肥満による健康への悪影響を、筋力を鍛えることで抑制できる可能性を示唆するデータが報告された。米ペニントン・バイオメディカル研究センターのYun Shen氏らの研究の結果であり、詳細は「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に10月15日掲載された。 この研究からは、肥満関連の健康障害の発生リスクだけでなく早期死亡リスクも、握力が高いほど低いことが示された。Shen氏は、「握力は測定が容易であり、リスクのある介入すべき対象者を早期に低コストで見いだすことができる。そしてわれわれの研究の結果は、握力に基づき評価した筋力の低下が、肥満関連健康障害の鋭敏な指標であることを示している」と語っている。 Shen氏らの研究は、英国の一般住民対象大規模疫学研究であるUKバイオバンクのデータを用いて行われた。UKバイオバンク参加者のうち、BMI30以上(アジア人は28以上)であり、かつウエスト周囲長や体脂肪率などのBMI以外の肥満関連指標に異常がありながら、肥満関連健康障害は生じていない人を「前臨床的肥満」と定義。これに該当する9万3,275人を握力の三分位数に基づき3群に分類したうえで、平均13.4年間追跡して、肥満関連健康障害の発症や死亡のリスクを比較した。解析に際しては、交絡因子(年齢、性別、人種、血清脂質、血圧、HbA1c、eGFR、CRP、喫煙・飲酒・食事・運動・睡眠習慣、教育歴、雇用状況、高血圧・高血糖・脂質異常症治療薬、糖尿病家族歴など)の影響を統計学的に調整した。 握力の最も弱い第1三分位群を基準とする解析の結果、握力が高い群は肥満関連健康障害や死亡リスクが有意に低いことが示された。例えば、追跡期間中の最初の肥満関連健康障害の発症リスクは、握力の最も高い第3三分位群は調整ハザード比(aHR)0.80(95%信頼区間0.79~0.82)、握力が中程度の第2三分位群もaHR0.88(同0.87~0.90)であり、それぞれ20%、12%のリスク低下が認められた。また、追跡期間中に二つ目の肥満関連健康障害が発症するリスク、その後に死亡するリスクなどについても、握力が高いほど有意に低かった。 さらに、握力の1標準偏差(SD)の差とそれらのリスクとの関連を検討した結果、やはり握力が高いことによるリスク低下が認められた。例えば、肥満関連健康障害の発症を経ずに死亡するリスクは、1SD高いごとに9%有意に低下していた(aHR0.91〔0.85~0.97〕)。 これらを性別や喫煙状況、人種で層別化した解析の結果、握力が高いことによるリスク低下は、女性、非喫煙者、黒人でより顕著に認められた。 研究者らは、「過剰な脂肪蓄積に伴う慢性炎症の影響が、筋肉量が多いことによって抑制される可能性がある。われわれの研究結果は、前臨床的肥満において筋肉量と筋力を向上することの重要性を強調するものと言える」と述べている。ただし本研究は関連性のみを示すものであり、因果関係の存在を示すものでないことから、「この知見の検証のため、さらなる研究が必要」と付け加えている。(HealthDay News 2025年10月16日) https://www.healthday.com/health-news/weight-loss/stronger-muscles-might-fight-organ-damage-from-excess-fat-study-says Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock