救急外来(ED)で処置を受ける患者の多くが、痛みに加えて不安や気分の落ち込みを経験するが、こうした苦しみは、人間のベストフレンドである犬により軽減される可能性を示した研究結果が報告された。サスカチュワン大学(カナダ)のColleen Anne Dell氏らによるこの研究の詳細は、「PLOS ONE」に3月9日掲載された。EDを受診する理由の80%は痛みである。過去の研究では、ED受診中に感じる不安が、患者の感じる痛みを増強させることも示されている。Dell氏らは今回、セラピードッグチームによる介入が、救急患者の症状や生理的変化(心拍数、血圧)に及ぼす影響を、比較臨床試験のデザインにより検討した。対象者は、介入を受ける患者97人(介入群)と対照群101人。介入内容は、セラピードッグチームが対象患者の元を訪れ、患者が犬をかわいがっている間に、犬のトレーナーが患者と雑談するというもので、セラピードッグチームの平均滞在時間は10分程度だった。患者の症状については、エドモントン症状評価システム改訂版(ESAS-r)により、痛み、不安、気分の落ち込み、および全体的な調子について、0(症状なし)から10(最もひどい症状)の11段階で評価した。データは、介入群では介入前、介入直後、介入から20分後の3回にわたって、対照群では30分の間隔を置いて2回にわたって収集された。介入前後のデータを比較したところ、介入群では、介入前と比べて介入後に、痛みが有意に軽減していた。これに対して、対照群では2回の評価の間に痛みの軽減は確認されなかった。また、気分の落ち込み、抑うつ、全体的な調子(ウェルビーイング)についても、介入群でのみ有意な改善が認められた。血圧と心拍数については、両群ともに変化が見られなかった。介入群で、介入に対して強い反応(症状の50%超の軽減)を示した患者の割合は、痛みで43%、不安で48%、気分の落ち込みで46%、全体的な調子で41%だった。Dell氏は、「痛みは複雑で、各人に固有の感情的および感覚的な経験だ。犬は、言葉では説明しがたい方法で人間と絆を築く。人は、人に対して批判的だと感じることはままあるが、犬に対してそう感じることはない。人間が犬に特別なつながりを感じるのは、それが理由の一部なのだろう」と説明する。そして、「重要なことは、セラピードッグチームによる介入が、患者の痛みの有意な軽減に役立ったということだ。この結果や、その理由についてもっと調べる必要がある」と語っている。今回の研究には関与していない、米マウントサイナイ・クイーンズ病院の救急医であるErik Blutinger氏は、「この研究結果は、将来的に一般化できる可能性があり、また、私が実際に現場で目にしてきたことと一致するものでもある。ウェルビーイング、気分の落ち込み、不安はいずれも多面的で奥深く、しばしば明確な治療薬で治療することは困難であり、新しいアプローチでの対処が必要だ」と主張する。Blutinger氏は、「セラピードッグと過ごすことでなぜ患者の痛みや不安が軽減するのか、そのメカニズムは不明だ」と指摘した上で、「可能性としては、満足や喜びにつながるような経験をすると、体内のドパミンレベルが上昇し、それが痛みを和らげるのかもしれない」との見方を示している。(HealthDay News 2022年3月10日).https://consumer.healthday.com/3-10-pooch-power-th….Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.写真:セラピードッグのMurphy。Photo Credit: Jane Smith
救急外来(ED)で処置を受ける患者の多くが、痛みに加えて不安や気分の落ち込みを経験するが、こうした苦しみは、人間のベストフレンドである犬により軽減される可能性を示した研究結果が報告された。サスカチュワン大学(カナダ)のColleen Anne Dell氏らによるこの研究の詳細は、「PLOS ONE」に3月9日掲載された。EDを受診する理由の80%は痛みである。過去の研究では、ED受診中に感じる不安が、患者の感じる痛みを増強させることも示されている。Dell氏らは今回、セラピードッグチームによる介入が、救急患者の症状や生理的変化(心拍数、血圧)に及ぼす影響を、比較臨床試験のデザインにより検討した。対象者は、介入を受ける患者97人(介入群)と対照群101人。介入内容は、セラピードッグチームが対象患者の元を訪れ、患者が犬をかわいがっている間に、犬のトレーナーが患者と雑談するというもので、セラピードッグチームの平均滞在時間は10分程度だった。患者の症状については、エドモントン症状評価システム改訂版(ESAS-r)により、痛み、不安、気分の落ち込み、および全体的な調子について、0(症状なし)から10(最もひどい症状)の11段階で評価した。データは、介入群では介入前、介入直後、介入から20分後の3回にわたって、対照群では30分の間隔を置いて2回にわたって収集された。介入前後のデータを比較したところ、介入群では、介入前と比べて介入後に、痛みが有意に軽減していた。これに対して、対照群では2回の評価の間に痛みの軽減は確認されなかった。また、気分の落ち込み、抑うつ、全体的な調子(ウェルビーイング)についても、介入群でのみ有意な改善が認められた。血圧と心拍数については、両群ともに変化が見られなかった。介入群で、介入に対して強い反応(症状の50%超の軽減)を示した患者の割合は、痛みで43%、不安で48%、気分の落ち込みで46%、全体的な調子で41%だった。Dell氏は、「痛みは複雑で、各人に固有の感情的および感覚的な経験だ。犬は、言葉では説明しがたい方法で人間と絆を築く。人は、人に対して批判的だと感じることはままあるが、犬に対してそう感じることはない。人間が犬に特別なつながりを感じるのは、それが理由の一部なのだろう」と説明する。そして、「重要なことは、セラピードッグチームによる介入が、患者の痛みの有意な軽減に役立ったということだ。この結果や、その理由についてもっと調べる必要がある」と語っている。今回の研究には関与していない、米マウントサイナイ・クイーンズ病院の救急医であるErik Blutinger氏は、「この研究結果は、将来的に一般化できる可能性があり、また、私が実際に現場で目にしてきたことと一致するものでもある。ウェルビーイング、気分の落ち込み、不安はいずれも多面的で奥深く、しばしば明確な治療薬で治療することは困難であり、新しいアプローチでの対処が必要だ」と主張する。Blutinger氏は、「セラピードッグと過ごすことでなぜ患者の痛みや不安が軽減するのか、そのメカニズムは不明だ」と指摘した上で、「可能性としては、満足や喜びにつながるような経験をすると、体内のドパミンレベルが上昇し、それが痛みを和らげるのかもしれない」との見方を示している。(HealthDay News 2022年3月10日).https://consumer.healthday.com/3-10-pooch-power-th….Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.写真:セラピードッグのMurphy。Photo Credit: Jane Smith