妊娠中に妊娠高血圧腎症を発症した女性では、中年期に及んでも目の細小血管にダメージの兆候が見られるとする研究結果が報告された。研究を実施した米マサチューセッツ総合病院(MGH)の心臓専門医Michael Honigberg氏らは、この細小血管障害により、妊娠高血圧腎症の既往を持つ女性における後年の心疾患のリスク増加を説明できる可能性があると見ている。この研究の詳細は、「Circulation」2月15日号に掲載された。妊娠高血圧腎症は、尿中に過剰なタンパク質を伴う高血圧であり、妊婦の最大8%が発症する。適切に管理しないと、妊娠高血圧腎症により母子に深刻な合併症が生じる可能性がある。Honigberg氏は、「細小血管障害は中年期以降の心疾患の根底に潜む主要素であるとする認識は、年々高まりつつある。それゆえ、人生早期の妊娠中に、ある種の細小血管合併症を発症した女性では、後年になって細小血管の機能と健康に何かしら異常が生じ得ると考えるのは理にかなっている」と話す。今回の研究では、主に白人から成る1万9,000人以上の女性(平均年齢54歳)のデータが分析された。女性たちは平均で28年前に初産を経験しており、2006年から2010年の間に、網膜の画像検査や尿検査など、さまざまな検査を受けていた。Honigberg氏らはこれらのデータを用いて、妊娠中に妊娠高血圧腎症を発症した女性(281人)と、発症しなかった女性とを比較した。その結果、妊娠高血圧腎症の既往を持つ女性では、中年期以降になっても腎機能に問題があることを意味する尿蛋白が多いことが明らかになった。また、これらの女性では、妊娠高血圧腎症の既往がない女性に比べて、目の細小血管の密度がはるかに低いことも判明した。目の細小血管の密度の低さは、高血圧、心不全、腎不全、2型糖尿病、睡眠時無呼吸などの疾患に関連することが、2021年に「Circulation」に報告された研究で明らかにされている。このことはつまり、非侵襲的に撮影できる網膜の写真が、さまざまな疾患リスクを予測するための有用なツールとなる可能性があることを示唆している。論文の上席著者である、MGH予防循環器学部長のPradeep Natarajan氏は、「心臓の細小血管障害を直接調べるには、より複雑な心臓の検査が必要であるため困難を伴う。今回われわれは、別の臓器の血管を介して、低コストで心臓の細小血管の変化を調べることができた。このことに対する理解が深まれば、心疾患の発症プロセスに対処するための新しい治療法の開発に役立つ可能性がある」と話す。一方Honigberg氏は、「現時点では、この研究結果は、女性とその担当医が、妊娠高血圧腎症を発症した場合の長期的なリスク増加を認識し、ライフスタイルの変更やリスク因子を治療するための投薬など、心疾患の発症リスク低下に寄与する行動を取るのに役立つ」との見方を示す。研究対象者のうち、妊娠高血圧症(蛋白尿などの他の兆候がない妊娠中の高血圧)を発症した女性では、現在の血圧や他の因子を調整すると、血管密度に変化は認められなかった。この結果を受けて、この研究には関与していない、米メイヨークリニック腎臓・高血圧科のVesna Garovic氏は、「この研究は、網膜血管密度の低下が妊娠高血圧腎症に特異的な症状であることを明らかにするものだ。得られた結果は、妊娠時に生じるさまざまな高血圧性障害と、それらが心血管疾患に及ぼす特定の影響を層別化するという点で、非常に重要な情報になる可能性がある」と評価する。ただし、今回の研究対象者は主に白人女性であったため、研究グループは、「この結果が他の人種や民族にどの程度当てはまるのかは不明」としている。過去の研究では、妊娠高血圧腎症の発症リスクが最も高いのは黒人女性であることが報告されている。2021年12月に発表された、妊娠中の高血圧に関するAHAの科学声明の執筆を指揮したGarovic氏は、「妊娠高血圧腎症において細小血管の変化が生じるタイミングと、それがその後の心疾患に及ぼす影響を理解し、また、心血管リスクを予測するために網膜画像を使用することの妥当性を確認するためには、さらなる研究が必要だ」と述べている。(American Heart Association News 2022年2月15日).https://consumer.healthday.com/aha-news-damage-fro….American Heart Association News covers heart and brain health. Not all views expressed in this story reflect the official position of the American Heart Association. Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.Photo Credit: mheim3011/iStock, Getty Images
