空港の近くに住んでいる人は、航空機の騒音によって睡眠の質が低下している実態を表すデータが報告された。騒音レベルが高い地域に住む人に、睡眠中の体動や日中の居眠りがより多く認められるという。英レスター大学のXiangpu Gong氏らの研究によるもので、詳細は「Environmental Health Perspectives」に9月25日掲載された。研究者らは、「飛行機の騒音が人々の睡眠・覚醒サイクルを乱し、就床と起床の不規則性の増大につながっているようだ」と結論付けている。また、論文の筆頭著者であるGong氏は、「睡眠の質の低下は健康に対して長期的な悪影響を及ぼす可能性があるため、航空騒音という公害に対処する政策立案が求められる」と述べている。 夜間の航空機の騒音は人々の睡眠に影響を与える可能性が容易に想定されるが、客観的な指標と主観的な指標を組み合わせて詳細に検討した大規模な研究は少ない。そこでGong氏らは、英国の大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを用いた検討を行った。 解析対象は、英国内4カ所の国際空港の近隣44自治体に居住しているUKバイオバンク参加者10万5,770人(平均年齢53.7±8.3歳〔範囲35~72〕、女性54.3%)。このうち約20%の参加者には2013~2015年の間の7日間にわたり、手首に加速度計をつけて生活してもらい、23時から翌朝7時までの体の動きを客観的に把握。そのデータを基に就床時刻や起床時刻を特定するとともに睡眠中の体動を評価した。このほか、研究参加登録時(2006~2010年)および追跡調査時(2012~2013年)にアンケートを実施し、睡眠習慣や主観的な睡眠の質の評価を行った。これらの評価結果と、英国民間航空局が公表している騒音マップに基づく居住地域の航空騒音との関連を検討した。 夜間の航空騒音のレベルが平均55デシベル以上の地域の居住者と、44デシベル以下の地域の居住者の睡眠習慣や睡眠の質を、交絡因子(年齢、性別、BMI、民族、喫煙・飲酒・運動習慣、不安・うつレベル、収入、環境要因〔道路・鉄道の騒音、気温、緑地面積、大気汚染レベル〕など)を調整後に比較。その結果、客観的および主観的に把握された就床時間(ベッドや布団の中で過ごす時間)には有意差がなかった。しかし、航空騒音が高い地域の居住者は、客観的に把握された睡眠中の体動や、睡眠と覚醒の周期の乱れが大きいという有意差が認められた。 また、主観的な評価の結果からは、航空騒音レベルが高い地域の居住者は日中に居眠りをする人が有意に多いことが分かった(オッズ比〔OR〕1.52〔95%信頼区間1.32~1.75〕)。不眠を訴える割合も航空騒音レベルが高い地域の居住者に多い傾向があったが、群間差は有意水準未満だった(OR1.13〔同0.92~1.39〕)。このほかに、航空騒音が糖尿病や認知症の有病率と関連する傾向も観察されたが、いずれも信頼区間の幅が広く非有意だった。 論文の上席著者である同大学のAnna Hansell氏は、「現在、各空港の夜間離発着を増加させるべきとの要望が高まっているが、それを許可した場合、飛行機が発する騒音が増大し周辺住民の睡眠障害を増やして、最終的には健康に悪影響を及ぼす懸念がある。政策立案者は空港の便数を増やす検討に際して、われわれの研究結果も考慮に入れるべきだ」と述べている。(HealthDay News 2024年9月26日) https://www.healthday.com/health-news/sleep-disorder/airports-take-big-toll-on-sleep-of-those-living-nearby Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
空港の近くに住んでいる人は、航空機の騒音によって睡眠の質が低下している実態を表すデータが報告された。騒音レベルが高い地域に住む人に、睡眠中の体動や日中の居眠りがより多く認められるという。英レスター大学のXiangpu Gong氏らの研究によるもので、詳細は「Environmental Health Perspectives」に9月25日掲載された。研究者らは、「飛行機の騒音が人々の睡眠・覚醒サイクルを乱し、就床と起床の不規則性の増大につながっているようだ」と結論付けている。また、論文の筆頭著者であるGong氏は、「睡眠の質の低下は健康に対して長期的な悪影響を及ぼす可能性があるため、航空騒音という公害に対処する政策立案が求められる」と述べている。 夜間の航空機の騒音は人々の睡眠に影響を与える可能性が容易に想定されるが、客観的な指標と主観的な指標を組み合わせて詳細に検討した大規模な研究は少ない。そこでGong氏らは、英国の大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを用いた検討を行った。 解析対象は、英国内4カ所の国際空港の近隣44自治体に居住しているUKバイオバンク参加者10万5,770人(平均年齢53.7±8.3歳〔範囲35~72〕、女性54.3%)。このうち約20%の参加者には2013~2015年の間の7日間にわたり、手首に加速度計をつけて生活してもらい、23時から翌朝7時までの体の動きを客観的に把握。そのデータを基に就床時刻や起床時刻を特定するとともに睡眠中の体動を評価した。このほか、研究参加登録時(2006~2010年)および追跡調査時(2012~2013年)にアンケートを実施し、睡眠習慣や主観的な睡眠の質の評価を行った。これらの評価結果と、英国民間航空局が公表している騒音マップに基づく居住地域の航空騒音との関連を検討した。 夜間の航空騒音のレベルが平均55デシベル以上の地域の居住者と、44デシベル以下の地域の居住者の睡眠習慣や睡眠の質を、交絡因子(年齢、性別、BMI、民族、喫煙・飲酒・運動習慣、不安・うつレベル、収入、環境要因〔道路・鉄道の騒音、気温、緑地面積、大気汚染レベル〕など)を調整後に比較。その結果、客観的および主観的に把握された就床時間(ベッドや布団の中で過ごす時間)には有意差がなかった。しかし、航空騒音が高い地域の居住者は、客観的に把握された睡眠中の体動や、睡眠と覚醒の周期の乱れが大きいという有意差が認められた。 また、主観的な評価の結果からは、航空騒音レベルが高い地域の居住者は日中に居眠りをする人が有意に多いことが分かった(オッズ比〔OR〕1.52〔95%信頼区間1.32~1.75〕)。不眠を訴える割合も航空騒音レベルが高い地域の居住者に多い傾向があったが、群間差は有意水準未満だった(OR1.13〔同0.92~1.39〕)。このほかに、航空騒音が糖尿病や認知症の有病率と関連する傾向も観察されたが、いずれも信頼区間の幅が広く非有意だった。 論文の上席著者である同大学のAnna Hansell氏は、「現在、各空港の夜間離発着を増加させるべきとの要望が高まっているが、それを許可した場合、飛行機が発する騒音が増大し周辺住民の睡眠障害を増やして、最終的には健康に悪影響を及ぼす懸念がある。政策立案者は空港の便数を増やす検討に際して、われわれの研究結果も考慮に入れるべきだ」と述べている。(HealthDay News 2024年9月26日) https://www.healthday.com/health-news/sleep-disorder/airports-take-big-toll-on-sleep-of-those-living-nearby Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock