急性冠症候群(心筋梗塞や不安定狭心症。ACS)の成因は季節で異なる可能性が報告された。プラーク破綻によるACSの発症率は冬に高く、プラークびらんによる発症率は夏に高いという結果である。日本を含む6カ国の国際研究の結果であり、詳細は「Journal of the American Heart Association」7月2日オンライン版に掲載された。ACSは冠動脈内の血栓形成を主病因とし、血栓により内腔が急速に狭窄・閉塞することで心筋が虚血や壊死に陥る疾患である。ACSを引き起こすメカニズムは病理学的には、(1)線維性被膜の破裂により血栓形成を来す「プラーク破綻」、(2)線維性被膜の破裂を伴わずに軽微な内膜障害部位に血栓が形成される「プラークびらん」、(3)結節状の石灰化が血管内腔に突出して血栓症を来す「石灰化プラーク」と、3パターンに分類される。.一方、血管内画像診断法の一つである光干渉断層法(OCT)は、近赤外線を用いてプラークを含む冠動脈壁や血栓の画像を構築するシステムで、高い解像度をもつことが特長。そのためOCTは、これらの病態の識別に優れている。.以前からACSは冬に発症率、死亡率が増加する傾向があるという報告があったが、成因ごとに季節により差があるかどうかを検討したデータはなかった。日本医科大学千葉北総病院循環器内科の高野雅充氏、米マサチューセッツ総合病院循環器科の栗原理氏らは、ACSの国際レジストリのデータから、OCTにより責任病変の性状評価が行われていてACSの成因が判定可能な症例を抽出、前記3パターンの季節性の有無を検討した。.解析対象数は1,113人(平均年齢65.8±11.6歳、男性79.5%)で、春の発症が284人(25%)、夏が243人(22%)、秋が290人(26%)、冬が296人(27%)であった。全体の75.6%は日本で登録された症例だった。.臨床経過を知らされていない2人の解析者がOCT画像を基にACSの成因を判定し、判定が一致しない場合には3人目の解析者を含めて検討し最終判断した。その結果、ACSの成因の内訳はプラーク破綻が561人(50%)、プラークびらんが417人(38%)、石灰化プラークが135人(12%)と分類された。.季節別の検討では、プラーク破綻、プラークびらん、石灰化プラークの順に、春は50%、39%、11%、夏は44%、43%、13%、秋は49%、39%、12%、冬は57%、30%、13%であり、プラーク破綻の割合が全ての季節を通じて多いものの、その頻度は冬では特に高く、夏は低かった(P=0.039)。対照的にプラークびらんによるACSの割合は夏に高く、冬に低い傾向が認められた。石灰化プラークは季節性変動が見られなかった。.年齢や性別、脂質異常症、高血圧症、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、喫煙などの冠危険因子による影響を多変量解析で調整した後に季節別のリスクを検討すると、冬はプラーク破綻によるACSのリスクが有意に高く(夏に対するオッズ比1.652、95%信頼区間1.157~2.359)、冬のプラークびらんによるACSのリスクは有意に低かった(オッズ比0.623、95%信頼区間0.429~0.905)。.冬は血圧が上昇する傾向があり、冠動脈のプラーク破綻を起こしやすいことが想定されるが、本検討においても冬にプラーク破綻で発症した症例における高血圧症の有病率は、夏に比べて有意に高かった(P=0.010)。一方、プラークびらんや石灰化プラークによるACSの高血圧症有病率は、季節による有意差を認めなかった。.これらの結果から著者らは、「ACSの成因に季節性の差がある可能性が示された。成因としてのプラーク破綻は冬に多く、プラークびらんは夏に多い。ACSの予防には季節ごとのアプローチが必要であろう」とまとめている。なお、冬にプラーク破綻による発症が増える理由として、血圧、冠動脈内圧が上昇しやすいこと、夏にプラークびらんによる発症が増える理由として、軽微な内膜障害部位にも脱水の影響で血栓が形成されやすくなる可能性の影響を指摘している。(HealthDay News 2020年7月27日).Abstract/Full Texthttps://www.ahajournals.org/doi/10.1161/JAHA.119.015579.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.
急性冠症候群(心筋梗塞や不安定狭心症。ACS)の成因は季節で異なる可能性が報告された。プラーク破綻によるACSの発症率は冬に高く、プラークびらんによる発症率は夏に高いという結果である。日本を含む6カ国の国際研究の結果であり、詳細は「Journal of the American Heart Association」7月2日オンライン版に掲載された。ACSは冠動脈内の血栓形成を主病因とし、血栓により内腔が急速に狭窄・閉塞することで心筋が虚血や壊死に陥る疾患である。ACSを引き起こすメカニズムは病理学的には、(1)線維性被膜の破裂により血栓形成を来す「プラーク破綻」、(2)線維性被膜の破裂を伴わずに軽微な内膜障害部位に血栓が形成される「プラークびらん」、(3)結節状の石灰化が血管内腔に突出して血栓症を来す「石灰化プラーク」と、3パターンに分類される。.一方、血管内画像診断法の一つである光干渉断層法(OCT)は、近赤外線を用いてプラークを含む冠動脈壁や血栓の画像を構築するシステムで、高い解像度をもつことが特長。そのためOCTは、これらの病態の識別に優れている。.以前からACSは冬に発症率、死亡率が増加する傾向があるという報告があったが、成因ごとに季節により差があるかどうかを検討したデータはなかった。日本医科大学千葉北総病院循環器内科の高野雅充氏、米マサチューセッツ総合病院循環器科の栗原理氏らは、ACSの国際レジストリのデータから、OCTにより責任病変の性状評価が行われていてACSの成因が判定可能な症例を抽出、前記3パターンの季節性の有無を検討した。.解析対象数は1,113人(平均年齢65.8±11.6歳、男性79.5%)で、春の発症が284人(25%)、夏が243人(22%)、秋が290人(26%)、冬が296人(27%)であった。全体の75.6%は日本で登録された症例だった。.臨床経過を知らされていない2人の解析者がOCT画像を基にACSの成因を判定し、判定が一致しない場合には3人目の解析者を含めて検討し最終判断した。その結果、ACSの成因の内訳はプラーク破綻が561人(50%)、プラークびらんが417人(38%)、石灰化プラークが135人(12%)と分類された。.季節別の検討では、プラーク破綻、プラークびらん、石灰化プラークの順に、春は50%、39%、11%、夏は44%、43%、13%、秋は49%、39%、12%、冬は57%、30%、13%であり、プラーク破綻の割合が全ての季節を通じて多いものの、その頻度は冬では特に高く、夏は低かった(P=0.039)。対照的にプラークびらんによるACSの割合は夏に高く、冬に低い傾向が認められた。石灰化プラークは季節性変動が見られなかった。.年齢や性別、脂質異常症、高血圧症、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、喫煙などの冠危険因子による影響を多変量解析で調整した後に季節別のリスクを検討すると、冬はプラーク破綻によるACSのリスクが有意に高く(夏に対するオッズ比1.652、95%信頼区間1.157~2.359)、冬のプラークびらんによるACSのリスクは有意に低かった(オッズ比0.623、95%信頼区間0.429~0.905)。.冬は血圧が上昇する傾向があり、冠動脈のプラーク破綻を起こしやすいことが想定されるが、本検討においても冬にプラーク破綻で発症した症例における高血圧症の有病率は、夏に比べて有意に高かった(P=0.010)。一方、プラークびらんや石灰化プラークによるACSの高血圧症有病率は、季節による有意差を認めなかった。.これらの結果から著者らは、「ACSの成因に季節性の差がある可能性が示された。成因としてのプラーク破綻は冬に多く、プラークびらんは夏に多い。ACSの予防には季節ごとのアプローチが必要であろう」とまとめている。なお、冬にプラーク破綻による発症が増える理由として、血圧、冠動脈内圧が上昇しやすいこと、夏にプラークびらんによる発症が増える理由として、軽微な内膜障害部位にも脱水の影響で血栓が形成されやすくなる可能性の影響を指摘している。(HealthDay News 2020年7月27日).Abstract/Full Texthttps://www.ahajournals.org/doi/10.1161/JAHA.119.015579.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.