ヘッドホンを使うと「頭の中」から声が聞こえるように感じられるため、外部スピーカーよりも聞き手に与える影響が大きいことが、米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)マーケティング分野教授のOn Amir氏らが実施した研究で明らかにされた。研究グループは、「この知見は、リモートワーク、職場研修など、多くの領域で役立つものだ」と述べている。研究の詳細は、「Organizational Behavior and Human Decision Processes」に掲載予定である。Amir氏らは、4,000人以上を対象に5件の実験とオンライン調査を行い、ヘッドホンと外部スピーカーが聞き手に与える影響を比較検討した。その結果、5件全ての試験で、ヘッドホンを通して音声を聞いた人の方が、スピーカーを通して聞いた人よりも、話し手をより身近に感じることが明らかになった。例えば1件の実験では、1,310人の対象者をヘッドホンで聞く群とスピーカーで聞く群にランダムに割り付けた上で、両群にホームレスである自分たちの境遇について語る母と娘の会話を聞かせた。その結果、ヘッドホンで会話を聞いた群の方がスピーカーで聞いた群よりも、話し手である母と娘に対する思いやりを強く持ち、母と娘が誠実だと感じる程度も強かった。また、805人を対象に実施されたオンライン調査では、話し手の説得力について検討された。話し手である女性は、車で帰宅中に、相手のドライバーの不注意により両親が死亡した悲劇談と、運転中に携帯電話でテキストメッセージを打つことの危険性について語った。対象者は、ヘッドホン、またはスピーカーを通してこの話を聞いた。その結果、ヘッドホンを通して話を聞いた群の方がスピーカーを通して聞いた群よりも、運転中にテキストメッセージを打つことの危険性をより強く感じ、それがより多くの死者を生み出す原因だと考える傾向が強かった。さらに、UCSDのキャンパスで実施されたフィールドワークでは行動変容について検討された。研究参加者は話し手が、自分が賞を受賞するために推薦状を書き、また自分の会社名を広める手段を知るためにメールアドレスを登録してほしいと訴えるのを、ヘッドホンまたはスピーカーを通して聞いた。この試験でも結果は、ヘッドホンで話を聞いた人の方が、推薦状を書くことに同意した人が多く、社名の広め方を知ることに対する意欲も強いというものだった。こうした結果についてAmir氏は、「ヘッドホンを使って音声を聞くと、頭内定位と呼ばれる現象が生じ、声が頭の中で響いているように感じられるため、物理的にも社会的にも、話し手をより近く感じやすい。その結果、話し手に親しみを感じ、共感しやすく、容易に説得されやすくなる」と説明する。一方、論文の共著者の1人である、米カリフォルニア大学バークレー校准教授のJuliana Schroeder氏は、「組織は研修やオンラインセミナーを計画する際に、この研究結果を考慮すると良いだろう。例えば、経営者が従業員に対し、安全講習やセミナーをヘッドホンで聞くことを推奨すれば、スピーカーで聞くよりも、態度や行動の改善に大きな効果が得られる可能性がある」と話す。またAmir氏は、会社が従業員にヘッドホンを送り、電話での会話の際に使用するよう促すことは、特にリモートワークが増えている現在、協調性を高めることにもつながるとしている。さらにAmir氏は、「インフルエンサー、ブロガー、ポッドキャスターなどは、ヘッドホンで音声を聞いてもらう方が、視聴者が離れにくくなることは明らかだ」と話す。その上で、「誰から何を聞くかだけでなく、どのような方法で聞くかも、人の判断、決定、行動に大きな影響を及ぼすことが今回の研究で示された」と付け加えている。(HealthDay News 2022年2月25日).https://consumer.healthday.com/b-2-25-voices-in-yo….Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock