前処理していない検体から、短時間で新型コロナウイルスを検出できるだけでなく、ウイルスが感染力を持つかどうかについても判定できる新たなDNAセンサーの開発に成功したことを、米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)のAna Peinetti氏らが、「Science Advances」9月24日号に発表した。アプタマー・ナノポアセンサーと呼ばれるこのセンサーは、特定のウイルスと特異的に結合するDNA分子(アプタマー)と、ナノサイズの穴(ナノポア)をDNAが通過する際の電流変化で塩基配列を解読する高感度のナノポア技術を組み合わせて作られたもの。このセンサーは、ウイルスの認識だけでなく、そのウイルスの感染性も見極めることができるという。研究グループは、風邪の症状を引き起こすウイルスとして知られるアデノウイルスと、レンチウイルスの表面に新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を発現させたSARS-CoV-2シュードウイルスを含むさまざまな種類の水、唾液、血清を使って、このセンサーの性能を試した。なお、この検査法では、検査に当たっての検体の前処理は不要だという。その結果、このDNAセンサーを用いることで、ターゲットとする感染性のウイルスを30分から2時間程度で検出できることが明らかになった。その感度は、標準的なプラークアッセイや定量PCRに匹敵するレベルであるという。また、この検査法では、検体の前処理が不要であるため、培養で増えないウイルスにも使うことができるという利点もある。Peinetti氏は、「ウイルスが感染力を持つかどうかは極めて重要な情報だ。この情報に基づき、ウイルスを保有する人が周囲に感染を広げる可能性があるのか、あるいは消毒などの環境面での対策で感染を防げるのかといったことが分かるからだ」と説明する。研究論文の上席著者で、UIUC化学科の名誉教授であるYi Lu氏は、ウイルスRNA量を測定する現行のPCR検査では、正確な感染力の指標として参考にならない可能性があると指摘する。「新型コロナウイルスの場合、その感染力とウイルスRNA量の相関性は極めて弱い。感染してから早期の段階では、ウイルスRNAは少なく、検出されにくいが、その人の感染力は極めて強い。一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復して感染力のない人から多量のウイルスRNAが検出される場合もある」と説明する。また、Lu氏はCOVID-19の検査として広く実施されている抗原検査にも、PCR検査と同様の傾向があると指摘。「いずれの検査も、ウイルスの感染力に関する情報を得るには不十分だ。これらの検査結果に基づく判断により、治療や自主隔離の開始が遅れたり、まだ感染力が残っている段階で退院となったりする可能性がある」と懸念を示す。一方、研究グループの一人でUIUC社会環境工学教授のBenito Marinas氏は、「このセンサーについて検討するためのウイルスの一つとして、われわれはヒトアデノウイルスを選択した。このウイルスは、米国をはじめ世界各地で、水を介して感染が広がる新興のウイルス性病原体として問題となっているからだ」と説明する。その上で、「消毒剤によりウイルスの感染性が失われた水や、検出能に影響する物質が含まれる廃水、汚染された自然水の中から、感染性のあるアデノウイルスを検出できる能力は、前例のない新たなアプローチをもたらすだろう。この技術は、環境や公衆衛生をより確実に守ることにもつながるはずだ」と述べている。なお、このセンサー技術は、DNAに調整を加えることで、他のウイルスをターゲットにできる可能性があるという。また、「ウイルスの感染性を見分けることのできるこのセンサーは、感染のメカニズムの解明にも役立つ可能性がある」と研究グループは期待を示している。(HealthDay News 2021年9月24日).https://consumer.healthday.com/b-9-24-dna-sensor-s….Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
前処理していない検体から、短時間で新型コロナウイルスを検出できるだけでなく、ウイルスが感染力を持つかどうかについても判定できる新たなDNAセンサーの開発に成功したことを、米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)のAna Peinetti氏らが、「Science Advances」9月24日号に発表した。アプタマー・ナノポアセンサーと呼ばれるこのセンサーは、特定のウイルスと特異的に結合するDNA分子(アプタマー)と、ナノサイズの穴(ナノポア)をDNAが通過する際の電流変化で塩基配列を解読する高感度のナノポア技術を組み合わせて作られたもの。このセンサーは、ウイルスの認識だけでなく、そのウイルスの感染性も見極めることができるという。研究グループは、風邪の症状を引き起こすウイルスとして知られるアデノウイルスと、レンチウイルスの表面に新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を発現させたSARS-CoV-2シュードウイルスを含むさまざまな種類の水、唾液、血清を使って、このセンサーの性能を試した。なお、この検査法では、検査に当たっての検体の前処理は不要だという。その結果、このDNAセンサーを用いることで、ターゲットとする感染性のウイルスを30分から2時間程度で検出できることが明らかになった。その感度は、標準的なプラークアッセイや定量PCRに匹敵するレベルであるという。また、この検査法では、検体の前処理が不要であるため、培養で増えないウイルスにも使うことができるという利点もある。Peinetti氏は、「ウイルスが感染力を持つかどうかは極めて重要な情報だ。この情報に基づき、ウイルスを保有する人が周囲に感染を広げる可能性があるのか、あるいは消毒などの環境面での対策で感染を防げるのかといったことが分かるからだ」と説明する。研究論文の上席著者で、UIUC化学科の名誉教授であるYi Lu氏は、ウイルスRNA量を測定する現行のPCR検査では、正確な感染力の指標として参考にならない可能性があると指摘する。「新型コロナウイルスの場合、その感染力とウイルスRNA量の相関性は極めて弱い。感染してから早期の段階では、ウイルスRNAは少なく、検出されにくいが、その人の感染力は極めて強い。一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復して感染力のない人から多量のウイルスRNAが検出される場合もある」と説明する。また、Lu氏はCOVID-19の検査として広く実施されている抗原検査にも、PCR検査と同様の傾向があると指摘。「いずれの検査も、ウイルスの感染力に関する情報を得るには不十分だ。これらの検査結果に基づく判断により、治療や自主隔離の開始が遅れたり、まだ感染力が残っている段階で退院となったりする可能性がある」と懸念を示す。一方、研究グループの一人でUIUC社会環境工学教授のBenito Marinas氏は、「このセンサーについて検討するためのウイルスの一つとして、われわれはヒトアデノウイルスを選択した。このウイルスは、米国をはじめ世界各地で、水を介して感染が広がる新興のウイルス性病原体として問題となっているからだ」と説明する。その上で、「消毒剤によりウイルスの感染性が失われた水や、検出能に影響する物質が含まれる廃水、汚染された自然水の中から、感染性のあるアデノウイルスを検出できる能力は、前例のない新たなアプローチをもたらすだろう。この技術は、環境や公衆衛生をより確実に守ることにもつながるはずだ」と述べている。なお、このセンサー技術は、DNAに調整を加えることで、他のウイルスをターゲットにできる可能性があるという。また、「ウイルスの感染性を見分けることのできるこのセンサーは、感染のメカニズムの解明にも役立つ可能性がある」と研究グループは期待を示している。(HealthDay News 2021年9月24日).https://consumer.healthday.com/b-9-24-dna-sensor-s….Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock