日本人が認知症をどのように捉えているかを調査した結果が報告された。認知症の有病率が過大評価されていること、自分自身が認知症の場合は早めに知らされることを望む一方、配偶者の認知症については早期診断を望む割合が高くないことなどが分かった。弘前大学大学院保健学研究科の大庭輝氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Health Services Research」に5月3日掲載された。. 大庭氏らの調査は、(1)日本人が恐れている疾患とその理由、(2)認知症の有病率に関する知識、(3)認知症である場合にどのように診断結果を伝えられたいか、という3点をテーマとして、2017年9月~2019年3月に実施された。調査対象は、大学病院の精神科、耳鼻咽喉科、内分泌代謝科、循環器内科の予約受診患者、または18歳以上の同伴者、計217人。重度の身体または精神障害を有する人は除外された。平均年齢は64.4±13.0歳、男性61.8%で、77.3%は配偶者またはパートナーがいると回答した。患者と同伴者とで以下の回答内容に有意差がなかったため、解析は両者をあわせて行われた。. まず、(1)の最も恐れられている疾患について、冠動脈性心疾患、認知症、脳血管疾患、がん、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、心不全の中から選択してもらったところ、1位はがんで43.8%を占めた。続いて認知症と脳血管疾患が同率で2位(各18.0%)だった。65歳未満/以上で二分すると、65歳未満では認知症を最も恐ろしいとする回答が30.8%だった一方、65歳以上では69.2%に上り、有意な群間差があった(P=0.016)。認知症以外の疾患は、年齢による有意な群間差は見られなかった。最も恐れる病気として認知症を選択した人は、その理由として、生活上の問題、社会的な影響、感情的な影響、法的な問題を挙げた割合が、がんを選択した人に比べて有意に多かった。. 次に、(2)の認知症の有病率に関する知識については、65歳および85歳までに、日本人の何パーセントが認知症と診断されているかという質問で検証した。結果は、65歳で18.1±15.0%、85歳で43.7±22.6%との回答だった。しかし実際は、65~69歳で1.5%、85歳で27%であり、認知症の有病率が過大に捉えられていることが分かった。. 続いて(3)の認知症である場合にどのように診断結果を伝えられたいかについては、自分自身が診断されるケースと、配偶者やパートナーが診断されるケースに分けて回答を得た。まず自分自身が診断されることを想定したケースでは、ほぼ全て(95.9%)が、できるだけ早く診断結果を伝えられることを望んでいた。その理由は、「診断を受け入れるため」が67.8%と最も多く選択された。. 一方、配偶者またはパートナーが認知症と診断されることを想定したケースでは、できるだけ早く診断結果を伝えられることを望むとの回答は67.5%で、自分自身が診断されることを想定したケースよりも有意に少なかった(P<0.001)。配偶者やパートナーに診断を早く伝えたくないことの理由としては、「できるだけ長く普通の生活を送ってほしい」(75.5%)、「不必要な心配を避けるため」(73.6%)などが多く選択されていた。. なお、海外で行われた同様の調査では、配偶者の認知症の診断もできるだけ早く伝えられることを望むという回答が多く、その割合は例えば韓国では97%、オーストラリアでは88%、台湾では76%に及ぶと報告されている。日本でその割合が低いことについて、日本人の認知症に対する否定的な捉え方が背景にあるのではないかと著者らは考察している。. 本研究には、大学病院の専門外来受診者を調査対象としていて、日本人の平均的な考え方を反映したものとは言えないこと、認知症以外の恐れられている疾患については詳しい質問を行っていないこと、一部の質問では仮定に基づく回答を評価していることなど、解釈上の限界点がある。それらを踏まえた上で著者らは、「がんに次いで認知症が最も恐れられている疾患であり、認知症が正しく理解されておらず、啓発活動の必要性が示された。また医師は患者や家族と認知症診断の可能性について話し合う必要があると考えられ、それによって患者や家族の不安が軽減されるのではないか」と述べている。(HealthDay News 2021年7月5日).Abstract/Full Text.https://bmchealthservres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12913-021-06381-9.Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.
日本人が認知症をどのように捉えているかを調査した結果が報告された。認知症の有病率が過大評価されていること、自分自身が認知症の場合は早めに知らされることを望む一方、配偶者の認知症については早期診断を望む割合が高くないことなどが分かった。弘前大学大学院保健学研究科の大庭輝氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Health Services Research」に5月3日掲載された。. 大庭氏らの調査は、(1)日本人が恐れている疾患とその理由、(2)認知症の有病率に関する知識、(3)認知症である場合にどのように診断結果を伝えられたいか、という3点をテーマとして、2017年9月~2019年3月に実施された。調査対象は、大学病院の精神科、耳鼻咽喉科、内分泌代謝科、循環器内科の予約受診患者、または18歳以上の同伴者、計217人。重度の身体または精神障害を有する人は除外された。平均年齢は64.4±13.0歳、男性61.8%で、77.3%は配偶者またはパートナーがいると回答した。患者と同伴者とで以下の回答内容に有意差がなかったため、解析は両者をあわせて行われた。. まず、(1)の最も恐れられている疾患について、冠動脈性心疾患、認知症、脳血管疾患、がん、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、心不全の中から選択してもらったところ、1位はがんで43.8%を占めた。続いて認知症と脳血管疾患が同率で2位(各18.0%)だった。65歳未満/以上で二分すると、65歳未満では認知症を最も恐ろしいとする回答が30.8%だった一方、65歳以上では69.2%に上り、有意な群間差があった(P=0.016)。認知症以外の疾患は、年齢による有意な群間差は見られなかった。最も恐れる病気として認知症を選択した人は、その理由として、生活上の問題、社会的な影響、感情的な影響、法的な問題を挙げた割合が、がんを選択した人に比べて有意に多かった。. 次に、(2)の認知症の有病率に関する知識については、65歳および85歳までに、日本人の何パーセントが認知症と診断されているかという質問で検証した。結果は、65歳で18.1±15.0%、85歳で43.7±22.6%との回答だった。しかし実際は、65~69歳で1.5%、85歳で27%であり、認知症の有病率が過大に捉えられていることが分かった。. 続いて(3)の認知症である場合にどのように診断結果を伝えられたいかについては、自分自身が診断されるケースと、配偶者やパートナーが診断されるケースに分けて回答を得た。まず自分自身が診断されることを想定したケースでは、ほぼ全て(95.9%)が、できるだけ早く診断結果を伝えられることを望んでいた。その理由は、「診断を受け入れるため」が67.8%と最も多く選択された。. 一方、配偶者またはパートナーが認知症と診断されることを想定したケースでは、できるだけ早く診断結果を伝えられることを望むとの回答は67.5%で、自分自身が診断されることを想定したケースよりも有意に少なかった(P<0.001)。配偶者やパートナーに診断を早く伝えたくないことの理由としては、「できるだけ長く普通の生活を送ってほしい」(75.5%)、「不必要な心配を避けるため」(73.6%)などが多く選択されていた。. なお、海外で行われた同様の調査では、配偶者の認知症の診断もできるだけ早く伝えられることを望むという回答が多く、その割合は例えば韓国では97%、オーストラリアでは88%、台湾では76%に及ぶと報告されている。日本でその割合が低いことについて、日本人の認知症に対する否定的な捉え方が背景にあるのではないかと著者らは考察している。. 本研究には、大学病院の専門外来受診者を調査対象としていて、日本人の平均的な考え方を反映したものとは言えないこと、認知症以外の恐れられている疾患については詳しい質問を行っていないこと、一部の質問では仮定に基づく回答を評価していることなど、解釈上の限界点がある。それらを踏まえた上で著者らは、「がんに次いで認知症が最も恐れられている疾患であり、認知症が正しく理解されておらず、啓発活動の必要性が示された。また医師は患者や家族と認知症診断の可能性について話し合う必要があると考えられ、それによって患者や家族の不安が軽減されるのではないか」と述べている。(HealthDay News 2021年7月5日).Abstract/Full Text.https://bmchealthservres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12913-021-06381-9.Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.