統合失調症患者における認知機能障害の程度については、女性では、遅発性ジスキネジア(TD)の有無により明らかな差が生じないとする研究結果が、「Schizophrenia Research」5月号に掲載された論文により明らかになった。.抗精神病薬を長期使用している人に副作用として現れるTDは、認知機能障害と関連することが報告されている。首都師範大学(中国)のWanni Zhang氏らは、統合失調症の入院患者496人(平均年齢49.42±11.11歳)と健常対照者362人(同44.54±13.79歳)を対象に、TDの有無により統合失調症患者の認知機能に差が生じるのか否かを男女別に検討した。.患者の精神病理学的症状はPANSS〔Positive and Negative Syndrome Scale(陽性・陰性症状評価尺度);陽性尺度・陰性尺度・総合精神病理尺度から成る〕で、TDの重症度はAIMS〔Abnormal Involuntary Movement Scale(異常不随意運動スケール)〕で、それぞれ評価した。認知機能の評価にはRBANS(Repeatable Battery for Assessment of Neuropsychological Status)を使用し、患者313人と対照者310人を対象とした。RBANSは即時記憶、注意、言語、視空間/構成、および遅延記憶の5つの認知領域から成り、各領域の得点を合計した総得点としても評価する。.男女それぞれにおいて、TDありの患者となしの患者との間の、人口学的属性と各臨床データ項目の差は、カテゴリー変数にはχ2検定を、連続変数にはStudentのt検定または分散分析(ANOVA)を用いて評価した。RBANS得点について諸群間に差があるかどうかはANOVAと最小有意差(LSD)検定を使用して検討し、まず患者と対照者を、次にTDありの患者となしの患者を比較し、さらに男女それぞれにおいて、TDありの患者となしの患者の間で比較した。RBANS得点と臨床データ(年齢、PANSS得点、AIMS得点など)との関係の評価は相関係数(Pearson)によった。.統合失調症患者の性別内訳は、男性327人、女性169人であったが、このうちTDありは男性で117人(35.8%)、女性で35人(20.7%)であり、有意差を認めた(χ2=11.91、P=0.001)。統合失調症患者は、年齢を調整しても、RBANSの総得点と5つの領域の得点全てが健常対象者よりも有意に低かった(全てP<0.001)。また、TDありの患者では、なしの患者よりもPNASS総得点、PANSS陰性尺度の得点、AIMS得点(総合、口-顔面、四肢-体幹)が高い一方(全てP<0.001)、RBANS総得点(69.44±13.70対73.31±17.34、P=0.045)、視空間/構成(81.17±17.37対85.79±20.18、P=0.044)、および注意の得点(78.79±14.36対83.28±16.46、P=0.017)は有意に低かった。.認知機能障害の指標としてRBANS得点の差を見たところ、男性では、TDありの患者は、TDなしの患者に比べ、視空間/構成(80.80±17.53対85.9±20.28、P=0.054)の得点が低く、また注意(78.31±13.90対83.75±16.55、P=0.011)の得点は有意に低かったが、女性ではこうした差は認められなかった。さらに、相関係数を見ると、男性患者(n=234)においてのみ、視空間・構成および注意の得点とAIMS総得点との間に負の相関が認められた(視空間・構成対AIMSのr=−0.149、P=0.023;注意対AIMSのr=−0.157、P=0.016)。.著者らは、「女性においては、TDの有無で認知機能障害の程度に明らかな差はなかった。この結果は、エストロゲンなどの女性ホルモンがTDや認知機能障害の発生の予防に有効である可能性を示すものであり、さらにはTD患者のリハビリテーションプログラムは、男女別に策定すべきことを示唆するものでもある」と述べている。(HealthDay News 2023年5月19日).https://consumer.healthday.com/sex-differences-seen-in-cognitive-impairment-for-tardive-dyskinesia-in-schizophrenia-2660287313.html.Copyright © 2023 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
統合失調症患者における認知機能障害の程度については、女性では、遅発性ジスキネジア(TD)の有無により明らかな差が生じないとする研究結果が、「Schizophrenia Research」5月号に掲載された論文により明らかになった。.抗精神病薬を長期使用している人に副作用として現れるTDは、認知機能障害と関連することが報告されている。首都師範大学(中国)のWanni Zhang氏らは、統合失調症の入院患者496人(平均年齢49.42±11.11歳)と健常対照者362人(同44.54±13.79歳)を対象に、TDの有無により統合失調症患者の認知機能に差が生じるのか否かを男女別に検討した。.患者の精神病理学的症状はPANSS〔Positive and Negative Syndrome Scale(陽性・陰性症状評価尺度);陽性尺度・陰性尺度・総合精神病理尺度から成る〕で、TDの重症度はAIMS〔Abnormal Involuntary Movement Scale(異常不随意運動スケール)〕で、それぞれ評価した。認知機能の評価にはRBANS(Repeatable Battery for Assessment of Neuropsychological Status)を使用し、患者313人と対照者310人を対象とした。RBANSは即時記憶、注意、言語、視空間/構成、および遅延記憶の5つの認知領域から成り、各領域の得点を合計した総得点としても評価する。.男女それぞれにおいて、TDありの患者となしの患者との間の、人口学的属性と各臨床データ項目の差は、カテゴリー変数にはχ2検定を、連続変数にはStudentのt検定または分散分析(ANOVA)を用いて評価した。RBANS得点について諸群間に差があるかどうかはANOVAと最小有意差(LSD)検定を使用して検討し、まず患者と対照者を、次にTDありの患者となしの患者を比較し、さらに男女それぞれにおいて、TDありの患者となしの患者の間で比較した。RBANS得点と臨床データ(年齢、PANSS得点、AIMS得点など)との関係の評価は相関係数(Pearson)によった。.統合失調症患者の性別内訳は、男性327人、女性169人であったが、このうちTDありは男性で117人(35.8%)、女性で35人(20.7%)であり、有意差を認めた(χ2=11.91、P=0.001)。統合失調症患者は、年齢を調整しても、RBANSの総得点と5つの領域の得点全てが健常対象者よりも有意に低かった(全てP<0.001)。また、TDありの患者では、なしの患者よりもPNASS総得点、PANSS陰性尺度の得点、AIMS得点(総合、口-顔面、四肢-体幹)が高い一方(全てP<0.001)、RBANS総得点(69.44±13.70対73.31±17.34、P=0.045)、視空間/構成(81.17±17.37対85.79±20.18、P=0.044)、および注意の得点(78.79±14.36対83.28±16.46、P=0.017)は有意に低かった。.認知機能障害の指標としてRBANS得点の差を見たところ、男性では、TDありの患者は、TDなしの患者に比べ、視空間/構成(80.80±17.53対85.9±20.28、P=0.054)の得点が低く、また注意(78.31±13.90対83.75±16.55、P=0.011)の得点は有意に低かったが、女性ではこうした差は認められなかった。さらに、相関係数を見ると、男性患者(n=234)においてのみ、視空間・構成および注意の得点とAIMS総得点との間に負の相関が認められた(視空間・構成対AIMSのr=−0.149、P=0.023;注意対AIMSのr=−0.157、P=0.016)。.著者らは、「女性においては、TDの有無で認知機能障害の程度に明らかな差はなかった。この結果は、エストロゲンなどの女性ホルモンがTDや認知機能障害の発生の予防に有効である可能性を示すものであり、さらにはTD患者のリハビリテーションプログラムは、男女別に策定すべきことを示唆するものでもある」と述べている。(HealthDay News 2023年5月19日).https://consumer.healthday.com/sex-differences-seen-in-cognitive-impairment-for-tardive-dyskinesia-in-schizophrenia-2660287313.html.Copyright © 2023 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock