重症の難治性うつ病に対し、脳の特定の部位に放射線をピンポイントで照射する治療法が、長期的な症状の改善につながる可能性があることが、小規模な研究で示された。治療後にはうつ症状や自殺念慮の改善が認められ、追跡期間の中央値である約3年後にも改善が維持されていたという。研究結果は、米国放射線腫瘍学会年次学術集会(ASTRO 2026、2026年9月26日〜30日、米ボストン)で発表された。研究を主導した南フロリダ大学およびタンパ総合病院の放射線腫瘍医であるMohamed Khattab氏は、「さまざまな治療を試しても重度のうつ病が改善せず、長年苦しんできた患者にとって、新たな治療法が選択肢に加わることは大きな希望となる」と述べている。少なくとも2種類の抗うつ薬を適切な用量・期間で使用しても、十分な症状の改善が得られないうつ病を指す。ASTROによると、うつ病患者の約30%が治療抵抗性に該当するという。今回の研究の対象となったのは、治療抵抗性の大うつ病、または難治性の強迫性障害(OCD)に伴う二次性の大うつ病を有する患者20人。いずれも認知行動療法や複数の薬物療法で十分な効果が得られず、ケタミン療法、経頭蓋磁気刺激療法、電気けいれん療法などを受けた患者も含まれていた。今回検討されたのは、「定位放射線外科的内包切截術(stereotactic radiosurgical capsulotomy)」と呼ばれる治療法だ。この治療法では、気分障害やOCDに関与する脳内の神経回路の特定部位に高精度の放射線を照射し、微小な病変を形成する。頭蓋骨を切開したり、電極などの機器を脳内に埋め込んだりする必要はない。OCDの治療にはすでに用いられているが、治療抵抗性うつ病への応用は新たな試みとなる。Khattab氏らは2022年にも、治療抵抗性うつ病患者3人にこの治療法を実施し、症状の軽減につながる可能性を確認していた。今回の研究では、追跡期間の中央値は1,073日(約35カ月)だった。うつ症状の重症度を示すベック抑うつ質問票(BDI)の平均スコアは、治療前の32.4から、症状が最も改善した時点では15.9、最終追跡時にも17.7へと有意に低下していた。特に自殺念慮の軽減が顕著で、治療前には患者の70%に自殺念慮が認められたが、最終追跡時には10%に減少し、残存していた患者でもその程度は軽減していた。治療後に神経学的な機能障害、無気力、人格変化などは確認されず、認知機能の評価スコアはむしろ有意に改善していた。Khattab氏は、「認知機能が維持されていたことは、今回の研究で最も重要な知見の一つだ。脳への処置によって思考能力や日常生活の機能が変化するのではないかと懸念するのは当然だが、今回の研究では、うつ症状が改善する一方で認知機能は損なわれなかった」と述べている。一方、3人に頭痛やめまい、画像検査で確認された想定以上の脳組織の壊死など、グレード2の有害事象が認められたが、いずれもステロイド治療によって改善したという。ただし、今回の研究は対象者が20人と少なく、比較対照群も設けられていなかった。そのため、うつ症状の改善が放射線治療によるものだと断定することはできない。今回の研究には関与していない、ASTROの機能的放射線医学タスクフォースの共同議長で、米マイアミ大学シルベスター総合がんセンターの放射線腫瘍学教授であるMarkus Bredel氏は、「今回の研究は、すでに複数の治療法を試した患者を対象に、切開を必要としない高精度の治療法を評価するとともに、認知機能と安全性を長期にわたって追跡している点で重要だ」と評価。一方で、日常診療への導入を検討するには、さらに大規模な研究が必要だと指摘している。なお、今回の研究結果は学会で発表された段階のものであり、査読付き学術誌に論文として掲載されるまでは予備的な知見として解釈する必要がある。(HealthDay News 2026年9月30日) https://www.healthday.com/health-news/mental-health/focused-brain-radiation-could-ease-severe-tough-to-treat-depression Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Khunatorn/Adobe Stock (参考情報)Abstract/Full Texthttps://amportal.astro.org/sessions/ss-17-22862/radiosurgical-capsulotomy-a-novel-approach-for-treatment-resistant-major-depression-a-prospec-111039 Press Releasehttps://www.astro.org/news-and-publications/news-and-media-center/news-releases/2026/incisionless-radiosurgery-shows-promise-for-severe,-treatment-resistant-depression