魚油サプリメントについては、心臓の健康に役立つ可能性を示す、さまざまな研究が行われてきている。さらに、うつ病にも魚油サプリが有効である可能性を示唆する、英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のAlessandra Borsini氏らの研究報告が、「Molecular Psychiatry」に6月16日掲載された。 論文の筆頭著者であるBorsini氏は、「魚油に多く含まれているオメガ-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)が、抗うつ作用、抗炎症作用を有していることは知られているが、それらの作用がどのように発揮されるのかについては不明点が多い。われわれの研究は、その分子メカニズムに光を当てたものであり、この結果はオメガ-3PUFAを用いた抗うつ薬という、新規の治療法開発に資するものだ」と、KCLのニュースリリースで述べている。 これまでの研究で、大うつ病の患者は炎症レベルが上昇していることが指摘されている。しかし、大うつ病患者に対する抗炎症治療の効果は実証されていない。このような状況を背景にBorsini氏らが行い今回発表した論文は、研究室内での実験による研究と、大うつ病患者に対してオメガ-3PUFAによる介入を行う臨床研究という2つのパートから成る。 実験による研究ではまず、認知や記憶などにとって重要な部位である脳の海馬の細胞を培養。それに、オメガ-3PUFAであるEPAやDHAで前処理を加えた上で、インターロイキン-1β(IL-1β)やIL-6、インターフェロンαという炎症性サイトカインを加え、神経新生やアポトーシス(細胞の自死)への影響を検討した。その結果、EPAやDHAの前処理を加えると、炎症により引き起こされる神経新生の減少やアポトーシスの増加が抑制されることが示された。また、これらの作用には、EPAやDHAの代謝産物もかかわっていることが明らかになった。 次に、大うつ病患者を対象とする臨床研究が実施された。研究参加者は中国医薬大学病院(台湾)の精神科外来に通院している、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)が18点以上で大うつ病と診断されている22人。これを11人ずつの2群に分け、1群にはEPAを3g/日、別の1群にはDHA1.4g/日を3週間摂取してもらった。 3週間の介入で、HAM-DスコアはEPA群で25.7から9.3へ、DHA群は23.4から6.9へと、双方とも有意に低下した。うつ病寛解の目安とされるHAM-Dスコア7点以下となった患者は、EPA群54.5%、DHA群45.5%だった。また、前記の実験で神経新生の減少やアポトーシス増加の抑制との関連が示されていた、EPAやDHAの代謝産物の濃度とHAM-Dスコアが逆相関することも分かった。 後者の研究の結果について著者らは、EPAやDHAを摂取したことが、HAM-Dスコア改善の原因であると判断可能な研究デザインではなく、また用いられたEPAやDHAの用量は、魚の摂取量を増やす程度では達成できないほど高用量であるとし、性急な解釈に注意を促している。 論文の上席著者であるKCLのCarmine Pariante氏は、「われわれの研究結果のみでは、食事からのオメガ-3PUFAを増やしたり、あるいは魚油サプリを摂取したとしても、炎症やうつ病を治療可能であるとは言えないことを、強調しておきたい」と述べている。その上で、「オメガ-3PUFAのうつ病に対するメカニズムは複雑だ。それらがどのように機能するのかを完全に理解し、かつ将来の治療法開発につながる確かな情報を得るには、さらなる基礎研究と臨床研究が必要とされる」と、現状を分析している。(HealthDay News 2021年6月18日).https://consumer.healthday.com/sb-6-17-could-fish-….Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.