現在、心不全の治療では、フロセミドとトラセミドの2種類の利尿薬が広く使用されているが、どちらを使用しても、生存期間を延長する効果に差はないことが、米デューク大学医療センターのRobert Mentz氏らによる臨床試験で示された。結果の詳細は、「Journal of American Medical Association(JAMA)」1月17日号に発表された。.米疾病対策センター(CDC)によると、米国では65歳以上を中心に、心不全の成人患者数が600万人を超えている。心不全は心臓のポンプ機能が弱まり、全身が必要とする量の血液を十分に送り出せなくなった状態を指す。利尿薬には心不全患者の体内にたまった余分な水分の排出を促し、うっ血や呼吸困難を改善する作用がある。.心不全の治療薬として最もよく使用されているのはフロセミドであり、数十年以上にわたって用いられている。トラセミドはフロセミドよりも新しい。Mentz氏らは、トラセミドの方が死亡率の低減効果が優れている可能性が複数の先行研究で示されたことを受け、今回の臨床試験に着手したという。.同試験では、全米60施設の病院で登録された2,859人の心不全による入院患者(年齢中央値65歳、女性36.9%)を、フロセミドを投与する群(1,428人)とトラセミドを投与する群(1,431人)のいずれかにランダムに割り付け、中央値で17.4カ月にわたって全死亡率を追跡した。その結果、追跡期間中に死亡した患者の割合は、フロセミド投与群で26.2%、トラセミド投与群で26.1%と同等であった。また、12カ月間であらゆる原因による入院が生じた患者の割合は、フロセミド投与群で40.4%(577人に987件の入院)、トラセミド投与群で37.5%(536人に940件の入院)であり、入院についても両群間で有意差は認められなかった。.こうした結果についてMentz氏は、「全体的な結果として、この臨床試験では心不全患者の高リスク集団において、フロセミドと比べてトラセミドによる生存率の改善は示されなかった。フロセミド投与群とトラセミド投与群における入院率も同程度であった」と説明。また、両群ともに死亡率がかなり高かったことから、「心不全に対する利尿薬やその他の治療法の改善が必要であることも今回の試験から浮き彫りになった」と述べている。.米国立衛生研究所(NIH)傘下の米国立心肺血液研究所(NHLBI)心血管科学部門長のDavid Goff氏は、「この臨床試験から、心不全患者の治療と予後を改善するためにやるべきことはまだ多く残されているということが分かった」と話す。なお、本試験はNHLBIの資金提供を受けて実施されたが、同氏は研究グループには加わっていない。.Goff氏は、「さらなる研究が必要だ。NIHでは心不全のより良い治療法と予防法について、積極的に研究に取り組んでいる」と話している。(HealthDay News 2023年1月19日).https://consumer.healthday.com/heart-failure-2659268376.html.Copyright © 2023 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
現在、心不全の治療では、フロセミドとトラセミドの2種類の利尿薬が広く使用されているが、どちらを使用しても、生存期間を延長する効果に差はないことが、米デューク大学医療センターのRobert Mentz氏らによる臨床試験で示された。結果の詳細は、「Journal of American Medical Association(JAMA)」1月17日号に発表された。.米疾病対策センター(CDC)によると、米国では65歳以上を中心に、心不全の成人患者数が600万人を超えている。心不全は心臓のポンプ機能が弱まり、全身が必要とする量の血液を十分に送り出せなくなった状態を指す。利尿薬には心不全患者の体内にたまった余分な水分の排出を促し、うっ血や呼吸困難を改善する作用がある。.心不全の治療薬として最もよく使用されているのはフロセミドであり、数十年以上にわたって用いられている。トラセミドはフロセミドよりも新しい。Mentz氏らは、トラセミドの方が死亡率の低減効果が優れている可能性が複数の先行研究で示されたことを受け、今回の臨床試験に着手したという。.同試験では、全米60施設の病院で登録された2,859人の心不全による入院患者(年齢中央値65歳、女性36.9%)を、フロセミドを投与する群(1,428人)とトラセミドを投与する群(1,431人)のいずれかにランダムに割り付け、中央値で17.4カ月にわたって全死亡率を追跡した。その結果、追跡期間中に死亡した患者の割合は、フロセミド投与群で26.2%、トラセミド投与群で26.1%と同等であった。また、12カ月間であらゆる原因による入院が生じた患者の割合は、フロセミド投与群で40.4%(577人に987件の入院)、トラセミド投与群で37.5%(536人に940件の入院)であり、入院についても両群間で有意差は認められなかった。.こうした結果についてMentz氏は、「全体的な結果として、この臨床試験では心不全患者の高リスク集団において、フロセミドと比べてトラセミドによる生存率の改善は示されなかった。フロセミド投与群とトラセミド投与群における入院率も同程度であった」と説明。また、両群ともに死亡率がかなり高かったことから、「心不全に対する利尿薬やその他の治療法の改善が必要であることも今回の試験から浮き彫りになった」と述べている。.米国立衛生研究所(NIH)傘下の米国立心肺血液研究所(NHLBI)心血管科学部門長のDavid Goff氏は、「この臨床試験から、心不全患者の治療と予後を改善するためにやるべきことはまだ多く残されているということが分かった」と話す。なお、本試験はNHLBIの資金提供を受けて実施されたが、同氏は研究グループには加わっていない。.Goff氏は、「さらなる研究が必要だ。NIHでは心不全のより良い治療法と予防法について、積極的に研究に取り組んでいる」と話している。(HealthDay News 2023年1月19日).https://consumer.healthday.com/heart-failure-2659268376.html.Copyright © 2023 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock