新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に実施された医学部の学生を対象とする調査から、他者との会話の頻度が週に1回未満の場合、希死念慮のリスクが有意に高いことが明らかになった。パーソナリティや友人の数、独居か否かなどの共変量を調整後も、この関係は有意だという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に5月24日掲載された。.社会的な孤立は、希死念慮や自殺企図のリスク因子であるとされている。社会的な孤立を回避するために最も重要な手段の一つは他者との会話であり、会話が孤独感やうつ、不安を軽減するとの報告もある。しかし現在はCOVID-19パンデミックによって、社会的な距離を保つことを求められている。大学の講義も長期間オンラインのみとなり、学生は他者との会話の機会が減り、社会的に孤立した状態に陥りやすい環境となった。国内の大学生の自殺者数がパンデミックに伴い上昇しているとする研究結果も、既に報告されている。.このような状況を背景として藤原氏らは、パンデミック下での他者との会話の頻度の低下が希死念慮を高めているとの仮説を立て、2021年5月25~26日に同大学医学部4年生を対象とするオンラインアンケートを行い検証した。なお、2021年5月末はパンデミック第4波に当たり、東京には緊急事態宣言が発出されていた。.アンケートでは、「あいさつ以外の会話の頻度は?」という質問に、「週3回以上」、「週に1~2回」、「週に1回未満」、「なし」の中から回答してもらった。会話の相手が誰か、会話の長さ、手段(対面、電話、ネットなど)、場所などは特に限定しなかった。.希死念慮については、MINIという精神疾患簡易構造化面接法で自殺リスクを調査する際に用いられる以下の3つの質問を用いた。いずれかに「はい」と解答した場合に、「希死念慮あり」と判定した。3つの質問とは、過去1カ月間に「死んだほうが良いと思ったことがあるか?」、「自分を傷つけたいと考えたことがあるか?」、「自殺について考えたことがあるか?」というもの。.このほか、共変量として、性別、入学時年齢、友人の数、独居か否か、家族関係に不満はあるか、ビッグファイブ理論に基づくパーソナリティ、世帯所得の多寡の自己認識などを把握した。.113人中98人がアンケートに回答した(回答率86.7%)。男子が63.3%、高校新卒入学(現役合格)が67.3%、高校既卒入学が18.4%、他大学卒後入学が14.3%、独居者28.6%であり、友人の数は医学部の友人が6.72±0.40人、医学部外の友人が19.60±1.02人だった。.会話の頻度は、「週3回以上」が79.6%、「週に1~2回」が11.2%、「週に1回未満」が4.1%、「なし」が5.1%であり、「希死念慮あり」の該当者は20人(20.4%)だった。.ポアソン回帰分析により、会話の頻度が「週3回以上」の群を基準として、前記の共変量(友人の数やパーソナリティ、独居か否かなど)を調整後に、他群の「希死念慮あり」該当割合を比較すると、「週に1回未満」では6.54倍(95%信頼区間1.18~36.21)、「なし」では9.30倍(同1.41~61.06)と、それぞれ有意なリスクの上昇が認められた。「週に1~2回」では0.78倍(同0.08~6.92)であり非有意だった。線形回帰分析からも、ほぼ同様の結果が得られた。.なお、ポアソン回帰分析からは、家族関係に不満があることやパーソナリティの神経症傾向が、非有意ながら希死念慮を有することと関連する傾向が見られた。一方、新卒入学か既卒入学かの違い、独居か否か、友人の数、所得の多寡の自己認識などは、希死念慮を有することとの関連が認められなかった。.著者らは、本研究の限界点として、対象が医学部の4年生であり大学生全体の傾向を表しているとは言えないこと、大学生の中では1年生がパンデミックによるメンタルヘルスの影響を最も強く受けているとする報告があり、本研究の結果は希死念慮のリスクを過小評価している可能性のあることなどを挙げている。その上で、「週に1回未満の会話では、友人の数などとは無関係に、大学生の希死念慮リスクが高まる。オンラインによる学生間の交流の機会を増やすなどの対策を考慮する必要性が示唆される」と結論付けている。(HealthDay News 2022年7月19日).Abstract/Full Text.Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に実施された医学部の学生を対象とする調査から、他者との会話の頻度が週に1回未満の場合、希死念慮のリスクが有意に高いことが明らかになった。パーソナリティや友人の数、独居か否かなどの共変量を調整後も、この関係は有意だという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に5月24日掲載された。.社会的な孤立は、希死念慮や自殺企図のリスク因子であるとされている。社会的な孤立を回避するために最も重要な手段の一つは他者との会話であり、会話が孤独感やうつ、不安を軽減するとの報告もある。しかし現在はCOVID-19パンデミックによって、社会的な距離を保つことを求められている。大学の講義も長期間オンラインのみとなり、学生は他者との会話の機会が減り、社会的に孤立した状態に陥りやすい環境となった。国内の大学生の自殺者数がパンデミックに伴い上昇しているとする研究結果も、既に報告されている。.このような状況を背景として藤原氏らは、パンデミック下での他者との会話の頻度の低下が希死念慮を高めているとの仮説を立て、2021年5月25~26日に同大学医学部4年生を対象とするオンラインアンケートを行い検証した。なお、2021年5月末はパンデミック第4波に当たり、東京には緊急事態宣言が発出されていた。.アンケートでは、「あいさつ以外の会話の頻度は?」という質問に、「週3回以上」、「週に1~2回」、「週に1回未満」、「なし」の中から回答してもらった。会話の相手が誰か、会話の長さ、手段(対面、電話、ネットなど)、場所などは特に限定しなかった。.希死念慮については、MINIという精神疾患簡易構造化面接法で自殺リスクを調査する際に用いられる以下の3つの質問を用いた。いずれかに「はい」と解答した場合に、「希死念慮あり」と判定した。3つの質問とは、過去1カ月間に「死んだほうが良いと思ったことがあるか?」、「自分を傷つけたいと考えたことがあるか?」、「自殺について考えたことがあるか?」というもの。.このほか、共変量として、性別、入学時年齢、友人の数、独居か否か、家族関係に不満はあるか、ビッグファイブ理論に基づくパーソナリティ、世帯所得の多寡の自己認識などを把握した。.113人中98人がアンケートに回答した(回答率86.7%)。男子が63.3%、高校新卒入学(現役合格)が67.3%、高校既卒入学が18.4%、他大学卒後入学が14.3%、独居者28.6%であり、友人の数は医学部の友人が6.72±0.40人、医学部外の友人が19.60±1.02人だった。.会話の頻度は、「週3回以上」が79.6%、「週に1~2回」が11.2%、「週に1回未満」が4.1%、「なし」が5.1%であり、「希死念慮あり」の該当者は20人(20.4%)だった。.ポアソン回帰分析により、会話の頻度が「週3回以上」の群を基準として、前記の共変量(友人の数やパーソナリティ、独居か否かなど)を調整後に、他群の「希死念慮あり」該当割合を比較すると、「週に1回未満」では6.54倍(95%信頼区間1.18~36.21)、「なし」では9.30倍(同1.41~61.06)と、それぞれ有意なリスクの上昇が認められた。「週に1~2回」では0.78倍(同0.08~6.92)であり非有意だった。線形回帰分析からも、ほぼ同様の結果が得られた。.なお、ポアソン回帰分析からは、家族関係に不満があることやパーソナリティの神経症傾向が、非有意ながら希死念慮を有することと関連する傾向が見られた。一方、新卒入学か既卒入学かの違い、独居か否か、友人の数、所得の多寡の自己認識などは、希死念慮を有することとの関連が認められなかった。.著者らは、本研究の限界点として、対象が医学部の4年生であり大学生全体の傾向を表しているとは言えないこと、大学生の中では1年生がパンデミックによるメンタルヘルスの影響を最も強く受けているとする報告があり、本研究の結果は希死念慮のリスクを過小評価している可能性のあることなどを挙げている。その上で、「週に1回未満の会話では、友人の数などとは無関係に、大学生の希死念慮リスクが高まる。オンラインによる学生間の交流の機会を増やすなどの対策を考慮する必要性が示唆される」と結論付けている。(HealthDay News 2022年7月19日).Abstract/Full Text.Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock