脳梗塞患者に対し、血圧計のカフを用いて上腕の圧迫を繰り返す「遠隔虚血ポストコンディショニング」という治療を行うことで、予後が改善する可能性が報告された。西安交通大学(中国)のGuo-liang Li氏らの研究によるもので、詳細は「Neurology」10月7日オンライン版に掲載された。脳梗塞の発症から4.5時間以内の急性期には、t-PAと呼ばれる血栓を溶かす薬を用いた治療が行われるが、t-PAを使っても血栓が溶けないことがある。その他の急性期治療も奏効しない場合には、麻痺などの障害が残り、リハビリテーションが必要になる。.今回の研究で行われた遠隔虚血ポストコンディショニング(remote ischemic post-conditioning;RIPC)とは、治療の目標臓器(脳)から離れた部位の血管の血流を短時間遮断し(遠隔虚血し)、それを解除することを繰り返すというもの。脳梗塞の後に血管機能の回復(ポストコンディショニング)を図ることを目的とする。中国のほかに欧州などでもこの方法が研究されており、血流に変化が生じて血管機能が向上し、脳梗塞などによる組織損傷を抑制する可能性が、複数の報告から示唆されている。.Li氏らは、t-PA治療を行った脳梗塞患者68人(平均年齢65歳)をランダムに34人ずつの2群に分類。一方にはRIPCを施行、他方は対照群とした。RIPCは、血圧計のカフを両腕に巻き、5分間の圧迫と3分間の解除を計40分間繰り返すという方法で、これを入院期間中1日2回行った。平均入院期間は11.2日だった。入院時点で、両群の重症度(NIHSSスコア)に有意差はなく(P=0.364)、入院期間も同等だった(P=0.889)。.エンドポイントは、脳梗塞後の予後評価に頻用される「修正ランキンスケール(mRS)」の0点(症状なし)または1点(症状はあるが明らかな障害はない)に該当する患者の割合とした。また、脳損傷のマーカー(S100β)や血管内皮増殖因子(VEGF)も評価した。.3カ月後、mRSが0~1点だった患者の割合は、RIPC群71.9%、対照群50.0%であり、年齢や脳梗塞の重症度など、結果に影響し得る因子を調整後も、RIPC群の方が有意に高かった(調整リスク比9.85、95%信頼区間1.54~63.16、P=0.016)。また、RIPC群は血漿S100βが有意に低く(P=0.007)、VEGFは有意に高いことが確認された(P=0.003)。.この結果からLi氏は、「RIPCは臨床的意義のある治療法で、有望であることが示された。非侵襲的で手技は容易であり、費用対効果や安全性も高いなど、さまざまな利点がある」と述べている。.同氏によると、t-PA治療は多くの脳梗塞患者の命を救ってきたが、それでも患者の32%は十分な効果が得られないという。t-PA投与にもかかわらず血流が回復しないことが予後不良の一因とされる。こうした中、「RIPCは脳梗塞患者の予後を向上させるための補完的治療法になり得る」と期待を寄せている。ただし同氏は、この治療法がまだ実験的な段階であることを強調し、患者が家庭で行ったりしないよう注意を呼び掛けている。.一方、米ケンタッキー大学のLarry Goldstein氏は、この治療法について、「腕を虚血状態にすることは恐らく患者にとって不快だろう。しかしそれが脳梗塞後の回復に役立つのであれば、患者は受け入れるのではないか」と述べている。ただし、「RIPCが血管機能を改善するのか否かについてはさまざまな意見がある」とし、「より大規模かつ適切にデザインされた多施設共同研究を行い、臨床的な有用性を検討する必要がある」と解説している。(HealthDay News 2020年10月8日).https://consumer.healthday.com/cardiovascular-health-information-20/heart-stroke-related-stroke-353/arm-squeezes-with-blood-pressure-cuffs-might-aid-recovery-after-stroke-761979.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.
