血糖降下薬のメトホルミンは、大半の乳がんに対して抑制効果を示さないという、国際共同臨床試験の結果が報告された。論文の筆頭著者である、マウントサイナイ病院ルーネンフェルト・タネンバウム研究所(カナダ)のPamela Goodwin氏は、「われわれの研究結果は、最も一般的なタイプの乳がんに対してメトホルミンは効果的でなく、それらのタイプの乳がん治療での同薬の適応外使用は中止されるべきであることを示している」と語っている。研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に5月24日掲載された。メトホルミンは、古くから使われている低コストの2型糖尿病治療薬であり、現在でも多くの患者に対する第一選択薬として処方されている。主としてインスリン抵抗性を改善することで血糖降下作用を示す。近年、メトホルミンがいくつかの種類のがんを抑制するように働く可能性が、観察研究や前臨床研究から示されている。現時点では、同薬が高インスリン血症を改善することによって、がん細胞の増殖を抑制するのではないかと考えられている。Goodwin氏らの行った国際共同臨床試験には、カナダ、米国、スイス、英国の乳がん患者3,649人(平均年齢52.4歳、女性99.8%)が参加。全体を2群に分け、全員に対して乳がんの標準的な治療を行った上で、1群にはメトホルミンを上乗せし、他の1群にはプラセボを処方して、中央値96.2カ月(範囲0.2~121)追跡。その結果、同薬による一般的な乳がんの転帰改善は認められなかった(プラセボ群に対して無浸潤疾患生存率のハザード比が1.01)。ただし、乳がんの約20%を占める、HER2陽性乳がんと呼ばれるタイプの乳がんに関しては、肯定的な結果が示された。具体的には、メトホルミンを5年間服用した場合、HER2陽性乳がんによる死亡リスクが減少する可能性が見いだされた。この点についてGoodwin氏は、「メトホルミンは大半の一般的な乳がんには有益でないが、HER2陽性乳がんに対してはメリットがあるかもしれない。今後の臨床試験の結果次第では、メトホルミンがHER2陽性乳がんの新たな治療オプションとなる可能性がある」と述べている。今回の報告により、研究の次のステップとして、HER2陽性乳がん患者を対象とするメトホルミン投与の有効性を探る臨床試験への期待が集まる。論文の上席著者であるクイーンズ大学(カナダ)のWendy Parulekar氏は、「今回の臨床試験の結果は、新たな治療アプローチの探索における国際協力の重要性を示している」と述べている。なお、今回の研究は、ベルギーのブリュッセルに拠点を置く、国際的な乳がん研究のための非営利団体「Breast International Group(乳房国際グループ)」傘下の、カナダがん臨床試験グループ(Canadian Cancer Trials Group)が主体となって行った。(HealthDay News 2022年5月26日)https://consumer.healthday.com/breast-cancer-treatment-2657371589.html.Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
血糖降下薬のメトホルミンは、大半の乳がんに対して抑制効果を示さないという、国際共同臨床試験の結果が報告された。論文の筆頭著者である、マウントサイナイ病院ルーネンフェルト・タネンバウム研究所(カナダ)のPamela Goodwin氏は、「われわれの研究結果は、最も一般的なタイプの乳がんに対してメトホルミンは効果的でなく、それらのタイプの乳がん治療での同薬の適応外使用は中止されるべきであることを示している」と語っている。研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に5月24日掲載された。メトホルミンは、古くから使われている低コストの2型糖尿病治療薬であり、現在でも多くの患者に対する第一選択薬として処方されている。主としてインスリン抵抗性を改善することで血糖降下作用を示す。近年、メトホルミンがいくつかの種類のがんを抑制するように働く可能性が、観察研究や前臨床研究から示されている。現時点では、同薬が高インスリン血症を改善することによって、がん細胞の増殖を抑制するのではないかと考えられている。Goodwin氏らの行った国際共同臨床試験には、カナダ、米国、スイス、英国の乳がん患者3,649人(平均年齢52.4歳、女性99.8%)が参加。全体を2群に分け、全員に対して乳がんの標準的な治療を行った上で、1群にはメトホルミンを上乗せし、他の1群にはプラセボを処方して、中央値96.2カ月(範囲0.2~121)追跡。その結果、同薬による一般的な乳がんの転帰改善は認められなかった(プラセボ群に対して無浸潤疾患生存率のハザード比が1.01)。ただし、乳がんの約20%を占める、HER2陽性乳がんと呼ばれるタイプの乳がんに関しては、肯定的な結果が示された。具体的には、メトホルミンを5年間服用した場合、HER2陽性乳がんによる死亡リスクが減少する可能性が見いだされた。この点についてGoodwin氏は、「メトホルミンは大半の一般的な乳がんには有益でないが、HER2陽性乳がんに対してはメリットがあるかもしれない。今後の臨床試験の結果次第では、メトホルミンがHER2陽性乳がんの新たな治療オプションとなる可能性がある」と述べている。今回の報告により、研究の次のステップとして、HER2陽性乳がん患者を対象とするメトホルミン投与の有効性を探る臨床試験への期待が集まる。論文の上席著者であるクイーンズ大学(カナダ)のWendy Parulekar氏は、「今回の臨床試験の結果は、新たな治療アプローチの探索における国際協力の重要性を示している」と述べている。なお、今回の研究は、ベルギーのブリュッセルに拠点を置く、国際的な乳がん研究のための非営利団体「Breast International Group(乳房国際グループ)」傘下の、カナダがん臨床試験グループ(Canadian Cancer Trials Group)が主体となって行った。(HealthDay News 2022年5月26日)https://consumer.healthday.com/breast-cancer-treatment-2657371589.html.Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock