みかんの匂いが分からないことと、記憶や感情にかかわる脳の内側側頭領域の萎縮が有意に関連しているというデータが報告された。福岡大学スポーツ科学部の古瀬裕次郎氏らの研究で、詳細は「BMC Geriatrics」に7月12日掲載された。. パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患では嗅覚が低下することが知られており、また嗅覚障害は認知機能低下のリスクマーカーの一つとされている。しかし、健康診断では嗅覚検査が行われていないため、一般住民での嗅覚機能と身体機能、認知機能、脳萎縮との関連はほとんど分かっていない。このような背景から古瀬氏らは、福岡市の人工島であるアイランドシティの住民を対象とする疫学研究「福岡アイランドシティ研究」の一環として、以下の検討を行った。. 研究対象者は、介護を要さず自立した生活を送っている63~85歳の地域住民44人(平均年齢72.4±5.7歳、男性14人)。日本の生活で嗅ぐ機会の多い12種類の匂い(バラ、木材、みかん、練乳、カレー、使用後の靴下など)の試薬を用いて嗅覚検査を行い、その結果と認知機能、身体機能、脳MRI検査の結果、および併存疾患(高血圧、糖尿病、脂質異常症)やうつレベルとの関連を検討した。. 嗅覚検査は、12種類の匂いを正しく判定できた数を合計スコアとして解析。また、個々の匂いを判定できたか否かでも、他の検査結果との関連を解析した。脳MRI検査では、記憶や感情にかかわる海馬や扁桃体、嗅内皮質が含まれる内側側頭領域と、脳全体の灰白質の萎縮(Zスコア)を評価した。認知機能は、認知症のスクリーニングで用いられる質問票などで評価し、身体機能については歩行速度、開眼片足立ちテストなどで評価した。. 嗅覚検査の合計スコアは12点満点中平均6.8±3.3点であり、性別による有意差はなかった(P=0.178)。個々の匂いに対する感度の性差については、木材(P=0.017)と練乳(P=0.031)は女性の方が高スコアだった。認知機能や身体機能、脳萎縮の程度に性差はなかった。. 次に、嗅覚検査の合計スコアを三分位に分けて、他の検査指標との関連を検討。その結果、認知機能検査のうち実行機能(TMT検査。スコアが高いほど実行機能が低いと判定される)は、嗅覚スコアの上位分位群の方が下位分位群よりも低い(実行機能が高い)という有意な傾向性が認められた。ただし、年齢と性別で調整すると、有意性が消失した。. 続いて、12種類の個々の匂いと、認知機能、身体機能、脳萎縮との関連を検討した。結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、高血圧、糖尿病、脂質異常症、うつレベル)で調整後、みかんの匂いが分らないことと、内側側頭領域の萎縮との有意な関連が見いだされた(β=-0.347、P<0.05)。. そこで、みかんの匂いを識別できた14人と、識別できなかった30人とを比較すると、内側側頭領域の萎縮を除く全ての因子(年齢、性別、BMI、併存疾患、身体機能、認知機能、灰白質の萎縮)は、有意な群間差が見られなかった。一方、内側側頭領域萎縮のZスコアは、前者が0.59±0.40、後者は0.85±0.37で、みかんの匂いを識別できなかった群の方が、萎縮が大きかった(P=0.039)。前記と同様の因子で調整後もこの関係は引き続き有意だった(P=0.0498)。. 著者らは本研究を行うに当たって既報に基づき、嗅覚機能の低下が身体機能や認知機能の低下と関連しているとの仮説を立てていた。結果は、内側側頭領域の萎縮との関連のみが有意であり、既報とは異なるものとなった。その理由について著者らは、本研究の対象が既報の研究(77.4±8.5歳)よりも若い集団であったためではないかと考察している。. また、12種類の匂いの中で、みかんの匂いのみが内側側頭領域の萎縮と関連していたことの理由は不明としながらも、「みかんは日本人の身近な食べ物であり、その匂いを識別できないことが嗅覚の低下と内側側頭領域の萎縮の早期発見に役立つ可能性がある」と述べている。(HealthDay News 2021年8月10日).Abstract/Full Text.https://bmcgeriatr.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12877-021-02363-y.Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.
みかんの匂いが分からないことと、記憶や感情にかかわる脳の内側側頭領域の萎縮が有意に関連しているというデータが報告された。福岡大学スポーツ科学部の古瀬裕次郎氏らの研究で、詳細は「BMC Geriatrics」に7月12日掲載された。. パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患では嗅覚が低下することが知られており、また嗅覚障害は認知機能低下のリスクマーカーの一つとされている。しかし、健康診断では嗅覚検査が行われていないため、一般住民での嗅覚機能と身体機能、認知機能、脳萎縮との関連はほとんど分かっていない。このような背景から古瀬氏らは、福岡市の人工島であるアイランドシティの住民を対象とする疫学研究「福岡アイランドシティ研究」の一環として、以下の検討を行った。. 研究対象者は、介護を要さず自立した生活を送っている63~85歳の地域住民44人(平均年齢72.4±5.7歳、男性14人)。日本の生活で嗅ぐ機会の多い12種類の匂い(バラ、木材、みかん、練乳、カレー、使用後の靴下など)の試薬を用いて嗅覚検査を行い、その結果と認知機能、身体機能、脳MRI検査の結果、および併存疾患(高血圧、糖尿病、脂質異常症)やうつレベルとの関連を検討した。. 嗅覚検査は、12種類の匂いを正しく判定できた数を合計スコアとして解析。また、個々の匂いを判定できたか否かでも、他の検査結果との関連を解析した。脳MRI検査では、記憶や感情にかかわる海馬や扁桃体、嗅内皮質が含まれる内側側頭領域と、脳全体の灰白質の萎縮(Zスコア)を評価した。認知機能は、認知症のスクリーニングで用いられる質問票などで評価し、身体機能については歩行速度、開眼片足立ちテストなどで評価した。. 嗅覚検査の合計スコアは12点満点中平均6.8±3.3点であり、性別による有意差はなかった(P=0.178)。個々の匂いに対する感度の性差については、木材(P=0.017)と練乳(P=0.031)は女性の方が高スコアだった。認知機能や身体機能、脳萎縮の程度に性差はなかった。. 次に、嗅覚検査の合計スコアを三分位に分けて、他の検査指標との関連を検討。その結果、認知機能検査のうち実行機能(TMT検査。スコアが高いほど実行機能が低いと判定される)は、嗅覚スコアの上位分位群の方が下位分位群よりも低い(実行機能が高い)という有意な傾向性が認められた。ただし、年齢と性別で調整すると、有意性が消失した。. 続いて、12種類の個々の匂いと、認知機能、身体機能、脳萎縮との関連を検討した。結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、高血圧、糖尿病、脂質異常症、うつレベル)で調整後、みかんの匂いが分らないことと、内側側頭領域の萎縮との有意な関連が見いだされた(β=-0.347、P<0.05)。. そこで、みかんの匂いを識別できた14人と、識別できなかった30人とを比較すると、内側側頭領域の萎縮を除く全ての因子(年齢、性別、BMI、併存疾患、身体機能、認知機能、灰白質の萎縮)は、有意な群間差が見られなかった。一方、内側側頭領域萎縮のZスコアは、前者が0.59±0.40、後者は0.85±0.37で、みかんの匂いを識別できなかった群の方が、萎縮が大きかった(P=0.039)。前記と同様の因子で調整後もこの関係は引き続き有意だった(P=0.0498)。. 著者らは本研究を行うに当たって既報に基づき、嗅覚機能の低下が身体機能や認知機能の低下と関連しているとの仮説を立てていた。結果は、内側側頭領域の萎縮との関連のみが有意であり、既報とは異なるものとなった。その理由について著者らは、本研究の対象が既報の研究(77.4±8.5歳)よりも若い集団であったためではないかと考察している。. また、12種類の匂いの中で、みかんの匂いのみが内側側頭領域の萎縮と関連していたことの理由は不明としながらも、「みかんは日本人の身近な食べ物であり、その匂いを識別できないことが嗅覚の低下と内側側頭領域の萎縮の早期発見に役立つ可能性がある」と述べている。(HealthDay News 2021年8月10日).Abstract/Full Text.https://bmcgeriatr.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12877-021-02363-y.Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.