早期乳がん患者のうちで一定の条件を満たした女性では、術後の補助化学療法を省略できる可能性が示された。ホルモン受容体(HR)陽性でHER2陰性の乳がん患者を対象にした臨床試験において、リンパ節転移の数が1~3個で、再発リスクの低い閉経後女性では、術後のホルモン療法に化学療法を追加しなくても再発リスクに影響しないことが示されたのだ。一方、閉経前女性では、術後補助化学療法によってその後5年間の乳がんの再発リスクが低下していたことも明らかになったという。米エモリー大学のKevin Kalinsky氏らによるこの研究の詳細は、サンアントニオ乳がんシンポジウム(2020 SABCS、12月8〜11日、オンライン開催)で報告された。.補助化学療法は、乳がん患者の手術後の再発リスクを抑えるために実施される。しかし近年、多くの女性でこの治療を省略できることを示した研究結果が報告されている。2018年に報告された臨床試験では、最も頻度の高いタイプであるHR陽性HER2陰性の乳がん患者の多くで、術後の補助化学療法は不要であることが示された。.ただ、同試験の対象者は、Oncotype DX(がん組織の21種類の遺伝子発現について調べることで、個々のがんの性質を分析する)と呼ばれる遺伝子検査で再発リスクが低いと判定された、リンパ節転移もない患者だった。そのため、わずかでもリンパ節への転移がある女性にも、この結果が当てはまるのかどうかは不明だった。そこで実施されたのが今回の臨床試験だった。.今回報告された第2相臨床試験は、9か国のHR陽性HER2陰性乳がん患者5,083人を対象としたもの。対象者のリンパ節転移の数は1~3個で、Oncotype DX検査に基づく乳がんの再発リスク(0〜100点で評価)は25点以下と低かった。対象者は、術後にホルモン療法のみを行う群と、ホルモン療法に加えて化学療法を行う群のいずれかに、1対1の割合でランダムに割り付けられた。.中央値で5.1年に及ぶ追跡の結果、閉経後女性では、化学療法を追加した群と追加しなかった群の間に5年間の無浸潤疾患生存期間に差は認められず、両群とも約92%(それぞれ91.6%、91.9%)の女性が再発しなかった。一方、閉経前の女性では、再発しなかった人の割合が、ホルモン療法のみの群の89%に対して、ホルモン療法に化学療法を追加した群で94.2%と高かった。.化学療法には脱毛や疲労、悪心や嘔吐などの副作用を伴う場合がある。また、心臓や神経がダメージを受けたり、"ケモブレイン"と呼ばれる認知機能障害が生じることもある。Kalinsky氏は、「補助化学療法を行うべき時期を明確にする必要がある。われわれの目標は、患者に"プレシジョン・メディシン(個々の患者に最適な治療方法を選択して行うこと)"を提供することだ」と説明。また、「そのためには有益性が低く、副作用を伴うこともある治療法による過剰治療を回避することが重要だ」と付け加えている。.今回の試験には関与していない、米マウントサイナイ・アイカーン医科大学の腫瘍内科医であるCharles Shapiro氏は、「補助化学療法が有益な患者と無益な患者を明らかにしたこの研究結果は、女性に対して大きな影響を及ぼす、極めて重要な知見だ」と高く評価する。同氏は、今回の試験結果を受けて多くの閉経後女性に対する補助化学療法を減らす流れが生まれるのではないかとの予測を示す。同時に、「閉経前女性に、補助化学療法の有益性について、より強い確信を持たせる結果でもある」との見方を示している。.なお、学会発表された研究は通常、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは予備的なものとみなされる。(HealthDay News 2020年12月9日).https://consumer.healthday.com/12-9-some-older-breast-cancer-patients-can-safely-cut-down-on-chemo-2649100121.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.
早期乳がん患者のうちで一定の条件を満たした女性では、術後の補助化学療法を省略できる可能性が示された。ホルモン受容体(HR)陽性でHER2陰性の乳がん患者を対象にした臨床試験において、リンパ節転移の数が1~3個で、再発リスクの低い閉経後女性では、術後のホルモン療法に化学療法を追加しなくても再発リスクに影響しないことが示されたのだ。一方、閉経前女性では、術後補助化学療法によってその後5年間の乳がんの再発リスクが低下していたことも明らかになったという。米エモリー大学のKevin Kalinsky氏らによるこの研究の詳細は、サンアントニオ乳がんシンポジウム(2020 SABCS、12月8〜11日、オンライン開催)で報告された。.補助化学療法は、乳がん患者の手術後の再発リスクを抑えるために実施される。しかし近年、多くの女性でこの治療を省略できることを示した研究結果が報告されている。2018年に報告された臨床試験では、最も頻度の高いタイプであるHR陽性HER2陰性の乳がん患者の多くで、術後の補助化学療法は不要であることが示された。.ただ、同試験の対象者は、Oncotype DX(がん組織の21種類の遺伝子発現について調べることで、個々のがんの性質を分析する)と呼ばれる遺伝子検査で再発リスクが低いと判定された、リンパ節転移もない患者だった。そのため、わずかでもリンパ節への転移がある女性にも、この結果が当てはまるのかどうかは不明だった。そこで実施されたのが今回の臨床試験だった。.今回報告された第2相臨床試験は、9か国のHR陽性HER2陰性乳がん患者5,083人を対象としたもの。対象者のリンパ節転移の数は1~3個で、Oncotype DX検査に基づく乳がんの再発リスク(0〜100点で評価)は25点以下と低かった。対象者は、術後にホルモン療法のみを行う群と、ホルモン療法に加えて化学療法を行う群のいずれかに、1対1の割合でランダムに割り付けられた。.中央値で5.1年に及ぶ追跡の結果、閉経後女性では、化学療法を追加した群と追加しなかった群の間に5年間の無浸潤疾患生存期間に差は認められず、両群とも約92%(それぞれ91.6%、91.9%)の女性が再発しなかった。一方、閉経前の女性では、再発しなかった人の割合が、ホルモン療法のみの群の89%に対して、ホルモン療法に化学療法を追加した群で94.2%と高かった。.化学療法には脱毛や疲労、悪心や嘔吐などの副作用を伴う場合がある。また、心臓や神経がダメージを受けたり、"ケモブレイン"と呼ばれる認知機能障害が生じることもある。Kalinsky氏は、「補助化学療法を行うべき時期を明確にする必要がある。われわれの目標は、患者に"プレシジョン・メディシン(個々の患者に最適な治療方法を選択して行うこと)"を提供することだ」と説明。また、「そのためには有益性が低く、副作用を伴うこともある治療法による過剰治療を回避することが重要だ」と付け加えている。.今回の試験には関与していない、米マウントサイナイ・アイカーン医科大学の腫瘍内科医であるCharles Shapiro氏は、「補助化学療法が有益な患者と無益な患者を明らかにしたこの研究結果は、女性に対して大きな影響を及ぼす、極めて重要な知見だ」と高く評価する。同氏は、今回の試験結果を受けて多くの閉経後女性に対する補助化学療法を減らす流れが生まれるのではないかとの予測を示す。同時に、「閉経前女性に、補助化学療法の有益性について、より強い確信を持たせる結果でもある」との見方を示している。.なお、学会発表された研究は通常、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは予備的なものとみなされる。(HealthDay News 2020年12月9日).https://consumer.healthday.com/12-9-some-older-breast-cancer-patients-can-safely-cut-down-on-chemo-2649100121.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.