家族の健康リスクについて子どもに話すことは重要だが、この種の情報共有が子どもに及ぼす影響についてはよく分かっていない。そうした中、母親の遺伝性の乳がんや卵巣がんに対するリスクに関することを子どもと共有しても、子どものがんリスクと関わる生活習慣行動や生活の質(QOL)に長期的な影響を及ぼすことはないとする研究結果が、「Pediatrics」に7月21日掲載された。米ジョージタウン大学ロンバルディ総合がんセンターのBeth Peshkin氏らは、今回の試験開始の1〜5年前にBRCA遺伝子検査を受けた母親を持つ12〜24歳の272人を対象に、母親の健康やBRCAステータスが子どもの生活習慣行動やQOLに及ぼす長期的な影響について検討した。BRCAタンパク質はDNAに生じた変異を修復する役割を担うタンパク質で、BRCA1またはBRCA2のいずれかのタンパク質を作り出す遺伝子に病的な変異が生じると、がんの発症リスクが高まると考えられている。BRCA1または2の病的な変異は、性別を問わず、子どもをはじめとする血縁者に遺伝するとされている。今回の研究対象者では、17.3%がBRCA遺伝子変異陽性の母親を持っていた。また、76.1%の対象者の母親は、乳がんまたは卵巣がんを経験したがんサバイバーだった。分析の結果、母親のBRCAステータスが、子どもの飲酒やタバコの使用、運動習慣などのがんリスクと関わる行動や精神的苦痛に影響を及ぼすことはないことが明らかになった。また、がんサバイバーである母親を持つ人は、健康な母親を持つ人よりも自身のがんリスクは高く、がんに対する知識も豊富であると考えていた。さらに、BRCA遺伝子変異陽性の母親を持つ人は、がんに対する懸念が強く、自分の健康は遺伝子により左右されるとの思いが強く、遺伝学に関する知識の習得を重視する傾向が強かった。母親のがんに関する情報を子どもが親と共有しても子どもの生活習慣行動に変化は認められなかったというこの結果についてPeshkin氏は、「運動や飲酒、喫煙に関わる子どもの行動に変化は見られなかったものの、がんリスクを自覚してはいる。そこをうまく利用すれば、子どもの行動変容も可能になるはずだ。おそらくこれらの子どもたちには、がんリスクを回避するためのツールや正式な方法が与えられていなかったのだろう」と話している。その一方でPeshkin氏は、親が遺伝性のがんのリスクについて、子どもを恐がらせることなく伝える方法の難しさについても言及している。同氏は、「われわれは親たちに、例えばスポーツイベントに向かう車の中など、思いがけないときに会話が始まることもあると伝えている。がんリスクのような重大な話題を切り出す機会は、例えば母親の毎年のマンモグラフィー検査の時期など、自ずと訪れてくれるものだ」と話す。その上でPeshkin氏は、「重要なのは、いつ情報を共有するのか、子どもがそのことについて周りの人に尋ねたり、あるいはそのことに気が付いたときにどう思うかなどの点について、あらかじめ自分に問いかけておくことだ。それに加えて、子どもの精神発達も考慮しながら、情報を伝える時期やその内容をケースバイケースで考えることも重要だ」と説明。「特に幼い子どもの場合、少しだけ伝えた上で、もっと知りたがるかどうかを見るべきだ」と助言している。(HealthDay News 2022年7月22日)https://consumer.healthday.com/7-21-2657667425.html.Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
家族の健康リスクについて子どもに話すことは重要だが、この種の情報共有が子どもに及ぼす影響についてはよく分かっていない。そうした中、母親の遺伝性の乳がんや卵巣がんに対するリスクに関することを子どもと共有しても、子どものがんリスクと関わる生活習慣行動や生活の質(QOL)に長期的な影響を及ぼすことはないとする研究結果が、「Pediatrics」に7月21日掲載された。米ジョージタウン大学ロンバルディ総合がんセンターのBeth Peshkin氏らは、今回の試験開始の1〜5年前にBRCA遺伝子検査を受けた母親を持つ12〜24歳の272人を対象に、母親の健康やBRCAステータスが子どもの生活習慣行動やQOLに及ぼす長期的な影響について検討した。BRCAタンパク質はDNAに生じた変異を修復する役割を担うタンパク質で、BRCA1またはBRCA2のいずれかのタンパク質を作り出す遺伝子に病的な変異が生じると、がんの発症リスクが高まると考えられている。BRCA1または2の病的な変異は、性別を問わず、子どもをはじめとする血縁者に遺伝するとされている。今回の研究対象者では、17.3%がBRCA遺伝子変異陽性の母親を持っていた。また、76.1%の対象者の母親は、乳がんまたは卵巣がんを経験したがんサバイバーだった。分析の結果、母親のBRCAステータスが、子どもの飲酒やタバコの使用、運動習慣などのがんリスクと関わる行動や精神的苦痛に影響を及ぼすことはないことが明らかになった。また、がんサバイバーである母親を持つ人は、健康な母親を持つ人よりも自身のがんリスクは高く、がんに対する知識も豊富であると考えていた。さらに、BRCA遺伝子変異陽性の母親を持つ人は、がんに対する懸念が強く、自分の健康は遺伝子により左右されるとの思いが強く、遺伝学に関する知識の習得を重視する傾向が強かった。母親のがんに関する情報を子どもが親と共有しても子どもの生活習慣行動に変化は認められなかったというこの結果についてPeshkin氏は、「運動や飲酒、喫煙に関わる子どもの行動に変化は見られなかったものの、がんリスクを自覚してはいる。そこをうまく利用すれば、子どもの行動変容も可能になるはずだ。おそらくこれらの子どもたちには、がんリスクを回避するためのツールや正式な方法が与えられていなかったのだろう」と話している。その一方でPeshkin氏は、親が遺伝性のがんのリスクについて、子どもを恐がらせることなく伝える方法の難しさについても言及している。同氏は、「われわれは親たちに、例えばスポーツイベントに向かう車の中など、思いがけないときに会話が始まることもあると伝えている。がんリスクのような重大な話題を切り出す機会は、例えば母親の毎年のマンモグラフィー検査の時期など、自ずと訪れてくれるものだ」と話す。その上でPeshkin氏は、「重要なのは、いつ情報を共有するのか、子どもがそのことについて周りの人に尋ねたり、あるいはそのことに気が付いたときにどう思うかなどの点について、あらかじめ自分に問いかけておくことだ。それに加えて、子どもの精神発達も考慮しながら、情報を伝える時期やその内容をケースバイケースで考えることも重要だ」と説明。「特に幼い子どもの場合、少しだけ伝えた上で、もっと知りたがるかどうかを見るべきだ」と助言している。(HealthDay News 2022年7月22日)https://consumer.healthday.com/7-21-2657667425.html.Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock