乾癬と乾癬性関節炎〔以下、総称の乾癬性疾患(PsD)とする〕では、心筋トロポニンI(cTnI)の値が、古典的な心血管(CV)リスク因子とは無関係にアテローム性動脈硬化症の進展を反映している可能性があり、また、cTnIとNT-proBNP(ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント)の値の上昇も、古典的なCVリスク因子と関わりなく、CVイベントのリスク増加と関連する。しかし、CVアウトカムとの関連については、さらなる研究で検討する必要があるとする研究結果が、「Arthritis & Rheumatology」に3月8日掲載された。PsD患者では、心血管疾患の罹患率と死亡率が一般集団よりも高い。CVイベントのリスクを予測するスコアの代表例にフラミンガムリスクスコア(FRS)があるが、これは古典的なリスク因子のみに準拠したもので、免疫性疾患に特有のリスク因子については考慮されていない。一般集団を対象にした複数の研究では、cTnIとNT-proBNPの2種類の心臓バイオマーカーがCVリスクの強力な予測因子となる可能性が報告されている。しかし、リウマチ性疾患やPsDの患者における予測能については情報が限られている。そこで、Women's College Hospital(カナダ)のKeith Colaço氏らは、PsD患者においてcTnIとNT-proBNPにより、FRSに関わりなく頸動脈プラークの進展とCVイベント発生を予測できるのか、また、これらの心臓バイオマーカーによるCVリスクの予測能はFRSによる予測能より優れているのかを検討した。対象は、トロント大学に登録されているPsDコホート1,000人で、このうちの358人では、試験開始時とその2、3年後に頸動脈プラークの総面積(TPA)が測定されていた。まず、線形回帰モデルで試験開始時の2種類のバイオマーカーの値とTPAとの関連を検討したところ、単変量解析では、cTnI〔標準偏回帰係数(β)0.52、95%信頼区間(CI)0.3〜0.74、P<0.001〕とNT-proBNP(同0.24、0.1〜0.39、P=0.002)の双方がTPAと有意に関連していたが、CVリスク因子、脂質低下療法、クレアチニンレベルを調整すると、cTnIのみが有意な関連を示した(同0.21、0〜0.41、P=0.047)。次に、心臓バイオマーカーとCVイベント発生との関連を原因別Cox回帰モデルで検討した。平均7.1年に及ぶ追跡期間中に、1,000人のうちの64人に狭心症や心筋梗塞などのCVイベントが生じていた。FRSを調整したモデルでは、cTnIとNT-proBNPの双方がCVイベントと関連を示し、各バイオマーカーの値が1標準偏差(SD)上がるごとのハザード比(HR)はそれぞれ3.02(95%CI 1.12〜8.16)、2.02(同1.28〜3.18)と計算された。この傾向は、いずれのバイオマーカーに関しても、男性で女性よりも顕著だった。一つのモデルにバイオマーカーとFRSの両方を入れて分析すると、NT-proBNPのみが変わらずCVイベントと有意な関連を示した(HR 1.91、95%CI 1.23〜2.97)。その一方で、cTnIのみは関連の傾向を示したに過ぎなかった(同2.60、0.98〜6.87)。最後に、これらのバイオマーカーによるCVリスクの予測がFRCによる予測をどの程度上回るのかを、曲線化面積(AUC)、NRI(net reclassification improvement)、IDI(integrated discrimination improvement)により評価した。PsD患者のCVリスクに対するFRSの予測能は中程度であった(AUC 73.8)。このベースモデルと、FRSに心臓バイオマーカーを組み合わせたモデルの予測能を比較したところ、cTnIまたはNT-proBNP単独で、または両者を一緒に組み合わせたいずれの場合でも、予測精度に有意な向上は認められなかった(AUCはFRC+cTnIで71.6、FRC+NT-proBNPで73.8、FRC+cTnI+NT-proBNPで73.4)。著者らは、「頸動脈プラークの進展は、CVイベントが生じるはるか前に無症候性アテローム性動脈硬化症を特定するための指標として確立されているが、cTnIはこの頸動脈プラークの進展と同程度に有効な指標となる可能性がある。しかし、これらの心臓バイオマーカーに、FRSを上回る予測能は確認されなかったことから、PsD患者のCVリスク層別化のためにこれらの心臓バイオマーカーをルーティンで使用することは支持されない。これらのバイオマーカーの有用性については、今後、さらなる研究で検討する必要がある」と述べている。なお、複数の著者が製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。(HealthDay News 2022年3月11日).https://consumer.healthday.com/cardiac-troponin-i-linked-to-carotid-total-plaque-area-in-psoriatic-dz-2656879644.html.Abstract/Full Text (subscription or payment may be required).Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
乾癬と乾癬性関節炎〔以下、総称の乾癬性疾患(PsD)とする〕では、心筋トロポニンI(cTnI)の値が、古典的な心血管(CV)リスク因子とは無関係にアテローム性動脈硬化症の進展を反映している可能性があり、また、cTnIとNT-proBNP(ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント)の値の上昇も、古典的なCVリスク因子と関わりなく、CVイベントのリスク増加と関連する。しかし、CVアウトカムとの関連については、さらなる研究で検討する必要があるとする研究結果が、「Arthritis & Rheumatology」に3月8日掲載された。PsD患者では、心血管疾患の罹患率と死亡率が一般集団よりも高い。CVイベントのリスクを予測するスコアの代表例にフラミンガムリスクスコア(FRS)があるが、これは古典的なリスク因子のみに準拠したもので、免疫性疾患に特有のリスク因子については考慮されていない。一般集団を対象にした複数の研究では、cTnIとNT-proBNPの2種類の心臓バイオマーカーがCVリスクの強力な予測因子となる可能性が報告されている。しかし、リウマチ性疾患やPsDの患者における予測能については情報が限られている。そこで、Women's College Hospital(カナダ)のKeith Colaço氏らは、PsD患者においてcTnIとNT-proBNPにより、FRSに関わりなく頸動脈プラークの進展とCVイベント発生を予測できるのか、また、これらの心臓バイオマーカーによるCVリスクの予測能はFRSによる予測能より優れているのかを検討した。対象は、トロント大学に登録されているPsDコホート1,000人で、このうちの358人では、試験開始時とその2、3年後に頸動脈プラークの総面積(TPA)が測定されていた。まず、線形回帰モデルで試験開始時の2種類のバイオマーカーの値とTPAとの関連を検討したところ、単変量解析では、cTnI〔標準偏回帰係数(β)0.52、95%信頼区間(CI)0.3〜0.74、P<0.001〕とNT-proBNP(同0.24、0.1〜0.39、P=0.002)の双方がTPAと有意に関連していたが、CVリスク因子、脂質低下療法、クレアチニンレベルを調整すると、cTnIのみが有意な関連を示した(同0.21、0〜0.41、P=0.047)。次に、心臓バイオマーカーとCVイベント発生との関連を原因別Cox回帰モデルで検討した。平均7.1年に及ぶ追跡期間中に、1,000人のうちの64人に狭心症や心筋梗塞などのCVイベントが生じていた。FRSを調整したモデルでは、cTnIとNT-proBNPの双方がCVイベントと関連を示し、各バイオマーカーの値が1標準偏差(SD)上がるごとのハザード比(HR)はそれぞれ3.02(95%CI 1.12〜8.16)、2.02(同1.28〜3.18)と計算された。この傾向は、いずれのバイオマーカーに関しても、男性で女性よりも顕著だった。一つのモデルにバイオマーカーとFRSの両方を入れて分析すると、NT-proBNPのみが変わらずCVイベントと有意な関連を示した(HR 1.91、95%CI 1.23〜2.97)。その一方で、cTnIのみは関連の傾向を示したに過ぎなかった(同2.60、0.98〜6.87)。最後に、これらのバイオマーカーによるCVリスクの予測がFRCによる予測をどの程度上回るのかを、曲線化面積(AUC)、NRI(net reclassification improvement)、IDI(integrated discrimination improvement)により評価した。PsD患者のCVリスクに対するFRSの予測能は中程度であった(AUC 73.8)。このベースモデルと、FRSに心臓バイオマーカーを組み合わせたモデルの予測能を比較したところ、cTnIまたはNT-proBNP単独で、または両者を一緒に組み合わせたいずれの場合でも、予測精度に有意な向上は認められなかった(AUCはFRC+cTnIで71.6、FRC+NT-proBNPで73.8、FRC+cTnI+NT-proBNPで73.4)。著者らは、「頸動脈プラークの進展は、CVイベントが生じるはるか前に無症候性アテローム性動脈硬化症を特定するための指標として確立されているが、cTnIはこの頸動脈プラークの進展と同程度に有効な指標となる可能性がある。しかし、これらの心臓バイオマーカーに、FRSを上回る予測能は確認されなかったことから、PsD患者のCVリスク層別化のためにこれらの心臓バイオマーカーをルーティンで使用することは支持されない。これらのバイオマーカーの有用性については、今後、さらなる研究で検討する必要がある」と述べている。なお、複数の著者が製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。(HealthDay News 2022年3月11日).https://consumer.healthday.com/cardiac-troponin-i-linked-to-carotid-total-plaque-area-in-psoriatic-dz-2656879644.html.Abstract/Full Text (subscription or payment may be required).Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock