犬は、人間の意図的な行動と意図的ではない行動を区別できる可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。これは、犬が少なくとも、他者の心を推測する能力である「心の理論」の一面を持っていることを意味するという。マックス・プランク人類史科学研究所(ドイツ)のJuliane Bräuer氏らによるこの研究の詳細は、「Scientific Report」に9月1日発表された。 犬は昔から人間と生活を共にし、その中で人との絆を育むスキルを身につけてきた。「おすわり」や「ふせ」などのコマンドを理解する能力も、そうしたスキルの一つだ。人間の意図を理解する、あるいは少なくとも推測する能力は、心の理論の基本的な要素であるが、この能力を犬が持っているのかどうかについては、はっきりとしたことが分かっていない。そこでBräuer氏らは、この点を明らかにするための実験を行い、餌が故意に、または偶然に差し控えられた場合に、犬がどう反応するのかを評価した。 実験には51匹の犬が参加した。犬は試験者と透明の障壁で隔てられ、障壁に設けられた隙間から餌を受け取ることができるようになっていた。餌が与えられる状況として、3つのパターンが用意された。1つ目は、犬に餌を与えようとしている試験者が突然、隙間から手を引っ込めて自分の前に餌を置く場合(不本意な状況)、2つ目は、試験者が隙間から犬に餌を与えようとするが、つい落としてしまう場合(不器用な状況)、3つ目は、試験者が犬に餌を与えようとするが、障壁に遮られて与えることができない場合(不可能な状況)。いずれの場合も、餌は試験者の元に残り、犬には与えられなかった。この3つのパターンを全ての犬に経験させ、その反応を観察した。 Bräuer氏らが着目したのは、餌がもらえないと分かった犬が、その餌を手に入れようとして動くまでにかかる時間だ。同氏らは、仮に犬が人間の意図を理解できるとするなら、餌が意図的に与えられない「不本意な状況」の場合には、餌をもらえるはずだったのにもらえなくなった他の2つの状況に比べて、犬が待つ時間が長くなるはずだと予測した。 結果は研究グループの予測通りで、犬は、「不本意な状況」では他の2つの状況よりも長く待っていた。それだけでなく、多くの犬が、しばしば相手をなだめるための行動と解釈される「おすわり」や「ふせ」をしたり、尻尾を振るのをやめたりした。 研究論文の筆頭著者である、米ハーバード大学のBritta Schünemann氏は、「われわれがテストした犬は、試験者の行動が意図的か、意図的でないかを明らかに区別した上で、自分の行動を変えていた」と述べる。また、論文の共著者であるゲッティンゲン大学(ドイツ)のHannes Rakoczy氏は、「これは、犬が実際に、人間の行動に込められた意図を特定することができることを示唆している」と話す。 研究グループは、この結果に懐疑的な目が向けられる可能性のあることを承知しており、実験者の行動からの手がかり(言葉やイントネーションなど)や、以前の訓練で取得した知識などで、今回の実験で見られたような犬の行動を説明できないかを、今後の研究で検討する必要があるとしている。その上で、「それでも、今回の研究結果は、犬が心の理論の少なくとも一面を持っている可能性を示した、貴重なエビデンスとなるものだ」と結論付けている。(HealthDay News 2021年9月1日).https://consumer.healthday.com/b-9-1-accident-or-d….Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.
犬は、人間の意図的な行動と意図的ではない行動を区別できる可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。これは、犬が少なくとも、他者の心を推測する能力である「心の理論」の一面を持っていることを意味するという。マックス・プランク人類史科学研究所(ドイツ)のJuliane Bräuer氏らによるこの研究の詳細は、「Scientific Report」に9月1日発表された。 犬は昔から人間と生活を共にし、その中で人との絆を育むスキルを身につけてきた。「おすわり」や「ふせ」などのコマンドを理解する能力も、そうしたスキルの一つだ。人間の意図を理解する、あるいは少なくとも推測する能力は、心の理論の基本的な要素であるが、この能力を犬が持っているのかどうかについては、はっきりとしたことが分かっていない。そこでBräuer氏らは、この点を明らかにするための実験を行い、餌が故意に、または偶然に差し控えられた場合に、犬がどう反応するのかを評価した。 実験には51匹の犬が参加した。犬は試験者と透明の障壁で隔てられ、障壁に設けられた隙間から餌を受け取ることができるようになっていた。餌が与えられる状況として、3つのパターンが用意された。1つ目は、犬に餌を与えようとしている試験者が突然、隙間から手を引っ込めて自分の前に餌を置く場合(不本意な状況)、2つ目は、試験者が隙間から犬に餌を与えようとするが、つい落としてしまう場合(不器用な状況)、3つ目は、試験者が犬に餌を与えようとするが、障壁に遮られて与えることができない場合(不可能な状況)。いずれの場合も、餌は試験者の元に残り、犬には与えられなかった。この3つのパターンを全ての犬に経験させ、その反応を観察した。 Bräuer氏らが着目したのは、餌がもらえないと分かった犬が、その餌を手に入れようとして動くまでにかかる時間だ。同氏らは、仮に犬が人間の意図を理解できるとするなら、餌が意図的に与えられない「不本意な状況」の場合には、餌をもらえるはずだったのにもらえなくなった他の2つの状況に比べて、犬が待つ時間が長くなるはずだと予測した。 結果は研究グループの予測通りで、犬は、「不本意な状況」では他の2つの状況よりも長く待っていた。それだけでなく、多くの犬が、しばしば相手をなだめるための行動と解釈される「おすわり」や「ふせ」をしたり、尻尾を振るのをやめたりした。 研究論文の筆頭著者である、米ハーバード大学のBritta Schünemann氏は、「われわれがテストした犬は、試験者の行動が意図的か、意図的でないかを明らかに区別した上で、自分の行動を変えていた」と述べる。また、論文の共著者であるゲッティンゲン大学(ドイツ)のHannes Rakoczy氏は、「これは、犬が実際に、人間の行動に込められた意図を特定することができることを示唆している」と話す。 研究グループは、この結果に懐疑的な目が向けられる可能性のあることを承知しており、実験者の行動からの手がかり(言葉やイントネーションなど)や、以前の訓練で取得した知識などで、今回の実験で見られたような犬の行動を説明できないかを、今後の研究で検討する必要があるとしている。その上で、「それでも、今回の研究結果は、犬が心の理論の少なくとも一面を持っている可能性を示した、貴重なエビデンスとなるものだ」と結論付けている。(HealthDay News 2021年9月1日).https://consumer.healthday.com/b-9-1-accident-or-d….Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.