統合失調症の患者が抱えるさまざまな症状を、開発中の治験薬(SEP-363856)によって軽減できたとする早期臨床試験の結果が報告された。既存薬で確認されている副作用も認められなかったという。臨床試験は治験薬を開発する米Sunovion Pharmaceuticals社のチーフ・サイエンティフィック・オフィサーであるKenneth Koblan氏らが実施したもので、詳細は「New England Journal of Medicine」4月16日号に発表された。Koblan氏らは、245人の統合失調症患者を対象に、120人をSEP-363856のカプセル剤を1日1回、4週間使用する群に、残る125人をプラセボ使用群にランダムに割り付けて、SEP-363856の有効性と安全性を調べるランダム化比較試験を実施。対象者の年齢は18~40歳で、全例が発症早期の患者だった。試験開始時から陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の総スコア(高いほど症状が重度であることを示す)がどれだけ変化したかを調べた。.4週間後、試験開始時と比べたPANSSの平均総スコアの変化量は、SEP-363856群で-17.2点、プラセボ群で-9.7点だった。使用開始から4週間後に症状の軽減が認められた患者の割合は、SEP-363856群では64.6%だったのに対し、プラセボ群では44.0%だった。.既存薬の有効性は、幻覚や妄想、思考障害といった統合失調症の陽性症状に限定されている。米ニューヨーク大学精神医学教授のDonald Goff氏によれば、既存薬を使用した患者の約70%で陽性症状に対する効果が得られるが、感情の平板化や社会的引きこもりといった陰性症状は軽減されないという。これに対し、SEP-363856は、妄想や幻覚などの陽性症状だけでなく、感情の平板化や社会的引きこもりといった陰性症状まで、統合失調症のさまざまな症状に対して有効であることが明らかになった。.また、現行の標準治療薬として使用されている抗精神病薬で問題となる副作用も、SEP-363856では起こりにくい可能性が示された。現在、統合失調症の治療で使用されている抗精神病薬にはさまざまな種類があるが、いずれも開発されてから数十年が経過している。これらの既存薬で問題となっているのは、副作用を原因としたアドヒアランスの低下だ。例えば、最も古い第一世代の抗精神病薬では、振戦や関節硬直などパーキンソン病の症状に似た運動障害が起こることがある。また、より新しい第二世代の抗精神病薬ではそのような運動障害は起こりにくいが、体重増加や血圧値、血糖値、脂質値の上昇などが副作用として現れることがある。.この試験に関する付随論評を執筆したGoff氏は「極めて心強い結果だ」とした上で、「既存薬では改善できなかった症状を、既存薬のような副作用を起こすことなく改善できる可能性がある」と話している。.なお、SEP-363856の作用機序については、まだ完全には解明されていない。ただ、既存薬の多くが脳のD2受容体を遮断する作用を有しているのに対し、SEP-363856にはD2受容体ではなくTAAR1受容体および5-HT1A受容体を刺激する作用があり、「既存薬とは異なる作用機序を有している」とKoblan氏は説明している。.現在、より大規模なSEP-363856の臨床試験が進行中だ。この試験で同薬の安全性と有効性が証明された場合には、「標準的な抗精神病薬による治療が奏効しない患者に対するSEP-363856の有用性について検討することが、その後の課題の一つとなるのではないか」とGoff氏は指摘している。(HealthDay News 2020年4月16日).https://consumer.healthday.com/mental-health-information-25/schizophrenia-news-593/experimental-drug-shows-promise-for-schizophrenia-756791.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.
統合失調症の患者が抱えるさまざまな症状を、開発中の治験薬(SEP-363856)によって軽減できたとする早期臨床試験の結果が報告された。既存薬で確認されている副作用も認められなかったという。臨床試験は治験薬を開発する米Sunovion Pharmaceuticals社のチーフ・サイエンティフィック・オフィサーであるKenneth Koblan氏らが実施したもので、詳細は「New England Journal of Medicine」4月16日号に発表された。Koblan氏らは、245人の統合失調症患者を対象に、120人をSEP-363856のカプセル剤を1日1回、4週間使用する群に、残る125人をプラセボ使用群にランダムに割り付けて、SEP-363856の有効性と安全性を調べるランダム化比較試験を実施。対象者の年齢は18~40歳で、全例が発症早期の患者だった。試験開始時から陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の総スコア(高いほど症状が重度であることを示す)がどれだけ変化したかを調べた。.4週間後、試験開始時と比べたPANSSの平均総スコアの変化量は、SEP-363856群で-17.2点、プラセボ群で-9.7点だった。使用開始から4週間後に症状の軽減が認められた患者の割合は、SEP-363856群では64.6%だったのに対し、プラセボ群では44.0%だった。.既存薬の有効性は、幻覚や妄想、思考障害といった統合失調症の陽性症状に限定されている。米ニューヨーク大学精神医学教授のDonald Goff氏によれば、既存薬を使用した患者の約70%で陽性症状に対する効果が得られるが、感情の平板化や社会的引きこもりといった陰性症状は軽減されないという。これに対し、SEP-363856は、妄想や幻覚などの陽性症状だけでなく、感情の平板化や社会的引きこもりといった陰性症状まで、統合失調症のさまざまな症状に対して有効であることが明らかになった。.また、現行の標準治療薬として使用されている抗精神病薬で問題となる副作用も、SEP-363856では起こりにくい可能性が示された。現在、統合失調症の治療で使用されている抗精神病薬にはさまざまな種類があるが、いずれも開発されてから数十年が経過している。これらの既存薬で問題となっているのは、副作用を原因としたアドヒアランスの低下だ。例えば、最も古い第一世代の抗精神病薬では、振戦や関節硬直などパーキンソン病の症状に似た運動障害が起こることがある。また、より新しい第二世代の抗精神病薬ではそのような運動障害は起こりにくいが、体重増加や血圧値、血糖値、脂質値の上昇などが副作用として現れることがある。.この試験に関する付随論評を執筆したGoff氏は「極めて心強い結果だ」とした上で、「既存薬では改善できなかった症状を、既存薬のような副作用を起こすことなく改善できる可能性がある」と話している。.なお、SEP-363856の作用機序については、まだ完全には解明されていない。ただ、既存薬の多くが脳のD2受容体を遮断する作用を有しているのに対し、SEP-363856にはD2受容体ではなくTAAR1受容体および5-HT1A受容体を刺激する作用があり、「既存薬とは異なる作用機序を有している」とKoblan氏は説明している。.現在、より大規模なSEP-363856の臨床試験が進行中だ。この試験で同薬の安全性と有効性が証明された場合には、「標準的な抗精神病薬による治療が奏効しない患者に対するSEP-363856の有用性について検討することが、その後の課題の一つとなるのではないか」とGoff氏は指摘している。(HealthDay News 2020年4月16日).https://consumer.healthday.com/mental-health-information-25/schizophrenia-news-593/experimental-drug-shows-promise-for-schizophrenia-756791.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.