睡眠時間や身体活動が少ないとメンタル面に悪影響が現れることは、多くの人が理解している。しかし、1日は24時間だ。例えば睡眠時間を増やすには何か別の時間を減らさなければならない。では、何の時間を減らすことが効果的なのか?この悩ましい問題の解決につながる研究結果が報告された。平日の座位行動や低強度身体活動(ゆっくり歩行や家事など)の時間を1時間減らし、それを睡眠時間に充てると、メンタル不調を抱えたり仕事への意欲が低下したりする確率が減ると試算された。一方で中~高強度の身体活動時間(運動やスポーツなど)を加減してもメンタル面への影響はそれほど大きくないという結果であった。明治安田厚生事業団体力医学研究所の北濃成樹氏、甲斐裕子氏らの研究によるもので、詳細は「Preventive Medicine Reports」12月号に掲載された。.北濃氏らは、生活習慣と健康との関係を継続調査している「明治安田ライフスタイル研究(MYLSスタディ)」の一環として、1日の行動とメンタルヘルスとの関連を検討した。データ解析には、ある行動に充てる時間を増やしてその他の行動の時間を減らすという、時間配分変更の影響を総合的に判定可能な、組成データ解析(compositional data analysis:CoDA)という統計手法を用いた。.研究参加者は明治安田新宿健診センターを受診した労働者のうち、10日間加速度計を装着して生活することに同意した1,647人。加速度計の記録と、睡眠時間に関する調査から、24時間をどのように過ごしているかを分析。メンタルヘルスは、心理的ストレスと、ワークエンゲイジメント(仕事への活力)を評価した。心理的ストレスの評価には、K6スコアという指標を用い、スコアが5点を超える場合を、心理的ストレスがある状態と判定。ワークエンゲイジメントの評価には、UWES-9スコアという指標を用い、スコアが3点未満の場合を、ワークエンゲイジメントが低下した状態と判定した。.加速度計の記録が不十分な人や精神疾患罹患者、睡眠薬服用者などを除いて、1,095人のデータを解析に用いた。平均年齢は50.2±9.5歳、女性が68.6%を占め、23.4%が営業職であり、大半は短大卒以上のフルタイム勤務者だった。.24時間の行動とメンタルヘルスの関連をゆがめる可能性のある因子(年齢、性別、BMI、学歴、経済状態、婚姻状況、飲酒・喫煙習慣、職種、雇用形態、残業時間)で調整後の解析で、平日の時間配分とメンタルヘルスに、有意な関連が認められた。具体的には、睡眠時間が長いほど心理的ストレスが低く〔K6スコア5点超のオッズ比(OR)0.20、95%信頼区間0.10~0.44〕、ワークエンゲイジメントが高く維持されていた(UWES-9スコア3点未満のOR0.41、同0.20~0.81)。一方、中~高強度身体活動の時間に関しては、メンタルヘルスと関連がなかった。また、休日の睡眠や身体活動の時間は、いずれもメンタルヘルスと関連がなかった。.さらに、座位行動や低強度身体活動の時間を減らして、それを睡眠に充てることで、メンタル面の問題を抱えにくい可能性があると明らかになった。例えば1日に60分の座位行動を睡眠に充てた場合、心理的ストレスを抱える確率が20.2%減少し、ワークエンゲイジメントが低下する確率が11.4%減少すると推計された。また60分の低強度身体活動を睡眠に充てた場合は、心理的ストレスを抱える確率が26.6%減少すると考えられた。.著者らは、「平日の時間配分が、労働者のメンタルヘルスと有意に関連していることが分かった。座位行動や低強度身体活動の時間を睡眠に割り振ることで、心理的ストレスをため込まずにワークエンゲイジメントを高めながら働くことにつながり、労働者のメンタルヘルス管理に有効な対策となる可能性がある」と結論付けている。またそのためにも、「企業経営者は長時間労働(残業)を、従業員は日常生活での座位行動(職場での座業、余暇時のテレビ視聴やパソコン利用など)をそれぞれ見直し、睡眠時間を充分確保する取組みが必要」と解説している。.ただし留意点として、本研究が主に首都圏の企業に勤める比較的活動量の多い労働者での検討であるため結果を一般化できるとは限らないこと、横断研究であり因果関係には言及できないことなどを挙げている。なお、欧米からは、中~高強度身体活動に充てる時間を増やすことがメンタル不調改善に有効という、本研究とは異なる結果が報告されている。その相違の理由については、「日本は世界的に見て睡眠時間が短い国であるため、睡眠時間を増やすことによるメリットが強く現れるのではないか」と考察している。(HealthDay News 2020年11月24日).Abstract/Full Texthttps://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211335520301728.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.
睡眠時間や身体活動が少ないとメンタル面に悪影響が現れることは、多くの人が理解している。しかし、1日は24時間だ。例えば睡眠時間を増やすには何か別の時間を減らさなければならない。では、何の時間を減らすことが効果的なのか?この悩ましい問題の解決につながる研究結果が報告された。平日の座位行動や低強度身体活動(ゆっくり歩行や家事など)の時間を1時間減らし、それを睡眠時間に充てると、メンタル不調を抱えたり仕事への意欲が低下したりする確率が減ると試算された。一方で中~高強度の身体活動時間(運動やスポーツなど)を加減してもメンタル面への影響はそれほど大きくないという結果であった。明治安田厚生事業団体力医学研究所の北濃成樹氏、甲斐裕子氏らの研究によるもので、詳細は「Preventive Medicine Reports」12月号に掲載された。.北濃氏らは、生活習慣と健康との関係を継続調査している「明治安田ライフスタイル研究(MYLSスタディ)」の一環として、1日の行動とメンタルヘルスとの関連を検討した。データ解析には、ある行動に充てる時間を増やしてその他の行動の時間を減らすという、時間配分変更の影響を総合的に判定可能な、組成データ解析(compositional data analysis:CoDA)という統計手法を用いた。.研究参加者は明治安田新宿健診センターを受診した労働者のうち、10日間加速度計を装着して生活することに同意した1,647人。加速度計の記録と、睡眠時間に関する調査から、24時間をどのように過ごしているかを分析。メンタルヘルスは、心理的ストレスと、ワークエンゲイジメント(仕事への活力)を評価した。心理的ストレスの評価には、K6スコアという指標を用い、スコアが5点を超える場合を、心理的ストレスがある状態と判定。ワークエンゲイジメントの評価には、UWES-9スコアという指標を用い、スコアが3点未満の場合を、ワークエンゲイジメントが低下した状態と判定した。.加速度計の記録が不十分な人や精神疾患罹患者、睡眠薬服用者などを除いて、1,095人のデータを解析に用いた。平均年齢は50.2±9.5歳、女性が68.6%を占め、23.4%が営業職であり、大半は短大卒以上のフルタイム勤務者だった。.24時間の行動とメンタルヘルスの関連をゆがめる可能性のある因子(年齢、性別、BMI、学歴、経済状態、婚姻状況、飲酒・喫煙習慣、職種、雇用形態、残業時間)で調整後の解析で、平日の時間配分とメンタルヘルスに、有意な関連が認められた。具体的には、睡眠時間が長いほど心理的ストレスが低く〔K6スコア5点超のオッズ比(OR)0.20、95%信頼区間0.10~0.44〕、ワークエンゲイジメントが高く維持されていた(UWES-9スコア3点未満のOR0.41、同0.20~0.81)。一方、中~高強度身体活動の時間に関しては、メンタルヘルスと関連がなかった。また、休日の睡眠や身体活動の時間は、いずれもメンタルヘルスと関連がなかった。.さらに、座位行動や低強度身体活動の時間を減らして、それを睡眠に充てることで、メンタル面の問題を抱えにくい可能性があると明らかになった。例えば1日に60分の座位行動を睡眠に充てた場合、心理的ストレスを抱える確率が20.2%減少し、ワークエンゲイジメントが低下する確率が11.4%減少すると推計された。また60分の低強度身体活動を睡眠に充てた場合は、心理的ストレスを抱える確率が26.6%減少すると考えられた。.著者らは、「平日の時間配分が、労働者のメンタルヘルスと有意に関連していることが分かった。座位行動や低強度身体活動の時間を睡眠に割り振ることで、心理的ストレスをため込まずにワークエンゲイジメントを高めながら働くことにつながり、労働者のメンタルヘルス管理に有効な対策となる可能性がある」と結論付けている。またそのためにも、「企業経営者は長時間労働(残業)を、従業員は日常生活での座位行動(職場での座業、余暇時のテレビ視聴やパソコン利用など)をそれぞれ見直し、睡眠時間を充分確保する取組みが必要」と解説している。.ただし留意点として、本研究が主に首都圏の企業に勤める比較的活動量の多い労働者での検討であるため結果を一般化できるとは限らないこと、横断研究であり因果関係には言及できないことなどを挙げている。なお、欧米からは、中~高強度身体活動に充てる時間を増やすことがメンタル不調改善に有効という、本研究とは異なる結果が報告されている。その相違の理由については、「日本は世界的に見て睡眠時間が短い国であるため、睡眠時間を増やすことによるメリットが強く現れるのではないか」と考察している。(HealthDay News 2020年11月24日).Abstract/Full Texthttps://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211335520301728.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.