このうち、実際に手術を受けた1,858人(薬物療法のみの群937人、弾性ストッキング併用群921人)を対象に、ITT(治療企図)解析を行い、通常の薬物療法に加えて弾性ストッキングを用いることにベネフィットがあるのかを検証した。.その結果、90日以内に静脈血栓塞栓症が生じたのは、薬物療法のみの群で1.7%(16/937人)、弾性ストッキング併用群で1.4%(13/921人)であった。両群のリスク差は0.30%あり、95%信頼区間(−0.65%〜1.26%)が非劣性マージン(3.5%)を超えなかったため、薬物療法単独が、薬物療法+弾性ストッキング併用に対して劣っていないことが示された。.米Hospital for Special SurgeryのMichael Ast氏は、この結果に驚きはないとし、「医師らはもはや弾性ストッキングを使用していない。血栓を防ぐ最善策は、患者を起き上がらせ、動き回らせることだ」と説明する。しかし、同氏は弾性ストッキングの利点にも言及し、「脚がむくみやすい人では、むくみにより痛みが生じて可動性が妨げられるため、弾性ストッキングが必要かもしれない」との見方を示している。そのような場合、Ast氏は通常、退院後1カ月間の弾性ストッキング着用を勧めているという。.Ast氏によると、現在では、術後の血栓症は一般的ではなく、発症した場合にも問題はないことが多いが、かつては今よりはるかに大きな懸念事項だったという。例えば1970~1980年代では、股関節・膝関節置換術後の血栓症発症率は25%にも及んでいたという。しかし、年を経て状況は大きく変化。疼痛管理の向上もあり、現在では、早期に動くことが重要であるという認識が重視されている。血栓予防の薬物療法も進歩しており、注射で投与し出血性合併症のリスクを伴うヘパリンの代わりに、小児用アスピリンの服用も選択肢に加えられている。下肢血栓症で主に心配されるのは、血栓がはがれて肺に到達して肺塞栓症を生じることであり、これは生命を脅かすこともある。今回の研究では、対象者のうち3人(全員65歳以上)に肺塞栓症が生じた。.退院後のことについてAst氏は「動くこと以上に重要なことはない。われわれは患者に退院後、たとえ多少の痛みを伴っても、1時間に1回は立ち上がって動くよう勧めている」と述べている。(HealthDay News 2020年5月14日).https://consumer.healthday.com/general-health-information-16/inflammation-news-757/compression-stockings-may-not-be-needed-after-surgeries-study-finds-757691.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.