睡眠時間や睡眠の質の改善には、有酸素運動よりも筋力トレーニングの方が効果的である可能性を示唆するデータが報告された。米アイオワ州立大学のAngelique Brellenthin氏らの研究によるもので、米国心臓協会(AHA)主催の疫学や疾患予防に関する学術集会(AHA EPI2022、3月1~4日、シカゴ)で発表された。Brellenthin氏らはこの研究に、米国立衛生研究所(NIH)の資金提供により実施された研究のデータを用いた。解析対象は、過体重または肥満で習慣的に運動を行っておらず、高血圧などの心血管疾患リスクを有する成人406人(年齢範囲35~70歳、女性53%)。全体の42%は夜間睡眠時間が7時間未満だった。この406人を無作為に以下の4群に分け、運動の種類と睡眠との関連を検討した。有酸素運動(AE)群101人、筋力トレーニング(RE)群102人、AE+RE群101人、および運動を課さない対照群102人。運動を課す3群には、最大強度の50~80%で60分(AE+RE群は各30分)、週3回の運動を1年間継続してもらった。また、RE群に対しては、12種類のトレーニングマシーンを全て用いて、全身の筋力を鍛えるメニューが組まれた。睡眠の質は、ベースライン時と1年後にピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いて評価した。なお、PSQIはスコアが低いほど睡眠の質が高いことを表す。介入1年後、PSQIスコアは全ての群で低下していた。一方、睡眠時間に関しては、ベースラインの睡眠時間が7時間以上だった人では有意な変化が見られなかった。それに対して、ベースラインの睡眠時間が7時間未満の人では、運動のタイプごとに、睡眠時間、入眠潜時(就床から入眠に要する時間)、睡眠効率(入眠潜時や中途覚醒を除いた睡眠時間が就床時間に占める割合)に異なる変化が認められた。具体的には、まず睡眠時間に関しては、RE群のうちベースラインの睡眠時間が7時間未満だった人で17分有意に増加していた(P=0.005)。ただし、他の3群は有意な変化がなかった。入眠潜時もRE群は3分減少したが(P=0.003)、他の3群は有意な変化がなかった。睡眠効率は、RE群(P=0.0005)、およびAE+RE群(P=0.03)で有意に上昇したが、AE群と対照群は有意な変化がなかった。Brellenthin氏によると、米国成人の3~5割は睡眠の質が悪く、3分の1以上は睡眠時間が7時間未満と報告されているという。睡眠不足は単に悩ましいということにとどまらず、健康障害を引き起こす。例えば、全死亡リスクを24%増加させ、さらに心血管死のリスクは42%増加させる可能性があるとのことだ。今回の研究では、筋力トレーニングを課したRE群での睡眠改善効果がより明確に認められた。その理由についてBrellenthin氏は、「筋力トレーニングが筋肉の成長をサポートするホルモンの放出を促し、そのホルモンが深い睡眠へ誘うのではないか」との考察を加えている。また、もう一つの可能性として、筋力トレーニングでは、ほかのタイプの運動を行った場合よりも筋肉のダメージが大きく、その回復にはより長い休息を必要とするためとも考えられるという。本研究には関与していない米ミネソタ大学のPamela Lutsey氏は、この発表を「斬新で興味深い知見」と評している。ただし、睡眠の質の改善という点で、有酸素運動と筋力トレーニングのいずれが優れているのかを明らかにするための、さらなる研究の必要性を指摘。「睡眠に対して、有酸素運動と筋力トレーニングの双方に何らかの有益性があることは明らかだ。米国の身体活動ガイドラインでも、それら双方が推奨されている。健康づくりという点では一般的に、有酸素運動が注目される傾向にあるが、筋力トレーニングも健康づくりのための重要な推奨事項である」と同氏は語っている。なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。(HealthDay News 2022年3月3日).https://consumer.healthday.com/3-3-exercise-helps-….Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
睡眠時間や睡眠の質の改善には、有酸素運動よりも筋力トレーニングの方が効果的である可能性を示唆するデータが報告された。米アイオワ州立大学のAngelique Brellenthin氏らの研究によるもので、米国心臓協会(AHA)主催の疫学や疾患予防に関する学術集会(AHA EPI2022、3月1~4日、シカゴ)で発表された。Brellenthin氏らはこの研究に、米国立衛生研究所(NIH)の資金提供により実施された研究のデータを用いた。解析対象は、過体重または肥満で習慣的に運動を行っておらず、高血圧などの心血管疾患リスクを有する成人406人(年齢範囲35~70歳、女性53%)。全体の42%は夜間睡眠時間が7時間未満だった。この406人を無作為に以下の4群に分け、運動の種類と睡眠との関連を検討した。有酸素運動(AE)群101人、筋力トレーニング(RE)群102人、AE+RE群101人、および運動を課さない対照群102人。運動を課す3群には、最大強度の50~80%で60分(AE+RE群は各30分)、週3回の運動を1年間継続してもらった。また、RE群に対しては、12種類のトレーニングマシーンを全て用いて、全身の筋力を鍛えるメニューが組まれた。睡眠の質は、ベースライン時と1年後にピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いて評価した。なお、PSQIはスコアが低いほど睡眠の質が高いことを表す。介入1年後、PSQIスコアは全ての群で低下していた。一方、睡眠時間に関しては、ベースラインの睡眠時間が7時間以上だった人では有意な変化が見られなかった。それに対して、ベースラインの睡眠時間が7時間未満の人では、運動のタイプごとに、睡眠時間、入眠潜時(就床から入眠に要する時間)、睡眠効率(入眠潜時や中途覚醒を除いた睡眠時間が就床時間に占める割合)に異なる変化が認められた。具体的には、まず睡眠時間に関しては、RE群のうちベースラインの睡眠時間が7時間未満だった人で17分有意に増加していた(P=0.005)。ただし、他の3群は有意な変化がなかった。入眠潜時もRE群は3分減少したが(P=0.003)、他の3群は有意な変化がなかった。睡眠効率は、RE群(P=0.0005)、およびAE+RE群(P=0.03)で有意に上昇したが、AE群と対照群は有意な変化がなかった。Brellenthin氏によると、米国成人の3~5割は睡眠の質が悪く、3分の1以上は睡眠時間が7時間未満と報告されているという。睡眠不足は単に悩ましいということにとどまらず、健康障害を引き起こす。例えば、全死亡リスクを24%増加させ、さらに心血管死のリスクは42%増加させる可能性があるとのことだ。今回の研究では、筋力トレーニングを課したRE群での睡眠改善効果がより明確に認められた。その理由についてBrellenthin氏は、「筋力トレーニングが筋肉の成長をサポートするホルモンの放出を促し、そのホルモンが深い睡眠へ誘うのではないか」との考察を加えている。また、もう一つの可能性として、筋力トレーニングでは、ほかのタイプの運動を行った場合よりも筋肉のダメージが大きく、その回復にはより長い休息を必要とするためとも考えられるという。本研究には関与していない米ミネソタ大学のPamela Lutsey氏は、この発表を「斬新で興味深い知見」と評している。ただし、睡眠の質の改善という点で、有酸素運動と筋力トレーニングのいずれが優れているのかを明らかにするための、さらなる研究の必要性を指摘。「睡眠に対して、有酸素運動と筋力トレーニングの双方に何らかの有益性があることは明らかだ。米国の身体活動ガイドラインでも、それら双方が推奨されている。健康づくりという点では一般的に、有酸素運動が注目される傾向にあるが、筋力トレーニングも健康づくりのための重要な推奨事項である」と同氏は語っている。なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。(HealthDay News 2022年3月3日).https://consumer.healthday.com/3-3-exercise-helps-….Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock