体細胞内の代謝物と呼ばれる小分子が、脳卒中の発症リスクに影響を与える可能性があるとする研究結果が、エラスムス大学医療センター(オランダ)のDina Vojinovic氏らにより報告された。脳卒中の発症リスクと関連するものとして10種類の代謝物が確認されたという。研究結果の詳細は、「Neurology」に12月2日掲載された。人間は、体内に取り込んだ食物を代謝して化合物を合成することで生命を維持している。この代謝により生じる化合物を代謝物と呼ぶ。代謝物には、脂質や脂肪酸、アミノ酸、炭水化物などがある。こうした代謝物のレベルは、疾患や遺伝因子、環境要因などにより変化する。そのため、細胞や心血管の健康状態のみならず、全般的な健康状態の指標となり得ることが示唆されている。.Vojinovic氏らは今回、7件の前向き研究の結果を統合してメタアナリシスを行い、代謝物と脳卒中の発症リスクとの関連を探った。同氏は、「脳卒中は世界中で主要な死因であり、たとえ死に至らなくとも、罹患者に長期にわたり深刻な障害をもたらす。それゆえ研究者たちは、脳卒中の原因解明や予防戦略の開発とともに、ハイリスク患者を特定する方法の探索に、たゆまぬ努力を重ねている」と研究背景について語っている。.今回の研究での解析対象者は総計3万8,797人で、いずれも研究開始時に脳卒中の既往歴を有していなかった。核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance;NMR)法により、対象者から採取した血液サンプル中の147種類の代謝物レベルが測定された。.最短2年から最長15年に及ぶ追跡期間中に、1,791人が脳卒中を発症していた。また、解析した代謝物のうち、10種類の代謝物が脳卒中の発症リスクと関連していることが明らかになった。.最も関連が強かったのはヒスチジンで、脳卒中全般および虚血性脳卒中の発症リスク低下と関連していた。具体的には、ヒスチジンの値が1標準偏差増加するごとに、脳卒中の発症リスクが10%低下していた。ヒスチジンは肉や卵、乳製品、穀類などに多く含まれている必須アミノ酸である。Vojinovic氏は、「ヒスチジンは、体内に取り込まれるとヒスタミンに変換される。ヒスタミンは、強い血管拡張作用を持つことが示されている。また、脳内の神経伝達物質として機能し、血圧と炎症を軽減することもいくつかの研究から明らかになっている」と述べ、この結果に驚きはないとしている。.また、善玉コレステロールとして知られる高密度リポタンパク質(HDL)2中のコレステロールも、脳卒中全般および虚血性脳卒中の発症リスク低下と関連していることが判明した。善玉コレステロールの値は、運動量の増加や減量のほか、摂取する脂肪を動物性のものから魚や植物性のものに置き換えることで改善可能である。.その一方で、悪玉コレステロールとして知られる低密度リポタンパク質(LDL)中のトリグリセライド、急性期反応の指標であるGlycA(glycoprotein acetyls)、ピルビン酸などは、脳卒中の発症リスク上昇と関連していた。ピルビン酸は、細胞が糖(グルコース)を分解するときに作られる代謝物である。Vojinovic氏は、「ピルビン酸は細胞へのエネルギー供給に重要だ。過去の研究では、ピルビン酸には、炎症抑制作用がある一方で、心血管疾患のリスクを高めることも示されている。ピルビン酸と脳卒中との関連を解明するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。.Vojinovic氏らは、「われわれの研究は、脳卒中の発症リスクがいかに代謝物レベルによる影響を受けているかについて、新たな知見を提供するものだ。また、今後、解明すべき問題点も明らかになった」と話す。その上で、「今後の研究で、代謝物と脳卒中の発症リスクとの関連の土台となる生物学的メカニズムを調べる必要がある」との展望を示している。(HealthDay News 2020年12月2日).https://consumer.healthday.com/b-12-2-metabolites-from-food-could-raise-your-stroke-risk-2649081040.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.
体細胞内の代謝物と呼ばれる小分子が、脳卒中の発症リスクに影響を与える可能性があるとする研究結果が、エラスムス大学医療センター(オランダ)のDina Vojinovic氏らにより報告された。脳卒中の発症リスクと関連するものとして10種類の代謝物が確認されたという。研究結果の詳細は、「Neurology」に12月2日掲載された。人間は、体内に取り込んだ食物を代謝して化合物を合成することで生命を維持している。この代謝により生じる化合物を代謝物と呼ぶ。代謝物には、脂質や脂肪酸、アミノ酸、炭水化物などがある。こうした代謝物のレベルは、疾患や遺伝因子、環境要因などにより変化する。そのため、細胞や心血管の健康状態のみならず、全般的な健康状態の指標となり得ることが示唆されている。.Vojinovic氏らは今回、7件の前向き研究の結果を統合してメタアナリシスを行い、代謝物と脳卒中の発症リスクとの関連を探った。同氏は、「脳卒中は世界中で主要な死因であり、たとえ死に至らなくとも、罹患者に長期にわたり深刻な障害をもたらす。それゆえ研究者たちは、脳卒中の原因解明や予防戦略の開発とともに、ハイリスク患者を特定する方法の探索に、たゆまぬ努力を重ねている」と研究背景について語っている。.今回の研究での解析対象者は総計3万8,797人で、いずれも研究開始時に脳卒中の既往歴を有していなかった。核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance;NMR)法により、対象者から採取した血液サンプル中の147種類の代謝物レベルが測定された。.最短2年から最長15年に及ぶ追跡期間中に、1,791人が脳卒中を発症していた。また、解析した代謝物のうち、10種類の代謝物が脳卒中の発症リスクと関連していることが明らかになった。.最も関連が強かったのはヒスチジンで、脳卒中全般および虚血性脳卒中の発症リスク低下と関連していた。具体的には、ヒスチジンの値が1標準偏差増加するごとに、脳卒中の発症リスクが10%低下していた。ヒスチジンは肉や卵、乳製品、穀類などに多く含まれている必須アミノ酸である。Vojinovic氏は、「ヒスチジンは、体内に取り込まれるとヒスタミンに変換される。ヒスタミンは、強い血管拡張作用を持つことが示されている。また、脳内の神経伝達物質として機能し、血圧と炎症を軽減することもいくつかの研究から明らかになっている」と述べ、この結果に驚きはないとしている。.また、善玉コレステロールとして知られる高密度リポタンパク質(HDL)2中のコレステロールも、脳卒中全般および虚血性脳卒中の発症リスク低下と関連していることが判明した。善玉コレステロールの値は、運動量の増加や減量のほか、摂取する脂肪を動物性のものから魚や植物性のものに置き換えることで改善可能である。.その一方で、悪玉コレステロールとして知られる低密度リポタンパク質(LDL)中のトリグリセライド、急性期反応の指標であるGlycA(glycoprotein acetyls)、ピルビン酸などは、脳卒中の発症リスク上昇と関連していた。ピルビン酸は、細胞が糖(グルコース)を分解するときに作られる代謝物である。Vojinovic氏は、「ピルビン酸は細胞へのエネルギー供給に重要だ。過去の研究では、ピルビン酸には、炎症抑制作用がある一方で、心血管疾患のリスクを高めることも示されている。ピルビン酸と脳卒中との関連を解明するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。.Vojinovic氏らは、「われわれの研究は、脳卒中の発症リスクがいかに代謝物レベルによる影響を受けているかについて、新たな知見を提供するものだ。また、今後、解明すべき問題点も明らかになった」と話す。その上で、「今後の研究で、代謝物と脳卒中の発症リスクとの関連の土台となる生物学的メカニズムを調べる必要がある」との展望を示している。(HealthDay News 2020年12月2日).https://consumer.healthday.com/b-12-2-metabolites-from-food-could-raise-your-stroke-risk-2649081040.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.