アキレス腱を断裂した場合、ギプスや装具を用いて治療する保存療法よりも、断裂した腱を縫合する手術療法の方が良好な転帰を望めるのだろうか。その答えとなるようなランダム化比較試験の結果が報告された。同試験では、保存療法と比べて手術療法の方が12カ月後の患者の転帰が優れているわけではないことが示唆されたという。アーケシュフース大学病院(ノルウェー)の整形外科医であるStåle B. Myhrvold氏らが実施したこの研究の詳細は、「The New England Journal of Medicine」4月14日号に掲載された。アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉とかかとの骨をつなぐ、人体で最大の腱である。アキレス腱の断裂は、走る、ジャンプする、踏み込むなどの動作で生じることが多い。過去の研究では、アキレス腱断裂後の治療法として、手術療法と保存療法で転帰に大きな違いはないことが報告されている。しかし、これらの研究はいずれも規模が小さいため、再断裂などの長期的なリスク差について明らかにすることは困難である。そこでMyhrvold氏らは、多施設共同ランダム化比較試験を実施し、アキレス腱断裂患者に対する、保存療法、直視下手術(切開して行う手術)、低侵襲手術による転帰を比較した。主要評価項目は、試験開始時から12カ月時点でのアキレス腱完全断裂転帰スコア(Achilles' tendon Total Rupture Score;ATRS)の変化量とした。ATRSは0〜100点でスコア化され、スコアが高いほど健康状態が良好であることを意味する。対象者である554人がいずれかの治療を受ける群にランダムに割り付けられ、最終的に526人が解析対象とされた。ATRSの変化量の平均は、保存療法群で−17.0点、直視下手術群で−16.0点、低侵襲手術群で−14.7点であり、ペアワイズ比較では群間差は認められなかった。また、身体能力や、患者報告による身体機能の試験開始時からの変化量についても、各群で同程度であった。しかし、アキレス腱の再断裂が生じた患者の割合は、保存療法群で6.2%(11人)だったのに対して、直視下手術群と低侵襲手術群ではともに0.6%(2人)であり、前者の方が高かった。この結果についてMyhrvold氏は、「いずれの再断裂も、足首に思わぬ高負荷をかけたことが原因で生じたものだった。それゆえ、手術を受けない患者では、受傷後6カ月間は再断裂のリスクを高める活動を避けるようにすることが重要だ」と話している。一方、神経損傷が生じた患者の割合は、低侵襲手術群5.2%(9件)であったのに対して、直視下手術群では2.8%(5件)、保存療法群では0.6%(1件)だった。Myhrvold氏は、「これらの結果は、成人のほとんどのアキレス腱断裂では、外科手術をしてもしなくても転帰が同等であることを示唆している」と話す。しかし、米特別外科病院(Hospital for Special Surgery)のAndrew Elliott氏は、「慎重な管理下で実施される臨床試験の結果が、必ずしもリアルワールドにそのまま当てはまるとは限らない」として、結果の慎重な解釈を求めている。同氏は、この研究では、患者がアキレス腱断裂後72時間以内にキャストにより足を固定されていた点を指摘し、「一般的な処置の流れと比べると、この処置はかなり速い。私の場合、患者を診察してキャストで固定するまでに、1週間から10日はかかることすらある」と話している。またElliott氏は、「手術を行うかどうかは、何よりも患者の状況に鑑みて決めるべきだ。例えば、アスリートなどの活動量が多い人では、腱を適切な長さと張力になるよう調整できる手術の方が、選択肢としては良いかもしれない。一方、高齢者や喫煙者、手術が健康状態に悪影響を及ぼす可能性のある人には、保存療法の方が向いている可能性がある。もちろん患者の好みを考慮することも必要だ」と話している。(HealthDay News 2022年4月14日)https://consumer.healthday.com/4-14-what-works-best-for-ruptured-achille-s-tendons-2657123373.html.Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
アキレス腱を断裂した場合、ギプスや装具を用いて治療する保存療法よりも、断裂した腱を縫合する手術療法の方が良好な転帰を望めるのだろうか。その答えとなるようなランダム化比較試験の結果が報告された。同試験では、保存療法と比べて手術療法の方が12カ月後の患者の転帰が優れているわけではないことが示唆されたという。アーケシュフース大学病院(ノルウェー)の整形外科医であるStåle B. Myhrvold氏らが実施したこの研究の詳細は、「The New England Journal of Medicine」4月14日号に掲載された。アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉とかかとの骨をつなぐ、人体で最大の腱である。アキレス腱の断裂は、走る、ジャンプする、踏み込むなどの動作で生じることが多い。過去の研究では、アキレス腱断裂後の治療法として、手術療法と保存療法で転帰に大きな違いはないことが報告されている。しかし、これらの研究はいずれも規模が小さいため、再断裂などの長期的なリスク差について明らかにすることは困難である。そこでMyhrvold氏らは、多施設共同ランダム化比較試験を実施し、アキレス腱断裂患者に対する、保存療法、直視下手術(切開して行う手術)、低侵襲手術による転帰を比較した。主要評価項目は、試験開始時から12カ月時点でのアキレス腱完全断裂転帰スコア(Achilles' tendon Total Rupture Score;ATRS)の変化量とした。ATRSは0〜100点でスコア化され、スコアが高いほど健康状態が良好であることを意味する。対象者である554人がいずれかの治療を受ける群にランダムに割り付けられ、最終的に526人が解析対象とされた。ATRSの変化量の平均は、保存療法群で−17.0点、直視下手術群で−16.0点、低侵襲手術群で−14.7点であり、ペアワイズ比較では群間差は認められなかった。また、身体能力や、患者報告による身体機能の試験開始時からの変化量についても、各群で同程度であった。しかし、アキレス腱の再断裂が生じた患者の割合は、保存療法群で6.2%(11人)だったのに対して、直視下手術群と低侵襲手術群ではともに0.6%(2人)であり、前者の方が高かった。この結果についてMyhrvold氏は、「いずれの再断裂も、足首に思わぬ高負荷をかけたことが原因で生じたものだった。それゆえ、手術を受けない患者では、受傷後6カ月間は再断裂のリスクを高める活動を避けるようにすることが重要だ」と話している。一方、神経損傷が生じた患者の割合は、低侵襲手術群5.2%(9件)であったのに対して、直視下手術群では2.8%(5件)、保存療法群では0.6%(1件)だった。Myhrvold氏は、「これらの結果は、成人のほとんどのアキレス腱断裂では、外科手術をしてもしなくても転帰が同等であることを示唆している」と話す。しかし、米特別外科病院(Hospital for Special Surgery)のAndrew Elliott氏は、「慎重な管理下で実施される臨床試験の結果が、必ずしもリアルワールドにそのまま当てはまるとは限らない」として、結果の慎重な解釈を求めている。同氏は、この研究では、患者がアキレス腱断裂後72時間以内にキャストにより足を固定されていた点を指摘し、「一般的な処置の流れと比べると、この処置はかなり速い。私の場合、患者を診察してキャストで固定するまでに、1週間から10日はかかることすらある」と話している。またElliott氏は、「手術を行うかどうかは、何よりも患者の状況に鑑みて決めるべきだ。例えば、アスリートなどの活動量が多い人では、腱を適切な長さと張力になるよう調整できる手術の方が、選択肢としては良いかもしれない。一方、高齢者や喫煙者、手術が健康状態に悪影響を及ぼす可能性のある人には、保存療法の方が向いている可能性がある。もちろん患者の好みを考慮することも必要だ」と話している。(HealthDay News 2022年4月14日)https://consumer.healthday.com/4-14-what-works-best-for-ruptured-achille-s-tendons-2657123373.html.Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock