関節リウマチなどの治療薬として既に実用化されているバリシチニブという飲み薬が、1型糖尿病の発症後早期でまだインスリン分泌が残っている状態からの病態進行を抑制する可能性のあることが報告された。セントビンセント医学研究所(オーストラリア)のThomas Kay氏らの研究によるもので、詳細は「The New England Journal of Medicine」に12月7日掲載された。.1型糖尿病は体の免疫系が、インスリンを産生している膵臓のβ細胞を誤って攻撃することで発症する。発症後は生存のためにインスリン療法が必須となる。欧米諸国においては糖尿病患者の約5%が1型糖尿病で占められている。論文の上席著者であるKay氏は、「これまでのところ、1型糖尿病発症後の患者はインスリンを注射や注入ポンプで投与することが欠かせない、インスリン依存状態になることが避けられない」と解説。その上で同氏は、「われわれは、診断後すみやかにバリシチニブの服用を開始すれば、インスリンの産生が維持されることを示した」と、研究成果を強調している。同氏によると、「この治験に参加した1型糖尿病患者のうち、実薬が投与された人は、血糖管理に必要とされるインスリン投与量が有意に少なかった」とのことだ。.この研究は、1型糖尿病に対するバリシチニブの有用性を、ヒトを対象に検討した初の臨床試験。バリシチニブは免疫系の調節と炎症に関係するサイトカインをブロックする作用があり、膵臓のβ細胞の破壊の原因となる免疫反応の暴走を抑制するように働くと考えられる。ただし破壊されたβ細胞の再生を促すわけではないため、Kay氏が話すように、1型糖尿病診断後の早期に服用を開始することが重要となる。同氏は、「1型糖尿病と診断された直後は、まだかなりの数のβ細胞が存在している。われわれは、免疫反応の暴走を抑制することで、β細胞のさらなる破壊を防ぐことができるかどうかを知りたかった」と研究の背景を語っている。.この臨床試験は比較的小規模なもので、新たに1型糖尿病と診断され研究に参加した患者はわずか91人だった。参加者の年齢は10~30歳で、全員が研究参加前100日以内に診断を受けていた。全体を無作為にバリシチニブ群とプラセボ群の2群に分け、血糖値とインスリン産生能を1年間にわたって追跡した。患者と研究者のいずれも、介入の割付けを知らされていなかった。.試験期間中、参加者全員が通常のインスリン療法を続けた。解析の結果、バリシチニブ群では血糖管理に必要とされたインスリン投与量が有意に少ないことが明らかになった。ただし、インスリン療法を完全に中止できた患者はいなかった。血糖管理状態については、連続血糖測定(CGM)で評価した指標に有意差が認められ、バリシチニブ群で良好だった。これらの結果に基づき研究者らは、「バリシチニブ治療によってβ細胞のインスリン分泌能が維持され、病態の進行が遅くなったことが示唆された」と述べている。なお、有害事象については頻度と重症度ともに同等であり、バリシチニブまたはプラセボに起因する重篤な事象は見られなかった。.論文の共著者の1人で同研究所のHelen Thomas氏は、「さらなる研究が必要だが、われわれはこの治療法が臨床で利用可能になることを楽観的に考えている。また本研究の結果は1型糖尿病治療の大きな変化につながり、根本的な改善をもたらす有望な成果だと確信している」と語っている。.なお、この研究はJDRF(旧若年性糖尿病研究財団)から資金提供を受けて実施された。(HealthDay News 2023年12月7日).https://www.healthday.com/health-news/diabetes/rheumatoid-arthritis-drug-could-put-brakes-on-type-1-diabetes.Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
関節リウマチなどの治療薬として既に実用化されているバリシチニブという飲み薬が、1型糖尿病の発症後早期でまだインスリン分泌が残っている状態からの病態進行を抑制する可能性のあることが報告された。セントビンセント医学研究所(オーストラリア)のThomas Kay氏らの研究によるもので、詳細は「The New England Journal of Medicine」に12月7日掲載された。.1型糖尿病は体の免疫系が、インスリンを産生している膵臓のβ細胞を誤って攻撃することで発症する。発症後は生存のためにインスリン療法が必須となる。欧米諸国においては糖尿病患者の約5%が1型糖尿病で占められている。論文の上席著者であるKay氏は、「これまでのところ、1型糖尿病発症後の患者はインスリンを注射や注入ポンプで投与することが欠かせない、インスリン依存状態になることが避けられない」と解説。その上で同氏は、「われわれは、診断後すみやかにバリシチニブの服用を開始すれば、インスリンの産生が維持されることを示した」と、研究成果を強調している。同氏によると、「この治験に参加した1型糖尿病患者のうち、実薬が投与された人は、血糖管理に必要とされるインスリン投与量が有意に少なかった」とのことだ。.この研究は、1型糖尿病に対するバリシチニブの有用性を、ヒトを対象に検討した初の臨床試験。バリシチニブは免疫系の調節と炎症に関係するサイトカインをブロックする作用があり、膵臓のβ細胞の破壊の原因となる免疫反応の暴走を抑制するように働くと考えられる。ただし破壊されたβ細胞の再生を促すわけではないため、Kay氏が話すように、1型糖尿病診断後の早期に服用を開始することが重要となる。同氏は、「1型糖尿病と診断された直後は、まだかなりの数のβ細胞が存在している。われわれは、免疫反応の暴走を抑制することで、β細胞のさらなる破壊を防ぐことができるかどうかを知りたかった」と研究の背景を語っている。.この臨床試験は比較的小規模なもので、新たに1型糖尿病と診断され研究に参加した患者はわずか91人だった。参加者の年齢は10~30歳で、全員が研究参加前100日以内に診断を受けていた。全体を無作為にバリシチニブ群とプラセボ群の2群に分け、血糖値とインスリン産生能を1年間にわたって追跡した。患者と研究者のいずれも、介入の割付けを知らされていなかった。.試験期間中、参加者全員が通常のインスリン療法を続けた。解析の結果、バリシチニブ群では血糖管理に必要とされたインスリン投与量が有意に少ないことが明らかになった。ただし、インスリン療法を完全に中止できた患者はいなかった。血糖管理状態については、連続血糖測定(CGM)で評価した指標に有意差が認められ、バリシチニブ群で良好だった。これらの結果に基づき研究者らは、「バリシチニブ治療によってβ細胞のインスリン分泌能が維持され、病態の進行が遅くなったことが示唆された」と述べている。なお、有害事象については頻度と重症度ともに同等であり、バリシチニブまたはプラセボに起因する重篤な事象は見られなかった。.論文の共著者の1人で同研究所のHelen Thomas氏は、「さらなる研究が必要だが、われわれはこの治療法が臨床で利用可能になることを楽観的に考えている。また本研究の結果は1型糖尿病治療の大きな変化につながり、根本的な改善をもたらす有望な成果だと確信している」と語っている。.なお、この研究はJDRF(旧若年性糖尿病研究財団)から資金提供を受けて実施された。(HealthDay News 2023年12月7日).https://www.healthday.com/health-news/diabetes/rheumatoid-arthritis-drug-could-put-brakes-on-type-1-diabetes.Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock