新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックで、今や常識とも言える不要不急の外出自粛とマスク着用。外出自粛は夏季の屋外での熱中症発生件数を抑制し、反対にマスク着用は熱中症リスクを高める可能性がある。では、昨年の夏、これらの影響はどのように現れたのだろうか。消防庁の熱中症による救急搬送件数のデータを用いて、この点を詳細に検討した結果が報告された。慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室の野村周平氏らの研究によるもので、「Science of The Total Environment」に1月7日、短報として掲載された。野村氏らはこの研究に、消防庁公表の2008~2020年の熱中症による救急搬送件数と、気象庁公表の気温、湿度、風速、気圧、日照時間、降水量などのデータを用いた。それらの数値を基に、準ポアソン回帰モデルという統計的手法により、理論的に予測される7~9月の各週の熱中症救急搬送件数を、都道府県別、年齢層別、重症度別に計算。その予測値の95%信頼区間を逸脱した場合を異常値と定義した。.解析の結果、全国レベルでは、2020年の夏季に異常値は見られなかった。しかし、都道府県別や年齢層別、重症度別の解析では、いくつかの異常値が認められた。.例えば、都道府県別では、95%信頼区間の上限を超える週はなかったが、下限を下回った週が14県で観測された。その大半は8月10~16日の週であった。なお、8月10~16日は、全国の熱中症による救急搬送件数が2020年で最も多い週だった。.年齢層別では、8月23~30日に青森県で、小児・若年層(18歳未満)での救急搬送が95%信頼区間の上限を超えていた。一方、95%信頼区間の下限を下回った週が、小児・若年層では15県、労働年齢層(18~65歳未満)では16県、高齢者層(65歳以上)では3県で認められた。それらの大半は、8月10~16日の週に集中していた。.重症度別では、8月23~30日の富山県における軽症(入院を要さない)患者、7月20~26日の和歌山県と愛媛県における中等症(軽症または重症に該当しない)患者、および、7月13~19日の京都府と7月20~26日の鳥取県での重症(3週間以上の入院を要する)患者が、95%信頼区間の上限を超えていた。一方、95%信頼区間の下限を下回った週の存在が、軽症患者については15都道府県、中等症患者については3都道府県、重症患者については5都道府県で認められた。.これらの結果を著者らは、「気温などを調整した上で、全国レベルでは、2020年の熱中症救急搬送件数に大幅な増減はなかった。しかし都道府県別では救急搬送件数が理論値の上限を超過している所もあった。年齢層別では、小児・若年層と労働年齢層の救急搬送件数が例年より少なく、重症度別では軽症患者が例年より少ない傾向が見られた」と総括している。.加えて、例年にないこのような傾向は、「COVID-19パンデミック以降の、野外活動制限や公共行事の中止が大きく働いた可能性があることを意味している」と著者らは述べている。実際に、学校や公的イベント会場での熱中症救急搬送の発生率は、ここ4年間で一番少なかったとしている。.一方、「本研究で明らかになった熱中症救急搬送件数の一部の減少傾向は、マスク着用が熱中症リスクに繋がらないことを意味するわけではない」と、解釈に限界があることに言及。その上で、「日本の夏の暑さは年々厳しくなってきている。COVID-19パンデミックの終息が見通せず、マスク着用が常識の『ニューノーマル』な社会において、外出自粛による熱中症リスクの低下をマスク着用が相殺する可能性があることに、引き続き注意が必要だ」と結論付けている。(HealthDay News 2021年3月1日).Abstract/Full Texthttps://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048969720382565.Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックで、今や常識とも言える不要不急の外出自粛とマスク着用。外出自粛は夏季の屋外での熱中症発生件数を抑制し、反対にマスク着用は熱中症リスクを高める可能性がある。では、昨年の夏、これらの影響はどのように現れたのだろうか。消防庁の熱中症による救急搬送件数のデータを用いて、この点を詳細に検討した結果が報告された。慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室の野村周平氏らの研究によるもので、「Science of The Total Environment」に1月7日、短報として掲載された。野村氏らはこの研究に、消防庁公表の2008~2020年の熱中症による救急搬送件数と、気象庁公表の気温、湿度、風速、気圧、日照時間、降水量などのデータを用いた。それらの数値を基に、準ポアソン回帰モデルという統計的手法により、理論的に予測される7~9月の各週の熱中症救急搬送件数を、都道府県別、年齢層別、重症度別に計算。その予測値の95%信頼区間を逸脱した場合を異常値と定義した。.解析の結果、全国レベルでは、2020年の夏季に異常値は見られなかった。しかし、都道府県別や年齢層別、重症度別の解析では、いくつかの異常値が認められた。.例えば、都道府県別では、95%信頼区間の上限を超える週はなかったが、下限を下回った週が14県で観測された。その大半は8月10~16日の週であった。なお、8月10~16日は、全国の熱中症による救急搬送件数が2020年で最も多い週だった。.年齢層別では、8月23~30日に青森県で、小児・若年層(18歳未満)での救急搬送が95%信頼区間の上限を超えていた。一方、95%信頼区間の下限を下回った週が、小児・若年層では15県、労働年齢層(18~65歳未満)では16県、高齢者層(65歳以上)では3県で認められた。それらの大半は、8月10~16日の週に集中していた。.重症度別では、8月23~30日の富山県における軽症(入院を要さない)患者、7月20~26日の和歌山県と愛媛県における中等症(軽症または重症に該当しない)患者、および、7月13~19日の京都府と7月20~26日の鳥取県での重症(3週間以上の入院を要する)患者が、95%信頼区間の上限を超えていた。一方、95%信頼区間の下限を下回った週の存在が、軽症患者については15都道府県、中等症患者については3都道府県、重症患者については5都道府県で認められた。.これらの結果を著者らは、「気温などを調整した上で、全国レベルでは、2020年の熱中症救急搬送件数に大幅な増減はなかった。しかし都道府県別では救急搬送件数が理論値の上限を超過している所もあった。年齢層別では、小児・若年層と労働年齢層の救急搬送件数が例年より少なく、重症度別では軽症患者が例年より少ない傾向が見られた」と総括している。.加えて、例年にないこのような傾向は、「COVID-19パンデミック以降の、野外活動制限や公共行事の中止が大きく働いた可能性があることを意味している」と著者らは述べている。実際に、学校や公的イベント会場での熱中症救急搬送の発生率は、ここ4年間で一番少なかったとしている。.一方、「本研究で明らかになった熱中症救急搬送件数の一部の減少傾向は、マスク着用が熱中症リスクに繋がらないことを意味するわけではない」と、解釈に限界があることに言及。その上で、「日本の夏の暑さは年々厳しくなってきている。COVID-19パンデミックの終息が見通せず、マスク着用が常識の『ニューノーマル』な社会において、外出自粛による熱中症リスクの低下をマスク着用が相殺する可能性があることに、引き続き注意が必要だ」と結論付けている。(HealthDay News 2021年3月1日).Abstract/Full Texthttps://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048969720382565.Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.