妊娠中に妊娠高血圧腎症を発症した女性では、中年期に及んでも目の細小血管にダメージの兆候が見られるとする研究結果が報告された。研究を実施した米マサチューセッツ総合病院(MGH)の心臓専門医Michael Honigberg氏らは、この細小血管障害により、妊娠高血圧腎症の既往を持つ女性における後年の心疾患のリスク増加を説明できる可能性があると見ている。この研究の詳細は、「Circulation」2月15日号に掲載された。妊娠高血圧腎症は、尿中に過剰なタンパク質を伴う高血圧であり、妊婦の最大8%が発症する。適切に管理しないと、妊娠高血圧腎症により母子に深刻な合併症が生じる可能性がある。Honigberg氏は、「細小血管障害は中年期以降の心疾患の根底に潜む主要素であるとする認識は、年々高まりつつある。それゆえ、人生早期の妊娠中に、ある種の細小血管合併症を発症した女性では、後年になって細小血管の機能と健康に何かしら異常が生じ得ると考えるのは理にかなっている」と話す。今回の研究では、主に白人から成る1万9,000人以上の女性(平均年齢54歳)のデータが分析された。女性たちは平均で28年前に初産を経験しており、2006年から2010年の間に、網膜の画像検査や尿検査など、さまざまな検査を受けていた。Honigberg氏らはこれらのデータを用いて、妊娠中に妊娠高血圧腎症を発症した女性(281人)と、発症しなかった女性とを比較した。その結果、妊娠高血圧腎症の既往を持つ女性では、中年期以降になっても腎機能に問題があることを意味する尿蛋白が多いことが明らかになった。また、これらの女性では、妊娠高血圧腎症の既往がない女性に比べて、目の細小血管の密度がはるかに低いことも判明した。目の細小血管の密度の低さは、高血圧、心不全、腎不全、2型糖尿病、睡眠時無呼吸などの疾患に関連することが、2021年に「Circulation」に報告された研究で明らかにされている。このことはつまり、非侵襲的に撮影できる網膜の写真が、さまざまな疾患リスクを予測するための有用なツールとなる可能性があることを示唆している。論文の上席著者である、MGH予防循環器学部長のPradeep Natarajan氏は、「心臓の細小血管障害を直接調べるには、より複雑な心臓の検査が必要であるため困難を伴う。今回われわれは、別の臓器の血管を介して、低コストで心臓の細小血管の変化を調べることができた。このことに対する理解が深まれば、心疾患の発症プロセスに対処するための新しい治療法の開発に役立つ可能性がある」と話す。一方Honigberg氏は、「現時点では、この研究結果は、女性とその担当医が、妊娠高血圧腎症を発症した場合の長期的なリスク増加を認識し、ライフスタイルの変更やリスク因子を治療するための投薬など、心疾患の発症リスク低下に寄与する行動を取るのに役立つ」との見方を示す。研究対象者のうち、妊娠高血圧症(蛋白尿などの他の兆候がない妊娠中の高血圧)を発症した女性では、現在の血圧や他の因子を調整すると、血管密度に変化は認められなかった。この結果を受けて、この研究には関与していない、米メイヨークリニック腎臓・高血圧科のVesna Garovic氏は、「この研究は、網膜血管密度の低下が妊娠高血圧腎症に特異的な症状であることを明らかにするものだ。得られた結果は、妊娠時に生じるさまざまな高血圧性障害と、それらが心血管疾患に及ぼす特定の影響を層別化するという点で、非常に重要な情報になる可能性がある」と評価する。ただし、今回の研究対象者は主に白人女性であったため、研究グループは、「この結果が他の人種や民族にどの程度当てはまるのかは不明」としている。過去の研究では、妊娠高血圧腎症の発症リスクが最も高いのは黒人女性であることが報告されている。2021年12月に発表された、妊娠中の高血圧に関するAHAの科学声明の執筆を指揮したGarovic氏は、「妊娠高血圧腎症において細小血管の変化が生じるタイミングと、それがその後の心疾患に及ぼす影響を理解し、また、心血管リスクを予測するために網膜画像を使用することの妥当性を確認するためには、さらなる研究が必要だ」と述べている。(American Heart Association News 2022年2月15日).https://consumer.healthday.com/aha-news-damage-fro….American Heart Association News covers heart and brain health. Not all views expressed in this story reflect the official position of the American Heart Association. Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.Photo Credit: mheim3011/iStock, Getty Images