糖尿病患者への療養指導に「ティーチバック」という手法を用いることで、合併症のリスクが3割減り、医療費も抑制される可能性が報告された。米フロリダ大学のYoung-Rock Hong氏らの研究結果であり、詳細は「Journal of the American Board of Family Medicine」11・12月号に掲載された。ティーチバックとは、特に高度なテクニックが必要な療養指導法ではない。まず医療従事者が患者に説明し、次に患者に自分の言葉でそれを復唱してもらう。患者が復唱できなかったり、内容が誤っていた場合には、別の言い方で説明し直す。患者が理解したことが確認できるまで、これを繰り返すというものだ。.米国内分泌学会のスポークスパーソンのScott Isaacs氏は、今回の研究に関与していないが、ティーチバックが必要とされる背景を、「一般的な説明方法では、患者は医療従事者が話す内容の10%しか理解していない。しかしこの手法を用いれば、患者の理解度を評価しながらそれを高めることができる」と解説し、かつ「医師は医学生時代にこの手法を既に学んでいるはずだ」と語る。.Hong氏らが行った研究は、2011〜2016年の医療費パネル調査(Medical Expenditure Panel Survey;MEPS)のデータを用いてティーチバックの効果を解析する、後ろ向きコホート研究。解析対象は18歳以上の1型および2型の糖尿病患者2,901人で、年齢中央値60歳(四分位範囲51~69歳)、女性52.6%、糖尿病診断からの経過年数は中央値7年(同3~14年)。.解析対象者のうち、ティーチバックによる指導を受けたことがある患者は805人(27.7%)だった。ティーチバックによる指導を受けた群と受けていなかった群とで、ベースライン時点の糖尿病状態およびその他の健康関連指標に有意差はなかった。.1年間の追跡で、16.8%の患者が何らかの合併症を発症した。合併症発症に影響し得る因子(年齢、性別、人種/民族、出身国、教育レベル、肥満の有無、喫煙習慣、併存疾患数、血糖管理状態など)で調整後、ティーチバックによる指導を受けた群の合併症発症リスクは、指導を受けていない群に対し、調整オッズ比(aOR)0.70(95%信頼区間0.52~0.96)だった。.また、合併症関連の入院はaOR0.51(同0.29~0.88)と、ほぼ2分の1の頻度だった。さらに、医療費にも有意差が認められた〔ティーチバックによる指導を受けた群の年間医療費が-1,579ドル(同―1,717~―1,443)〕。これを全米の医療費に換算すると、年間100億ドル以上の節約につながると考えられる。.Hong氏らは以前にも、高血圧、2型糖尿病、心臓病の患者を対象にティーチバックの効果を検証している。その研究では、ティーチバックによる指導を受けた患者では、それらの疾患に関連する入院が大幅に少なかった。「われわれの検討では、ティーチバックによる指導を受けた患者は満足度が高く、医療者との相互関係が良好になる傾向が認められた」と同氏は述べている。また、「ティーチバックによる指導を受けることで、自己管理スキルが向上することも、アウトカム改善につながるのかもしれない」と考察している。.このような効果が期待されるティーチバックだが、実際にこの手法による療養指導を受けている患者は多くない。今回の研究でもその割合は前述のように27.7%であり、4分の1ほどだった。医師がこの手法の採用に積極的でない理由をHong氏らは、「診療時間が長くなることや、有効性に疑問を抱いているためではないか」と推測している。.前出のIsaacs氏は糖尿病の治療目的を「合併症を予防または遅延させ、生活の質を向上させること」と述べ、「その達成には、患者が病気についての知識を持ち、治療を順守することが非常に重要」と説明する。そして、「患者自身が治療の必要性や治療法を理解していない状態は、治療が成功しているとは言えない。しかし、そのような状態からでも、わずかなきっかけが大きな違いを生むことがある」と付け加えている。(HealthDay News 2020年11月30日).https://consumer.healthday.com/11-30-repeat-after-me-for-better-health-care-2649019909.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.
糖尿病患者への療養指導に「ティーチバック」という手法を用いることで、合併症のリスクが3割減り、医療費も抑制される可能性が報告された。米フロリダ大学のYoung-Rock Hong氏らの研究結果であり、詳細は「Journal of the American Board of Family Medicine」11・12月号に掲載された。ティーチバックとは、特に高度なテクニックが必要な療養指導法ではない。まず医療従事者が患者に説明し、次に患者に自分の言葉でそれを復唱してもらう。患者が復唱できなかったり、内容が誤っていた場合には、別の言い方で説明し直す。患者が理解したことが確認できるまで、これを繰り返すというものだ。.米国内分泌学会のスポークスパーソンのScott Isaacs氏は、今回の研究に関与していないが、ティーチバックが必要とされる背景を、「一般的な説明方法では、患者は医療従事者が話す内容の10%しか理解していない。しかしこの手法を用いれば、患者の理解度を評価しながらそれを高めることができる」と解説し、かつ「医師は医学生時代にこの手法を既に学んでいるはずだ」と語る。.Hong氏らが行った研究は、2011〜2016年の医療費パネル調査(Medical Expenditure Panel Survey;MEPS)のデータを用いてティーチバックの効果を解析する、後ろ向きコホート研究。解析対象は18歳以上の1型および2型の糖尿病患者2,901人で、年齢中央値60歳(四分位範囲51~69歳)、女性52.6%、糖尿病診断からの経過年数は中央値7年(同3~14年)。.解析対象者のうち、ティーチバックによる指導を受けたことがある患者は805人(27.7%)だった。ティーチバックによる指導を受けた群と受けていなかった群とで、ベースライン時点の糖尿病状態およびその他の健康関連指標に有意差はなかった。.1年間の追跡で、16.8%の患者が何らかの合併症を発症した。合併症発症に影響し得る因子(年齢、性別、人種/民族、出身国、教育レベル、肥満の有無、喫煙習慣、併存疾患数、血糖管理状態など)で調整後、ティーチバックによる指導を受けた群の合併症発症リスクは、指導を受けていない群に対し、調整オッズ比(aOR)0.70(95%信頼区間0.52~0.96)だった。.また、合併症関連の入院はaOR0.51(同0.29~0.88)と、ほぼ2分の1の頻度だった。さらに、医療費にも有意差が認められた〔ティーチバックによる指導を受けた群の年間医療費が-1,579ドル(同―1,717~―1,443)〕。これを全米の医療費に換算すると、年間100億ドル以上の節約につながると考えられる。.Hong氏らは以前にも、高血圧、2型糖尿病、心臓病の患者を対象にティーチバックの効果を検証している。その研究では、ティーチバックによる指導を受けた患者では、それらの疾患に関連する入院が大幅に少なかった。「われわれの検討では、ティーチバックによる指導を受けた患者は満足度が高く、医療者との相互関係が良好になる傾向が認められた」と同氏は述べている。また、「ティーチバックによる指導を受けることで、自己管理スキルが向上することも、アウトカム改善につながるのかもしれない」と考察している。.このような効果が期待されるティーチバックだが、実際にこの手法による療養指導を受けている患者は多くない。今回の研究でもその割合は前述のように27.7%であり、4分の1ほどだった。医師がこの手法の採用に積極的でない理由をHong氏らは、「診療時間が長くなることや、有効性に疑問を抱いているためではないか」と推測している。.前出のIsaacs氏は糖尿病の治療目的を「合併症を予防または遅延させ、生活の質を向上させること」と述べ、「その達成には、患者が病気についての知識を持ち、治療を順守することが非常に重要」と説明する。そして、「患者自身が治療の必要性や治療法を理解していない状態は、治療が成功しているとは言えない。しかし、そのような状態からでも、わずかなきっかけが大きな違いを生むことがある」と付け加えている。(HealthDay News 2020年11月30日).https://consumer.healthday.com/11-30-repeat-after-me-for-better-health-care-2649019909.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.