おしっこに行くタイミングを知らせるプロセスが、触覚などに関連するセンサータンパク質によって担われていることが、米スクリプス研究所のArdem Patapoutian氏らによって発見された。PIEZO2と呼ばれるこのタンパク質は、膀胱が尿で満たされて排出が必要になったときに、それを感知する2種類の細胞の働きを助ける役割を担っている可能性が示唆されたという。米国立衛生研究所(NIH)の研究者も参加したこの研究の詳細は、「Nature」10月14日オンライン版に掲載された。PIEZO2遺伝子の情報を基に合成されるPIEZO2タンパク質は、細胞が引き延ばされたり圧迫されたりした際に活性化する。このタンパク質は、Patapoutian氏らによって2010年に同定された。その後、同氏を含む研究者たちによるマウスを用いた実験で、PIEZO2タンパク質が体の至る場所に存在し、触覚や痛みの感知など、多くの重要な機能を担っていることが明らかになった。さらにNIHの研究グループが2015年に実施した研究から、PIEZO2遺伝子に変異を持つ人々の存在が確認された。こうした人々は、固有受容性感覚がなく、何かに触れたときの感触や痛みを感じることもなかったという。また、彼らには、膀胱が尿でいっぱいになっても、それを感知することが難しいという共通点があることも判明した。.今回の研究論文の共著者であるNIHのDimah Saade氏は、「患者や家族への聞き取り調査で、われわれは衝撃を受けた。ほぼ全ての人が、患者に排尿の問題があることを口にしたのだ。こうした患者には、小児期にトイレトレーニングがうまくいかなかった経験があり、尿路感染症に頻繁に罹患していた。また、1日の排尿スケジュールに従って排尿を行っているという人がほとんどだった。こうした共通の特徴があることを知り、われわれはさらに詳細に調べることにした」と説明する。.今回の研究では、PIEZO2遺伝子にタンパク質の機能を損なう変異がある5〜43歳の人12人が対象とされた。研究チームは対象者の診療録を調べ、膀胱の超音波検査や膀胱機能の状態を確認するための質問票での調査を実施したほか、対象者とその家族に詳細な面接を行った。.これらの調査から、全ての人で1日当たりの排尿回数が健康な人の平均回数(5~6回)を下回っていることが判明した。また、大半の対象者は、尿意を感じないまま1日を過ごしてしまうことがあるため、排尿スケジュールに従って排尿していた。研究チームは、こうした結果はPIEZO2タンパク質が排尿に関与していることを強く示唆するものであると考え、マウスを用いた実験により、その仕組みの解明に乗り出した。.その結果、マウスの膀胱から脳へと神経シグナルを伝達するいくつかの後根神経節(脊髄後根にある神経節)の神経細胞(ニューロン)と、膀胱の内側の表層細胞(アンブレラ細胞)で、PIEZO2遺伝子の発現が確認された。尿意は、膀胱の細胞から後根神経節を通って脳に情報が伝達されて発生する。また、細胞をリアルタイムで画像化できるイメージングシステムを使った観察で、マウスの膀胱が満たされると、細胞が明るく光り、活性化していることが確認された。さらに、これらのニューロンと表層細胞からPIEZO2遺伝子を欠損させると、マウスの排尿のタイミングに乱れが生じ、排尿間隔も長くなることが示された。.Patapoutian氏は、「排尿は健康を保つために欠かせない行為であり、体から不必要なものを排出する主な方法の一つである。われわれの研究により、特定の遺伝子と細胞が、排尿のプロセス開始に重要な役割を果たしている可能性が示された。この結果を受けて、健康な状態あるいは疾患がある状態における排尿の仕組みの解明が進むことに期待している」と話している。.一方、NIHのNima Ghitani氏は、「この研究結果は、尿路におけるPIEZO2遺伝子の働きを解明するための最初の手掛かりとなるものだ。これらの結果から、PIEZO2遺伝子が膀胱の調節に関わっている可能性が示された」と説明している。(HealthDay News 2020年10月26日).https://consumer.healthday.com/health-technology-information-18/genetics-news-334/need-to-pee-scientists-may-have-found-the-gene-for-that-762357.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.
