毎日の摂取カロリーをわずかに減らすだけで、より健康的な人生を送ることができるかもしれない。米イェール大学医学部のVishwa Deep Dixit氏らが実施した研究で、カロリー制限がもたらす有益な効果に重要な役割を果たすタンパク質が特定された。このタンパク質を操作することで健康を改善できる可能性があるという。この研究の詳細は、「Science」2月10日号に掲載された。過去に実施された研究では、カロリー制限によりハエやマウスなどの寿命が延長することが示されている。今回の研究は、健康な人でのカロリー制限に関する最初のランダム化比較試験であるCALERIE試験の結果に基づくもの。Dixit氏らは、カロリー摂取量を14%減らした人(カロリー制限群)と、普段通りの摂取量を維持した人(カロリー維持群)の200人以上を2年間追跡して、カロリー制限が健康に及ぼす長期的な影響を検討した。同氏は、「この研究の目的は、カロリー制限が動物と同様にヒトにも有益であるかどうかを確認することだった。また、もし有益であるなら、カロリー制限の何が健康の改善をもたらすのかを解明したかった」と話している。Dixit氏らはまず、免疫細胞の一種であるT細胞を産生する胸腺について調べた。その結果、胸腺は他の臓器よりも老化が早く、身体が健康でも40歳に達するまでに70%の人で胸腺に脂肪がたまり、正常に機能しなくなることが明らかになった。また、このような老化が進むにつれ、胸腺で作られるT細胞の数が減少することも判明した。研究グループは、「これが、加齢に伴い疾患リスクが高まる理由の一つだろう」との見方を示している。しかし、カロリー制限群では、試験開始から2年後に胸腺の脂肪量が減る一方でT細胞の産生量は増えていた。これに対して、カロリー維持群ではこのような変化は認められなかった。Dixit氏はこの結果について、「これは、臓器の若返りと言っても過言ではない。こうしたことがヒトで起こるというエビデンスはほとんどなく、驚くとともに興奮を覚えた」と話している。さらに、カロリー制限群の脂肪組織を、研究開始時とその1年後、および2年後に詳しく調べたところ、1年後の時点で脂肪組織での遺伝子発現に顕著な変化が認められ、それが2年後にも継続して認められることが分かった。そのような遺伝子の中に、カロリー制限の有益な効果を促すものがあるか否かについてさらに詳しく調べたところ、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ(PLA2G7)と呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子の発現が有意に阻害されていることが判明した。PLA2G7は、免疫細胞の一種であるマクロファージにより産生される。そこでDixit氏らは、マウスを用いた実験で、PLA2G7の産生量を減らすことでどのような効果が得られるのかを検討した。その結果、PLA2G7産生量を減らすと、マウスの胸腺の機能がより長期間保たれ、食事に関連する体重増加や加齢に伴う炎症から保護されるという、ヒトでのカロリー制限と同様のベネフィットを得られることが明らかになった。Dixit氏は、「これらの結果は、PLA2G7の産生量の低減がカロリー制限の効果を後押しすることを示すものだ。このような、カロリー制限の効果の推進力となるものの特定は、代謝系と免疫系の相互作用を理解する上で有用な情報となる。その理解が深まれば、免疫機能を改善し、炎症を軽減し、健康寿命を延長する潜在的なターゲットの特定も可能になるだろう」との見方を示す。同氏はその具体例として、「例えば、カロリー制限が有害になるような人では、PLA2G7を操作することで、実際にカロリーを制限しなくても、カロリー制限をした場合と同じ効果を得られるかもしれない」としている。(HealthDay News 2022年2月11日).https://consumer.healthday.com/b-2-11-study-hints-….Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
毎日の摂取カロリーをわずかに減らすだけで、より健康的な人生を送ることができるかもしれない。米イェール大学医学部のVishwa Deep Dixit氏らが実施した研究で、カロリー制限がもたらす有益な効果に重要な役割を果たすタンパク質が特定された。このタンパク質を操作することで健康を改善できる可能性があるという。この研究の詳細は、「Science」2月10日号に掲載された。過去に実施された研究では、カロリー制限によりハエやマウスなどの寿命が延長することが示されている。今回の研究は、健康な人でのカロリー制限に関する最初のランダム化比較試験であるCALERIE試験の結果に基づくもの。Dixit氏らは、カロリー摂取量を14%減らした人(カロリー制限群)と、普段通りの摂取量を維持した人(カロリー維持群)の200人以上を2年間追跡して、カロリー制限が健康に及ぼす長期的な影響を検討した。同氏は、「この研究の目的は、カロリー制限が動物と同様にヒトにも有益であるかどうかを確認することだった。また、もし有益であるなら、カロリー制限の何が健康の改善をもたらすのかを解明したかった」と話している。Dixit氏らはまず、免疫細胞の一種であるT細胞を産生する胸腺について調べた。その結果、胸腺は他の臓器よりも老化が早く、身体が健康でも40歳に達するまでに70%の人で胸腺に脂肪がたまり、正常に機能しなくなることが明らかになった。また、このような老化が進むにつれ、胸腺で作られるT細胞の数が減少することも判明した。研究グループは、「これが、加齢に伴い疾患リスクが高まる理由の一つだろう」との見方を示している。しかし、カロリー制限群では、試験開始から2年後に胸腺の脂肪量が減る一方でT細胞の産生量は増えていた。これに対して、カロリー維持群ではこのような変化は認められなかった。Dixit氏はこの結果について、「これは、臓器の若返りと言っても過言ではない。こうしたことがヒトで起こるというエビデンスはほとんどなく、驚くとともに興奮を覚えた」と話している。さらに、カロリー制限群の脂肪組織を、研究開始時とその1年後、および2年後に詳しく調べたところ、1年後の時点で脂肪組織での遺伝子発現に顕著な変化が認められ、それが2年後にも継続して認められることが分かった。そのような遺伝子の中に、カロリー制限の有益な効果を促すものがあるか否かについてさらに詳しく調べたところ、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ(PLA2G7)と呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子の発現が有意に阻害されていることが判明した。PLA2G7は、免疫細胞の一種であるマクロファージにより産生される。そこでDixit氏らは、マウスを用いた実験で、PLA2G7の産生量を減らすことでどのような効果が得られるのかを検討した。その結果、PLA2G7産生量を減らすと、マウスの胸腺の機能がより長期間保たれ、食事に関連する体重増加や加齢に伴う炎症から保護されるという、ヒトでのカロリー制限と同様のベネフィットを得られることが明らかになった。Dixit氏は、「これらの結果は、PLA2G7の産生量の低減がカロリー制限の効果を後押しすることを示すものだ。このような、カロリー制限の効果の推進力となるものの特定は、代謝系と免疫系の相互作用を理解する上で有用な情報となる。その理解が深まれば、免疫機能を改善し、炎症を軽減し、健康寿命を延長する潜在的なターゲットの特定も可能になるだろう」との見方を示す。同氏はその具体例として、「例えば、カロリー制限が有害になるような人では、PLA2G7を操作することで、実際にカロリーを制限しなくても、カロリー制限をした場合と同じ効果を得られるかもしれない」としている。(HealthDay News 2022年2月11日).https://consumer.healthday.com/b-2-11-study-hints-….Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock