体内でアルコールが醸造されるまれな疾患である自動醸造症候群(ABS)の患者に対し、初めて糞便移植〔腸内細菌叢移植(FMT)とも呼ばれる〕による治療が行われ、症状の改善が認められたことが明らかになった。ゲント大学病院(ベルギー)のDanny De Looze氏らによるこの研究報告は、「Annals of Internal Medicine」8月18日オンライン版に掲載された。ABSでは、腸内で増加したイースト菌が、食物に含まれる糖をアルコールに変換してしまうため、血中アルコール濃度が上昇し、めまいや見当識障害、協調運動障害や気分障害などの症状が現れる。.非営利団体ABSインフォメーション・アンド・リサーチの会長で、米パノラ大学のBarbara Cordell氏は、ABSを「悲惨で複雑な疾患」と表現する。同氏は、夫がこの疾患を発症したことがきっかけで、ABSに関心を持つようになった。ただし、夫の症状がABSによるものだと判明するまでには、長い年月を要したという。.とはいえ、Cordell夫妻がたどったような経緯は、珍しいものではない。この疾患を正しく診断し、治療できる医師はほとんどいないからだ。そのような中、今回の研究報告を受けたCordell氏は、「食事療法などの治療が有効でない重症ABS患者にとっては、糞便移植が画期的な治療法になるかもしれない」と期待を示す。.糞便移植は、健康なドナーの糞便を患者の消化管に移植する治療法である。その狙いは、移植により、患者の腸内細菌叢の構成を、健康的でバランスのとれたものに変えることだ。既に、重症のクロストリジウム・ディフィシル感染症患者の一部に対し、糞便移植が行われている。また、潰瘍性大腸炎(UC)や過敏性腸症候群(IBS)といった慢性腸疾患に対する治療法としても、糞便移植が導入され始めている。De Looze氏らも最近の研究で、複数の難治性IBS患者を対象とした研究を実施し、糞便移植によりIBSの症状が軽減したことを明らかにしている。.今回の研究でDe Looze氏らは、重症のABS患者に糞便移植を行った。患者は47歳の男性で、これまでに糖質制限や抗真菌薬による治療を受けていたが、血中アルコール濃度が依然として高く、症状も持続していた。しかし、成人している自分の娘をドナーとして糞便移植を受けたところ、全てが解決した。しかも、その後、約3年間、症状がないだけでなく、過去に、飲酒運転と誤解されて警察に没収されていた運転免許証を取り戻すこともできたという。.ただし、糞便移植がABSの治療選択肢の一つとなり得るかどうかに関しては、まだ予測が難しい段階にある。ABS自体が十分に解明されていない疾患だからだ。これまでに報告されている症例の多くに共通する背景として、Cordell氏は「抗菌薬の長期的な使用」を挙げる。今回、De Looze氏らが報告したABS患者も、抗菌薬による治療を繰り返し受けてから1カ月後に自分の症状に気付いたという。また、この患者には、14年前に胃バイパス術を受けた経験もあった。同氏によると、これもABSの発症要因として考えられているという。さらに、腸内細菌叢のバランス悪化につながるクローン病や短腸症候群、肥満などの疾患も、ABSリスクを高める可能性がある。その一方で、このような要因を持ち合わせていないのにABSを発症する患者もいる。.Cordell氏は、「糞便移植が全てのABS患者に適した治療法であるとは言わないが、症状が極めて重い患者に対しては、選択肢の一つになり得る」としている。De Looze氏も、ABS患者の治療に当たっている医師たちに、この治療法を試すよう勧めるつもりだと話している。また、同氏は臨床試験でこの治療法の効果を検証するのが理想的であることを認めながらも、「ABSは極めてまれな疾患であるため、臨床試験の実施は、現実的には不可能だろう」とする見方を示している。(HealthDay News 2020年8月18日).https://consumer.healthday.com/gastrointestinal-information-15/misc-bowel-problems-news-79/his-body-brewed-its-own-alcohol-but-a-fecal-transplant-shut-the-brewery-down-760495.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.
