米国心臓協会(AHA)は、心臓と脳の健康のスコアリングシステムとして広く用いられている'Life's Simple 7'に、「睡眠」の要素を加えた'Life's Essential 8'を新たに策定。「Circulation」に6月29日、米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部のDonald Lloyd-Jones氏らによる論文が掲載された。AHAは2010年以来、心臓血管系の健康のために、適正体重の維持、禁煙、身体活動習慣、健康的な食習慣、血圧・血清脂質・血糖値のコントロールという7つの修正可能な因子をLife's Simple 7と名付け、それらの重要性を訴求してきた。これまでにLife's Simple 7を利用した研究の科学論文は2,500報以上報告されており、診察室での医師-患者間の会話でもしばしば話題に上る。Life's Essential 8ではこの7つに「睡眠」が新たに加わった。ただし、論文の筆頭著者でAHA会長でもあるLloyd-Jones氏は、「改訂のポイントは睡眠を追加しただけにとどまらない。新たなスコアリングシステムは、直近12年間のエビデンスを基に、食事や運動などの評価機能の強化も図られている」としている。Life's Simple 7の策定も主導したLloyd-Jones氏は、「心血管系の健康に睡眠が重要であることは明らかだ。しかし、Life's Simple 7策定当時は睡眠に関するエビデンスが不足していたため、スコアリングシステムへ反映するという合意に至らなかった」と話す。Life's Essential 8では、成人は一晩に7~9時間の睡眠を取る必要があり、睡眠時間が短すぎるだけでなく長すぎることも心血管系の健康に関連していると記されている。そしてLloyd-Jones氏によると、「睡眠は、睡眠以外の7つの要素の全てに影響を及ぼす」とのことだ。また論文の共著者の1人である米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のCheryl Anderson氏は、Life's Essential 8の策定を「重要な変化だ」と評し、「科学の進歩にわれわれが対応して、認識を新たにしてきた結果の現れと言える」と語っている。Life's Essential 8は、100ポイントのスコアで心血管疾患のリスクを評価する。詳細は、www.heart.org/lifes8に公開されている。以前から存在するLife's Simple 7の7因子には微調整が加えられた。例えば、喫煙に関しては紙巻タバコだけでなく、ニコチンや電子タバコへの曝露、および受動喫煙の影響についても盛り込まれている。血清脂質に関しては、総コレステロールからnon-HDL(非善玉)コレステロールの評価を推奨するようになった。さらに、食事・運動習慣も、より精密に評価できるような変更が加えられた。一方、心血管疾患の既知のリスク因子の一つであるストレスは、新たなスコアリングシステムにも採用されていない。Lloyd-Jones氏は、「ストレスは重要なリスク因子だ」とする。しかし、同氏は「ストレスは重要ではあるが、その程度を客観的に評価することは困難だ」と、スコアリングシステムに採用されなかった理由を解説している。ところで、以前のLife's Simple 7では7つのリスク因子それぞれを、「理想的」、「平均的」、「不良」の3段階に分類して評価していた。そして米国成人の中で、全7因子が「理想的」と判定されるのは、1%にも満たないと報告されていた。それに対してLife's Essential 8では、より細分化して判定されることになる。そのため、心臓血管系の健康を改善する努力をすると、その結果が目に見えて現れるというメリットがある。Anderson氏は、「多くの人は平均的なスコアと判定されるだろう。そこからの生活習慣の改善は、必ずしも大きな変化である必要はない。新しいスコアリングシステムであれば、小さな変化もしっかり数値として確認できる」と話す。また、Lloyd-Jones氏は、「生活習慣の改善は、Life's Essential 8に掲げられている8つのリスク因子を自分に当てはめてみて、医師と話し合うことからスタートする。それら8因子のいずれかの改善が健康に役立つ」と解説する。では、仮に現在の生活習慣の中で不適切と判定されるものが3~4つ当てはまるとしたら、それらの全てについて、一気に改善を図らなければいけないのだろうか。Lloyd-Jones氏は、「そのような必要性は全くない」と語る。同氏によると、「8つのうち1つでも改善に取り組むことで、実際に健康状態が良くなることを客観的な指標で確認可能」とのことだ。「従って、Life's Essential 8をチェックした結果、たとえ多くの改善すべき点が明らかになったとしても、圧倒されるべきではない。何を選ぶかは重要ではなく、自分が成功すると思うものから始めてほしい。それが心臓血管系の健康を増進させる方法だ」とLloyd-Jones氏は付け加えている。(American Heart Association News 2022年6月29日)https://consumer.healthday.com/aha-news-sleep-joins-revamped-list-of-heart-health-essentials-2657580896.html.American Heart Association News covers heart and brain health. Not all views expressed in this story reflect the official position of the American Heart Association. Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.Photo Credit: Olga Strelnikova/iStock via Getty Images
米国心臓協会(AHA)は、心臓と脳の健康のスコアリングシステムとして広く用いられている'Life's Simple 7'に、「睡眠」の要素を加えた'Life's Essential 8'を新たに策定。「Circulation」に6月29日、米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部のDonald Lloyd-Jones氏らによる論文が掲載された。AHAは2010年以来、心臓血管系の健康のために、適正体重の維持、禁煙、身体活動習慣、健康的な食習慣、血圧・血清脂質・血糖値のコントロールという7つの修正可能な因子をLife's Simple 7と名付け、それらの重要性を訴求してきた。これまでにLife's Simple 7を利用した研究の科学論文は2,500報以上報告されており、診察室での医師-患者間の会話でもしばしば話題に上る。Life's Essential 8ではこの7つに「睡眠」が新たに加わった。ただし、論文の筆頭著者でAHA会長でもあるLloyd-Jones氏は、「改訂のポイントは睡眠を追加しただけにとどまらない。新たなスコアリングシステムは、直近12年間のエビデンスを基に、食事や運動などの評価機能の強化も図られている」としている。Life's Simple 7の策定も主導したLloyd-Jones氏は、「心血管系の健康に睡眠が重要であることは明らかだ。しかし、Life's Simple 7策定当時は睡眠に関するエビデンスが不足していたため、スコアリングシステムへ反映するという合意に至らなかった」と話す。Life's Essential 8では、成人は一晩に7~9時間の睡眠を取る必要があり、睡眠時間が短すぎるだけでなく長すぎることも心血管系の健康に関連していると記されている。そしてLloyd-Jones氏によると、「睡眠は、睡眠以外の7つの要素の全てに影響を及ぼす」とのことだ。また論文の共著者の1人である米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のCheryl Anderson氏は、Life's Essential 8の策定を「重要な変化だ」と評し、「科学の進歩にわれわれが対応して、認識を新たにしてきた結果の現れと言える」と語っている。Life's Essential 8は、100ポイントのスコアで心血管疾患のリスクを評価する。詳細は、www.heart.org/lifes8に公開されている。以前から存在するLife's Simple 7の7因子には微調整が加えられた。例えば、喫煙に関しては紙巻タバコだけでなく、ニコチンや電子タバコへの曝露、および受動喫煙の影響についても盛り込まれている。血清脂質に関しては、総コレステロールからnon-HDL(非善玉)コレステロールの評価を推奨するようになった。さらに、食事・運動習慣も、より精密に評価できるような変更が加えられた。一方、心血管疾患の既知のリスク因子の一つであるストレスは、新たなスコアリングシステムにも採用されていない。Lloyd-Jones氏は、「ストレスは重要なリスク因子だ」とする。しかし、同氏は「ストレスは重要ではあるが、その程度を客観的に評価することは困難だ」と、スコアリングシステムに採用されなかった理由を解説している。ところで、以前のLife's Simple 7では7つのリスク因子それぞれを、「理想的」、「平均的」、「不良」の3段階に分類して評価していた。そして米国成人の中で、全7因子が「理想的」と判定されるのは、1%にも満たないと報告されていた。それに対してLife's Essential 8では、より細分化して判定されることになる。そのため、心臓血管系の健康を改善する努力をすると、その結果が目に見えて現れるというメリットがある。Anderson氏は、「多くの人は平均的なスコアと判定されるだろう。そこからの生活習慣の改善は、必ずしも大きな変化である必要はない。新しいスコアリングシステムであれば、小さな変化もしっかり数値として確認できる」と話す。また、Lloyd-Jones氏は、「生活習慣の改善は、Life's Essential 8に掲げられている8つのリスク因子を自分に当てはめてみて、医師と話し合うことからスタートする。それら8因子のいずれかの改善が健康に役立つ」と解説する。では、仮に現在の生活習慣の中で不適切と判定されるものが3~4つ当てはまるとしたら、それらの全てについて、一気に改善を図らなければいけないのだろうか。Lloyd-Jones氏は、「そのような必要性は全くない」と語る。同氏によると、「8つのうち1つでも改善に取り組むことで、実際に健康状態が良くなることを客観的な指標で確認可能」とのことだ。「従って、Life's Essential 8をチェックした結果、たとえ多くの改善すべき点が明らかになったとしても、圧倒されるべきではない。何を選ぶかは重要ではなく、自分が成功すると思うものから始めてほしい。それが心臓血管系の健康を増進させる方法だ」とLloyd-Jones氏は付け加えている。(American Heart Association News 2022年6月29日)https://consumer.healthday.com/aha-news-sleep-joins-revamped-list-of-heart-health-essentials-2657580896.html.American Heart Association News covers heart and brain health. Not all views expressed in this story reflect the official position of the American Heart Association. Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.Photo Credit: Olga Strelnikova/iStock via Getty Images