古くからある経口血糖降下薬で、米国では現在も2型糖尿病の第一選択薬として位置付けられているメトホルミンが、運動療法の効果を阻害してしまう可能性を示唆するデータが報告された。米ラトガーズ大学ニューブランズウィック校のSteven Malin氏らの研究によるもので、詳細は「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に10月7日掲載された。 この研究の背景について、論文の筆頭著者であるMalin氏は、「多くの医療従事者は、1+1=2だと考えている。しかし、メトホルミンがわずかながら運動の効果を弱めることを示唆するエビデンスも存在する」と話している。この問題の本質を探るため同氏らは、メタボリックシンドロームのリスクのある成人において、同薬が血管インスリン感受性(インスリンによる血管拡張や血流促進作用)を低下させる可能性の有無を、二重盲検プラセボ対照試験で検討した。 研究参加者を、低強度運動(最大酸素摂取量〔VO2max〕の55%の運動)を週5回行うプラセボ服用群(22人)、低強度運動を行うメトホルミン(1日2,000mg)服用群(21人)、高強度運動(VO2maxの85%の運動)を週5回行うプラセボ服用群(24人)、高強度運動を行うメトホルミン服用群(24人)という4群にランダムに割り付け、16週間介入した。 その結果、プラセボを服用した2群ではともにVO2maxが有意に上昇したが、メトホルミンを服用した2群はともに有意な変化が見られなかった。体脂肪は高強度運動を行った2群でのみ有意に減少した。また、メトホルミンを服用した群では、インスリンによる血管拡張反応や血流促進作用が小さくなり、さらに、運動による空腹時血糖値の低下幅が少なくなっていた。 この結果についてMalin氏は、「強度にかかわらず運動によって血管の機能が改善した。ところがメトホルミンはこの効果を弱めてしまった。メトホルミンを服用して運動をしたからといって、血糖値がより大きく下がるわけではないことも見過ごせない。加えて、メトホルミンを服用した人は体力(VO2max)も向上しなかった。つまりこれは、身体機能が改善されていないことを意味し、長期的な健康リスクにつながる可能性がある」と総括している。 本研究で観察されたメトホルミンの負の影響のメカニズムとして研究者らは、メトホルミンが人間の細胞の原動力とも言えるミトコンドリアの働きに影響を及ぼすため、運動の効果を鈍らせるのではないかと推測している。同薬が血糖コントロールを改善する作用機序の一部に、ミトコンドリアの働きを部分的に阻害する作用が含まれており、その作用が運動によって得られる効果を妨げてしまう可能性があるとのことだ。 Malin氏は、「メトホルミンと運動の最適な併用方法を探し出さなければならない。また、メトホルミン以外の薬剤と運動の相互作用についても検討が必要だろう」と述べている。(HealthDay News 2025年11月12日) https://www.healthday.com/health-news/diabetes/daily-walks-potentially-sabotaged-by-diabetes-drug-study-says Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock