年間医療費が高額な上位10%の患者で、全医療費の約6割が使われていて、その患者の3割強が広義のメタボリックシンドローム(メタボ)に該当することが明らかになった。慶應義塾大学スポーツ医学研究センターの勝川史憲氏らが、協会けんぽのデータを解析した結果であり、詳細は「PLOS ONE」に9月28日掲載された。著者らは、「メタボの重症化予防が、医療費増大の抑制という点からも重要であることが示唆される」と述べている。.日本では保険証さえあれば窓口での一部負担金のみで治療を受けられ、このような医療アクセスの良さは国際的にも高く評価されている。その一方で近年では多くの保険者の財政状況が悪化しており、医療費増大の抑制が喫緊の課題となっている。.医療費が高額になる一因として、複数の慢性疾患を併せ持つ「マルチモビディティ」に該当する患者の存在が海外では注目されている。ただし国内でのマルチモビディティの実態と医療費の関連は、詳細が不明。これを背景として、慶應義塾大学、東京医科歯科大学、川崎医科大学の研究グループにより、協会けんぽのビッグデータを用いた解析が行われた。2020年度に開始された同協会による、外部有識者を活用した委託研究事業として初の報告。.今回の研究では、2015年度に同協会に加入していた18歳以上65歳未満の被保険者1698万9,029人のうち、高額な医療費が使われていた上位10%に当たる169万8,902人を抽出し、それらの患者がどのような疾患で医療を受けていたかを検討した。なお、人数では全体の1割を占めるこの患者群に使われていた医療費は、上記の1698万人の医療費の59.0%と約6割を占めていた。.解析の結果、医療費の上位10%を占めるこの集団では、95.6%がマルチモビディティに該当することが明らかになった。.次に、各患者の疾患の特徴に基づき全体をいくつかのパターンに分類する、潜在クラス分析という統計学的手法を用いて、マルチモビディティか否か、および、マルチモビディティの場合は併発している疾患の組み合わせによって、全体を30パターンに分類。すると、そのうち7パターンは広義のメタボ(腹囲やBMIの判定基準に該当するか否かにかかわらず、糖尿病、高血圧症、脂質異常症を併発している患者)に該当し、患者数としては31.8%を占めていた。また、この広義のメタボ該当者の医療費は28.6%と約3割を占めていた。なお、広義のメタボ以外で医療費が高額になりやすい疾患は、腎疾患と悪性腫瘍であり、特に腎疾患は1人当たりの医療費が最も高額だった。.続いて、30パターンの疾患群の分布を性別・年齢別に検討。その結果、男性では30代でメタボのパターンに分類される患者の割合が20%を超え、50代以降では半数以上に上った。一方、女性では40代までは周産期関連または月経前症候群といった女性特有の産科・婦人科系疾患のパターンに分類される患者が半数近くを占めていたが、50代以降ではメタボや運動器疾患のパターンに分類される患者が増加していた。.著者らは、「解析に用いたレセプト病名は、必ずしも実際の病態を反映しないケースもあるため、結果解釈に注意が必要」といった限界点を挙げた上で、「患者数・医療費ともに多いメタボの重症化予防の重要性が改めて示唆された。特に将来的な医療費を抑制するという観点では、就労世代からのマルチモビディティ予防がポイントとなると考えられる」と総括している。(HealthDay News 2023年11月13日).Abstract/Full Texthttps://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0291554.Copyright © 2023 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
年間医療費が高額な上位10%の患者で、全医療費の約6割が使われていて、その患者の3割強が広義のメタボリックシンドローム(メタボ)に該当することが明らかになった。慶應義塾大学スポーツ医学研究センターの勝川史憲氏らが、協会けんぽのデータを解析した結果であり、詳細は「PLOS ONE」に9月28日掲載された。著者らは、「メタボの重症化予防が、医療費増大の抑制という点からも重要であることが示唆される」と述べている。.日本では保険証さえあれば窓口での一部負担金のみで治療を受けられ、このような医療アクセスの良さは国際的にも高く評価されている。その一方で近年では多くの保険者の財政状況が悪化しており、医療費増大の抑制が喫緊の課題となっている。.医療費が高額になる一因として、複数の慢性疾患を併せ持つ「マルチモビディティ」に該当する患者の存在が海外では注目されている。ただし国内でのマルチモビディティの実態と医療費の関連は、詳細が不明。これを背景として、慶應義塾大学、東京医科歯科大学、川崎医科大学の研究グループにより、協会けんぽのビッグデータを用いた解析が行われた。2020年度に開始された同協会による、外部有識者を活用した委託研究事業として初の報告。.今回の研究では、2015年度に同協会に加入していた18歳以上65歳未満の被保険者1698万9,029人のうち、高額な医療費が使われていた上位10%に当たる169万8,902人を抽出し、それらの患者がどのような疾患で医療を受けていたかを検討した。なお、人数では全体の1割を占めるこの患者群に使われていた医療費は、上記の1698万人の医療費の59.0%と約6割を占めていた。.解析の結果、医療費の上位10%を占めるこの集団では、95.6%がマルチモビディティに該当することが明らかになった。.次に、各患者の疾患の特徴に基づき全体をいくつかのパターンに分類する、潜在クラス分析という統計学的手法を用いて、マルチモビディティか否か、および、マルチモビディティの場合は併発している疾患の組み合わせによって、全体を30パターンに分類。すると、そのうち7パターンは広義のメタボ(腹囲やBMIの判定基準に該当するか否かにかかわらず、糖尿病、高血圧症、脂質異常症を併発している患者)に該当し、患者数としては31.8%を占めていた。また、この広義のメタボ該当者の医療費は28.6%と約3割を占めていた。なお、広義のメタボ以外で医療費が高額になりやすい疾患は、腎疾患と悪性腫瘍であり、特に腎疾患は1人当たりの医療費が最も高額だった。.続いて、30パターンの疾患群の分布を性別・年齢別に検討。その結果、男性では30代でメタボのパターンに分類される患者の割合が20%を超え、50代以降では半数以上に上った。一方、女性では40代までは周産期関連または月経前症候群といった女性特有の産科・婦人科系疾患のパターンに分類される患者が半数近くを占めていたが、50代以降ではメタボや運動器疾患のパターンに分類される患者が増加していた。.著者らは、「解析に用いたレセプト病名は、必ずしも実際の病態を反映しないケースもあるため、結果解釈に注意が必要」といった限界点を挙げた上で、「患者数・医療費ともに多いメタボの重症化予防の重要性が改めて示唆された。特に将来的な医療費を抑制するという観点では、就労世代からのマルチモビディティ予防がポイントとなると考えられる」と総括している。(HealthDay News 2023年11月13日).Abstract/Full Texthttps://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0291554.Copyright © 2023 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock