新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症のある患者に対する運動は、制限ではなくむしろ励行すべきであることを示唆するデータが報告された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のAndrea Tryfonos氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に4月4日掲載された。 COVID-19急性期以降にも遷延する後遺症(post-COVID condition;PCC)のある状態での運動は、倦怠感の悪化や筋肉痛などを来しやすいことが知られている。そのため、「世界保健機関(WHO)などはPCC患者への運動を積極的には推奨していない」と、論文の筆頭著者であるTryfonos氏は解説。しかし、運動を控えることで筋肉量や筋力が低下して、状態がより悪化してしまうことも考えられる。そこで同氏らは、PCC患者では運動が本当に悪影響を及ぼすのかを確認する研究を行った。 この研究は、COVID-19罹患後3カ月以上にわたり何らかの症状のある非入院PCC患者31人(平均年齢46.6±10.0歳、女性77%、有症状期間21.6±9.2カ月)と、年齢・性別が一致する対照群31人を対象とする、無作為化クロスオーバー試験として実施された。研究参加者に対して、高強度インターバルトレーニング(HIIT)、中強度持久トレーニング(MICT)、筋力トレーニング(ST)という3種類の運動負荷試験を、試行順序を無作為化して行った。各運動負荷試験の前後および48時間後に、ビジュアルアナログスケール(VAS)を用いて疲労感を把握。また、血液検査、心肺機能検査、神経生理学的検査、筋力測定、筋生検なども実施した。 解析の結果、PCC群は日常における中~高強度運動の時間が対照群よりも43%少なく(P=0.001)、ベースライン(運動負荷試験前)の最大酸素摂取量が21%低下しており(P<0.001)、等尺性膝伸展筋力も有意に低かった(P=0.02)。また、PCC群のうち神経生理学的検査を施行した29人中18人(62%)で、ミオパシー(筋肉組織の異常)の所見が観察された。 運動負荷試験では、その前後および48時間後という全ての時点において、PCC群は対照群よりも多くの症状を報告した。しかし、運動後の疲労感の変化の差は有意水準未満だった(HIITはP=0.08、MICTはP=0.09、STはP=0.49)。 これらの結果についてTryfonos氏は、「PCC患者は体力と筋力が低下していた。しかしこれは、COVID-19の罹患とその後の活動性の低下の双方が原因と考えられる。2年近くも症状が続き、運動を避けていたのだから、身体活動のパフォーマンスが低下していたのは驚くにあたらない。一方、われわれの研究結果は、PCC患者では運動負荷前に多くの症状を訴えていたにもかかわらず、運動による症状の変化は対照群と差がなかった。つまり、運動が悪影響を及ぼすようなことはなかった」とまとめている。 同氏は研究結果に基づき、「PCCを理由に運動を控えるべきではなく、症状を観察しながら好みの運動を適切なレベルで開始し、徐々に強度を高めるように推奨すべきではないか」と提案している。(HealthDay News 2024年4月5日) https://www.healthday.com/health-news/exercise-and-fitness/it-may-be-fine-to-exercise-during-long-covid Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症のある患者に対する運動は、制限ではなくむしろ励行すべきであることを示唆するデータが報告された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のAndrea Tryfonos氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に4月4日掲載された。 COVID-19急性期以降にも遷延する後遺症(post-COVID condition;PCC)のある状態での運動は、倦怠感の悪化や筋肉痛などを来しやすいことが知られている。そのため、「世界保健機関(WHO)などはPCC患者への運動を積極的には推奨していない」と、論文の筆頭著者であるTryfonos氏は解説。しかし、運動を控えることで筋肉量や筋力が低下して、状態がより悪化してしまうことも考えられる。そこで同氏らは、PCC患者では運動が本当に悪影響を及ぼすのかを確認する研究を行った。 この研究は、COVID-19罹患後3カ月以上にわたり何らかの症状のある非入院PCC患者31人(平均年齢46.6±10.0歳、女性77%、有症状期間21.6±9.2カ月)と、年齢・性別が一致する対照群31人を対象とする、無作為化クロスオーバー試験として実施された。研究参加者に対して、高強度インターバルトレーニング(HIIT)、中強度持久トレーニング(MICT)、筋力トレーニング(ST)という3種類の運動負荷試験を、試行順序を無作為化して行った。各運動負荷試験の前後および48時間後に、ビジュアルアナログスケール(VAS)を用いて疲労感を把握。また、血液検査、心肺機能検査、神経生理学的検査、筋力測定、筋生検なども実施した。 解析の結果、PCC群は日常における中~高強度運動の時間が対照群よりも43%少なく(P=0.001)、ベースライン(運動負荷試験前)の最大酸素摂取量が21%低下しており(P<0.001)、等尺性膝伸展筋力も有意に低かった(P=0.02)。また、PCC群のうち神経生理学的検査を施行した29人中18人(62%)で、ミオパシー(筋肉組織の異常)の所見が観察された。 運動負荷試験では、その前後および48時間後という全ての時点において、PCC群は対照群よりも多くの症状を報告した。しかし、運動後の疲労感の変化の差は有意水準未満だった(HIITはP=0.08、MICTはP=0.09、STはP=0.49)。 これらの結果についてTryfonos氏は、「PCC患者は体力と筋力が低下していた。しかしこれは、COVID-19の罹患とその後の活動性の低下の双方が原因と考えられる。2年近くも症状が続き、運動を避けていたのだから、身体活動のパフォーマンスが低下していたのは驚くにあたらない。一方、われわれの研究結果は、PCC患者では運動負荷前に多くの症状を訴えていたにもかかわらず、運動による症状の変化は対照群と差がなかった。つまり、運動が悪影響を及ぼすようなことはなかった」とまとめている。 同氏は研究結果に基づき、「PCCを理由に運動を控えるべきではなく、症状を観察しながら好みの運動を適切なレベルで開始し、徐々に強度を高めるように推奨すべきではないか」と提案している。(HealthDay News 2024年4月5日) https://www.healthday.com/health-news/exercise-and-fitness/it-may-be-fine-to-exercise-during-long-covid Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock