日本人労働者において、仕事中の姿勢が「立位や歩行中心」の人は「座位中心」の人と比べて慢性腎臓病(CKD)発症リスクが低いことが分かった。その一方で、余暇時間の運動や通勤のための歩行時間はCKDリスクと関連がなかった。国立国際医療研究センター臨床研究センター疫学・予防研究部の山本尚平氏らの研究結果であり、詳細は「Scientific Reports」に6月10日掲載された。. 身体活動量とCKD発症リスクには有意な負の関連があることが、メタ解析の結果として報告されている。しかし、総死亡や心血管疾患をアウトカムにした先行研究から、職業上の身体活動と余暇時間の身体活動とでは健康に与える影響が異なることが示唆され、「身体活動のパラドックス」と呼ばれている。ただし、CKDに関してはこの点について十分に検討されていない。以上を踏まえて著者らは、身体活動量を、余暇時間、仕事中、通勤という3つの区分で評価し、これらとCKDの発症リスクとの関連を検討した。. この研究では、国立国際医療研究センターが国内十数社の企業と共同で行っている「職域多施設研究(J-ECOHスタディ)」のデータのうち、詳細に身体活動量を評価している1社のデータを使用した。2006年度に同社で健康診断を受診した20~65歳の労働者のうち、ベースライン時点でCKDに該当する人や解析に必要なデータが欠落している人を除いた1万7,331人(平均年齢42.8±10.0歳、男性90%)について分析した。. 身体活動量は、同社で健診用に開発された質問票を用いて評価した。余暇の運動は週当たりの身体活動量(METs-時/週)により4段階に分類し、仕事中の身体活動は「座位中心」「立位や歩行が中心」「より活発」に分類した。通勤については往復の歩行時間が「20分未満」「20分以上40分未満」「40分以上」に分類した。CKDは、血清クレアチニン値をもとに推算した糸球体濾過量(eGFR)が60mL/分/1.73m2未満、あるいは尿タンパクが(1+)以上の場合と定義した。2019年3月の追跡終了までに健康診断でCKDが初めて確認された時を発症日とした。. 追跡期間中(中央値10.6年、14万7,752人・年)、4,013人(23%)がCKDを発症した。Cox比例ハザード分析により、年齢、性別、ベースライン時のeGFR、喫煙・飲酒習慣、職種・職位、残業時間、交代勤務への従事、通勤手段、睡眠時間で調整後、ぞれぞれの身体活動量におけるCKDの発症リスクを推定した。その結果、仕事中の身体活動が「座位中心」の人と比較すると、「立位や歩行中心」の人のCKD発症ハザード比(HR)は0.88(95%信頼区間0.81~0.96)、「より活発」な人はHR0.89(同0.78~1.02)であった(傾向性P=0.020)。一方、余暇時間の身体活動量(傾向性P=0.255)と通勤時の身体活動量(傾向性P=0.139)についてはCKD発症との関連を認めなかった。. 著者らは、「本研究の結果から、座り仕事よりも、立ち仕事や歩き仕事に従事している人の方が腎臓病のリスクが低い可能性があることが分かった。スタンディングデスクの導入などによる仕事中の座位時間の短縮が腎機能低下の予防につながることが期待される」と述べている。. なお、これまでの「身体活動のパラドックス」に関する研究では、余暇時間の身体活動は心血管疾患や総死亡のリスクが低いことと関連し、職業上の身体活動はその逆という結果が報告されている。CKDをアウトカムとした本研究ではそれとは一致しない結果が示されたことについて、「身体活動のパラドックスの存在は、調査対象者や研究対象となるアウトカムの違いに依存するのではないか」との考察を加えている。(HealthDay News 2021年7月26日).Abstract/Full Text.https://www.nature.com/articles/s41598-021-91525-4.J-ECOHスタディ.http://epid.ncgm.go.jp/research/.Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.
日本人労働者において、仕事中の姿勢が「立位や歩行中心」の人は「座位中心」の人と比べて慢性腎臓病(CKD)発症リスクが低いことが分かった。その一方で、余暇時間の運動や通勤のための歩行時間はCKDリスクと関連がなかった。国立国際医療研究センター臨床研究センター疫学・予防研究部の山本尚平氏らの研究結果であり、詳細は「Scientific Reports」に6月10日掲載された。. 身体活動量とCKD発症リスクには有意な負の関連があることが、メタ解析の結果として報告されている。しかし、総死亡や心血管疾患をアウトカムにした先行研究から、職業上の身体活動と余暇時間の身体活動とでは健康に与える影響が異なることが示唆され、「身体活動のパラドックス」と呼ばれている。ただし、CKDに関してはこの点について十分に検討されていない。以上を踏まえて著者らは、身体活動量を、余暇時間、仕事中、通勤という3つの区分で評価し、これらとCKDの発症リスクとの関連を検討した。. この研究では、国立国際医療研究センターが国内十数社の企業と共同で行っている「職域多施設研究(J-ECOHスタディ)」のデータのうち、詳細に身体活動量を評価している1社のデータを使用した。2006年度に同社で健康診断を受診した20~65歳の労働者のうち、ベースライン時点でCKDに該当する人や解析に必要なデータが欠落している人を除いた1万7,331人(平均年齢42.8±10.0歳、男性90%)について分析した。. 身体活動量は、同社で健診用に開発された質問票を用いて評価した。余暇の運動は週当たりの身体活動量(METs-時/週)により4段階に分類し、仕事中の身体活動は「座位中心」「立位や歩行が中心」「より活発」に分類した。通勤については往復の歩行時間が「20分未満」「20分以上40分未満」「40分以上」に分類した。CKDは、血清クレアチニン値をもとに推算した糸球体濾過量(eGFR)が60mL/分/1.73m2未満、あるいは尿タンパクが(1+)以上の場合と定義した。2019年3月の追跡終了までに健康診断でCKDが初めて確認された時を発症日とした。. 追跡期間中(中央値10.6年、14万7,752人・年)、4,013人(23%)がCKDを発症した。Cox比例ハザード分析により、年齢、性別、ベースライン時のeGFR、喫煙・飲酒習慣、職種・職位、残業時間、交代勤務への従事、通勤手段、睡眠時間で調整後、ぞれぞれの身体活動量におけるCKDの発症リスクを推定した。その結果、仕事中の身体活動が「座位中心」の人と比較すると、「立位や歩行中心」の人のCKD発症ハザード比(HR)は0.88(95%信頼区間0.81~0.96)、「より活発」な人はHR0.89(同0.78~1.02)であった(傾向性P=0.020)。一方、余暇時間の身体活動量(傾向性P=0.255)と通勤時の身体活動量(傾向性P=0.139)についてはCKD発症との関連を認めなかった。. 著者らは、「本研究の結果から、座り仕事よりも、立ち仕事や歩き仕事に従事している人の方が腎臓病のリスクが低い可能性があることが分かった。スタンディングデスクの導入などによる仕事中の座位時間の短縮が腎機能低下の予防につながることが期待される」と述べている。. なお、これまでの「身体活動のパラドックス」に関する研究では、余暇時間の身体活動は心血管疾患や総死亡のリスクが低いことと関連し、職業上の身体活動はその逆という結果が報告されている。CKDをアウトカムとした本研究ではそれとは一致しない結果が示されたことについて、「身体活動のパラドックスの存在は、調査対象者や研究対象となるアウトカムの違いに依存するのではないか」との考察を加えている。(HealthDay News 2021年7月26日).Abstract/Full Text.https://www.nature.com/articles/s41598-021-91525-4.J-ECOHスタディ.http://epid.ncgm.go.jp/research/.Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.