体内でアルコールが醸造されるまれな疾患である自動醸造症候群(ABS)の患者に対し、初めて糞便移植〔腸内細菌叢移植(FMT)とも呼ばれる〕による治療が行われ、症状の改善が認められたことが明らかになった。ゲント大学病院(ベルギー)のDanny De Looze氏らによるこの研究報告は、「Annals of Internal Medicine」8月18日オンライン版に掲載された。ABSでは、腸内で増加したイースト菌が、食物に含まれる糖をアルコールに変換してしまうため、血中アルコール濃度が上昇し、めまいや見当識障害、協調運動障害や気分障害などの症状が現れる。.非営利団体ABSインフォメーション・アンド・リサーチの会長で、米パノラ大学のBarbara Cordell氏は、ABSを「悲惨で複雑な疾患」と表現する。同氏は、夫がこの疾患を発症したことがきっかけで、ABSに関心を持つようになった。ただし、夫の症状がABSによるものだと判明するまでには、長い年月を要したという。.とはいえ、Cordell夫妻がたどったような経緯は、珍しいものではない。この疾患を正しく診断し、治療できる医師はほとんどいないからだ。そのような中、今回の研究報告を受けたCordell氏は、「食事療法などの治療が有効でない重症ABS患者にとっては、糞便移植が画期的な治療法になるかもしれない」と期待を示す。.糞便移植は、健康なドナーの糞便を患者の消化管に移植する治療法である。その狙いは、移植により、患者の腸内細菌叢の構成を、健康的でバランスのとれたものに変えることだ。既に、重症のクロストリジウム・ディフィシル感染症患者の一部に対し、糞便移植が行われている。また、潰瘍性大腸炎(UC)や過敏性腸症候群(IBS)といった慢性腸疾患に対する治療法としても、糞便移植が導入され始めている。De Looze氏らも最近の研究で、複数の難治性IBS患者を対象とした研究を実施し、糞便移植によりIBSの症状が軽減したことを明らかにしている。.今回の研究でDe Looze氏らは、重症のABS患者に糞便移植を行った。患者は47歳の男性で、これまでに糖質制限や抗真菌薬による治療を受けていたが、血中アルコール濃度が依然として高く、症状も持続していた。しかし、成人している自分の娘をドナーとして糞便移植を受けたところ、全てが解決した。しかも、その後、約3年間、症状がないだけでなく、過去に、飲酒運転と誤解されて警察に没収されていた運転免許証を取り戻すこともできたという。.ただし、糞便移植がABSの治療選択肢の一つとなり得るかどうかに関しては、まだ予測が難しい段階にある。ABS自体が十分に解明されていない疾患だからだ。これまでに報告されている症例の多くに共通する背景として、Cordell氏は「抗菌薬の長期的な使用」を挙げる。今回、De Looze氏らが報告したABS患者も、抗菌薬による治療を繰り返し受けてから1カ月後に自分の症状に気付いたという。また、この患者には、14年前に胃バイパス術を受けた経験もあった。同氏によると、これもABSの発症要因として考えられているという。さらに、腸内細菌叢のバランス悪化につながるクローン病や短腸症候群、肥満などの疾患も、ABSリスクを高める可能性がある。その一方で、このような要因を持ち合わせていないのにABSを発症する患者もいる。.Cordell氏は、「糞便移植が全てのABS患者に適した治療法であるとは言わないが、症状が極めて重い患者に対しては、選択肢の一つになり得る」としている。De Looze氏も、ABS患者の治療に当たっている医師たちに、この治療法を試すよう勧めるつもりだと話している。また、同氏は臨床試験でこの治療法の効果を検証するのが理想的であることを認めながらも、「ABSは極めてまれな疾患であるため、臨床試験の実施は、現実的には不可能だろう」とする見方を示している。(HealthDay News 2020年8月18日).https://consumer.healthday.com/gastrointestinal-information-15/misc-bowel-problems-news-79/his-body-brewed-its-own-alcohol-but-a-fecal-transplant-shut-the-brewery-down-760495.html.Copyright © 2020 HealthDay. All rights reserved.