脳梗塞患者に対し、血圧計のカフを用いて上腕の圧迫を繰り返す「遠隔虚血ポストコンディショニング」という治療を行うことで、予後が改善する可能性が報告された。西安交通大学(中国)のGuo-liang Li氏らの研究によるもので、詳細は「Neurology」10月7日オンライン版に掲載された。脳梗塞の発症から4.5時間以内の急性期には、t-PAと呼ばれる血栓を溶かす薬を用いた治療が行われるが、t-PAを使っても血栓が溶けないことがある。その他の急性期治療も奏効しない場合には、麻痺などの障害が残り、リハビリテーションが必要になる。.今回の研究で行われた遠隔虚血ポストコンディショニング(remote ischemic post-conditioning;RIPC)とは、治療の目標臓器(脳)から離れた部位の血管の血流を短時間遮断し(遠隔虚血し)、それを解除することを繰り返すというもの。脳梗塞の後に血管機能の回復(ポストコンディショニング)を図ることを目的とする。中国のほかに欧州などでもこの方法が研究されており、血流に変化が生じて血管機能が向上し、脳梗塞などによる組織損傷を抑制する可能性が、複数の報告から示唆されている。.Li氏らは、t-PA治療を行った脳梗塞患者68人(平均年齢65歳)をランダムに34人ずつの2群に分類。一方にはRIPCを施行、他方は対照群とした。RIPCは、血圧計のカフを両腕に巻き、5分間の圧迫と3分間の解除を計40分間繰り返すという方法で、これを入院期間中1日2回行った。平均入院期間は11.2日だった。入院時点で、両群の重症度(NIHSSスコア)に有意差はなく(P=0.364)、入院期間も同等だった(P=0.889)。.エンドポイントは、脳梗塞後の予後評価に頻用される「修正ランキンスケール(mRS)」の0点(症状なし)または1点(症状はあるが明らかな障害はない)に該当する患者の割合とした。また、脳損傷のマーカー(S100β)や血管内皮増殖因子(VEGF)も評価した。.3カ月後、mRSが0~1点だった患者の割合は、RIPC群71.9%、対照群50.0%であり、年齢や脳梗塞の重症度など、結果に影響し得る因子を調整後も、RIPC群の方が有意に高かった(調整リスク比9.85、95%信頼区間1.54~63.16、P=0.016)。また、RIPC群は血漿S100βが有意に低く(P=0.007)、VEGFは有意に高いことが確認された(P=0.003)。.この結果からLi氏は、「RIPCは臨床的意義のある治療法で、有望であることが示された。非侵襲的で手技は容易であり、費用対効果や安全性も高いなど、さまざまな利点がある」と述べている。.同氏によると、t-PA治療は多くの脳梗塞患者の命を救ってきたが、それでも患者の32%は十分な効果が得られないという。t-PA投与にもかかわらず血流が回復しないことが予後不良の一因とされる。こうした中、「RIPCは脳梗塞患者の予後を向上させるための補完的治療法になり得る」と期待を寄せている。ただし同氏は、この治療法がまだ実験的な段階であることを強調し、患者が家庭で行ったりしないよう注意を呼び掛けている。.一方、米ケンタッキー大学のLarry Goldstein氏は、この治療法について、「腕を虚血状態にすることは恐らく患者にとって不快だろう。しかしそれが脳梗塞後の回復に役立つのであれば、患者は受け入れるのではないか」と述べている。ただし、「RIPCが血管機能を改善するのか否かについてはさまざまな意見がある」とし、「より大規模かつ適切にデザインされた多施設共同研究を行い、臨床的な有用性を検討する必要がある」と解説している。(HealthDay News 2020年10月8日).https://consumer.healthday.com/cardiovascular-health-information-20/heart-stroke-related-stroke-353/arm-squeezes-with-blood-pressure-cuffs-might-aid-recovery-after-stroke-761979.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.