おしっこに行くタイミングを知らせるプロセスが、触覚などに関連するセンサータンパク質によって担われていることが、米スクリプス研究所のArdem Patapoutian氏らによって発見された。PIEZO2と呼ばれるこのタンパク質は、膀胱が尿で満たされて排出が必要になったときに、それを感知する2種類の細胞の働きを助ける役割を担っている可能性が示唆されたという。米国立衛生研究所(NIH)の研究者も参加したこの研究の詳細は、「Nature」10月14日オンライン版に掲載された。PIEZO2遺伝子の情報を基に合成されるPIEZO2タンパク質は、細胞が引き延ばされたり圧迫されたりした際に活性化する。このタンパク質は、Patapoutian氏らによって2010年に同定された。その後、同氏を含む研究者たちによるマウスを用いた実験で、PIEZO2タンパク質が体の至る場所に存在し、触覚や痛みの感知など、多くの重要な機能を担っていることが明らかになった。さらにNIHの研究グループが2015年に実施した研究から、PIEZO2遺伝子に変異を持つ人々の存在が確認された。こうした人々は、固有受容性感覚がなく、何かに触れたときの感触や痛みを感じることもなかったという。また、彼らには、膀胱が尿でいっぱいになっても、それを感知することが難しいという共通点があることも判明した。.今回の研究論文の共著者であるNIHのDimah Saade氏は、「患者や家族への聞き取り調査で、われわれは衝撃を受けた。ほぼ全ての人が、患者に排尿の問題があることを口にしたのだ。こうした患者には、小児期にトイレトレーニングがうまくいかなかった経験があり、尿路感染症に頻繁に罹患していた。また、1日の排尿スケジュールに従って排尿を行っているという人がほとんどだった。こうした共通の特徴があることを知り、われわれはさらに詳細に調べることにした」と説明する。.今回の研究では、PIEZO2遺伝子にタンパク質の機能を損なう変異がある5〜43歳の人12人が対象とされた。研究チームは対象者の診療録を調べ、膀胱の超音波検査や膀胱機能の状態を確認するための質問票での調査を実施したほか、対象者とその家族に詳細な面接を行った。.これらの調査から、全ての人で1日当たりの排尿回数が健康な人の平均回数(5~6回)を下回っていることが判明した。また、大半の対象者は、尿意を感じないまま1日を過ごしてしまうことがあるため、排尿スケジュールに従って排尿していた。研究チームは、こうした結果はPIEZO2タンパク質が排尿に関与していることを強く示唆するものであると考え、マウスを用いた実験により、その仕組みの解明に乗り出した。.その結果、マウスの膀胱から脳へと神経シグナルを伝達するいくつかの後根神経節(脊髄後根にある神経節)の神経細胞(ニューロン)と、膀胱の内側の表層細胞(アンブレラ細胞)で、PIEZO2遺伝子の発現が確認された。尿意は、膀胱の細胞から後根神経節を通って脳に情報が伝達されて発生する。また、細胞をリアルタイムで画像化できるイメージングシステムを使った観察で、マウスの膀胱が満たされると、細胞が明るく光り、活性化していることが確認された。さらに、これらのニューロンと表層細胞からPIEZO2遺伝子を欠損させると、マウスの排尿のタイミングに乱れが生じ、排尿間隔も長くなることが示された。.Patapoutian氏は、「排尿は健康を保つために欠かせない行為であり、体から不必要なものを排出する主な方法の一つである。われわれの研究により、特定の遺伝子と細胞が、排尿のプロセス開始に重要な役割を果たしている可能性が示された。この結果を受けて、健康な状態あるいは疾患がある状態における排尿の仕組みの解明が進むことに期待している」と話している。.一方、NIHのNima Ghitani氏は、「この研究結果は、尿路におけるPIEZO2遺伝子の働きを解明するための最初の手掛かりとなるものだ。これらの結果から、PIEZO2遺伝子が膀胱の調節に関わっている可能性が示された」と説明している。(HealthDay News 2020年10月26日).https://consumer.healthday.com/health-technology-information-18/genetics-news-334/need-to-pee-scientists-may-have-found-the-gene-for-that-762357.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.