慢性的な腰や背中の痛み(以下、腰痛)で理学療法や薬物治療を試したものの、効果が得られなかったという経験がある人は多いだろう。こうした中、痛みに対する思い込みを払拭することを目指した心理療法によって痛みを緩和できる可能性が米コロラド大学心理学・神経科学のYoni Ashar氏らの研究で示唆された。この研究結果は、「JAMA Psychiatry」に9月29日発表された。この研究は、過去6カ月間のうちの半分以上の日数で軽症から中等症の腰痛が生じた、21〜70歳の男女151人(平均年齢41.1歳、女性54%)を対象に実施された。対象者は、疼痛再処理療法(Pain Reprocessing Therapy;PRT)と呼ばれる心理療法を4週間にわたって受ける群(心理療法群、50人)、生理食塩水を皮下注射するプラセボ群(51人)、これまで通りのケアを続ける群(通常ケア群、50人)にランダムに割り付けられた。PRTでは、最初に電話で医師が1時間にわたって患者の評価と教育を行った後、1セッション当たり1時間のセラピーが計8回実施された。その結果、疼痛が完全に解消したか、ほぼ解消した患者の割合は、心理療法群では66%に達していたが、プラセボ群では20%、通常ケア群では10%にとどまっていた。また、心理療法群の脳のMRI画像では、痛みに曝されたときでも、痛みの処理に関連する脳領域の活性が大幅に低下していることが確認された。さらに、治療後1年の追跡調査時の簡易疼痛質問票(0〜10点。0および1点は痛みがない、またはほぼないことを表す)の平均スコアは、心理療法群1.51点、プラセボ群2.79点、通常ケア群3.00点であり、心理療法群では他の2群に比べて、1年後でも高い治療効果の持続が確認された。Ashar氏は、「長らく、慢性疼痛の主な原因は身体の問題にあると考えられてきた。そのため、これまでの治療法のほとんどが身体の問題を標的としていた」と説明する。その上で、「傷がなくても、あるいは傷が治った後でも、脳が痛みを感じさせることはある。われわれは今回、その痛みに対する人々の思い込みは、意識的に捨て去ることができるのではないかと考えて、心理療法による治療を行った。そして実際に、それが有効であることが示された」と述べている。さらにAshar氏は、「今回の研究で確認された疼痛の軽減効果は大きく、効果の持続期間も長かった。これほど大きな効果と長い持続期間が示されることは、慢性疼痛の臨床試験では極めて稀なことだ」と言う。なお、強い疼痛の管理に使用されるオピオイド系薬に関する臨床試験では、わずかな疼痛軽減効果が示されているに過ぎず、その持続期間も短いと同氏は付け加えている。Ashar氏らによると、慢性腰痛患者のうち、検査で組織の損傷などの腰痛の原因と考えられる明確な身体の異常が見つからない患者の割合は約85%に上るという。そのような慢性腰痛の原因の一部として指摘されているのが、神経回路の誤作動だ。急性疼痛よりも慢性疼痛の方が複数の脳領域の活性が高まり、強い痛みを感じるという。また、慢性疼痛患者では、特定の神経ネットワークが弱い刺激に対しても過剰に反応するように変化していることが、多くの研究で示唆されている。「痛みを脅威ではなく安全なものと捉えるようにすることで、痛みの感覚を増強させる脳内ネットワークを変化させ、中和させることができるというのが、われわれの考えだ」とAshar氏は語る。同氏らが考案したこの心理療法の目的は、患者に慢性疼痛をもたらす脳の働きについて学んでもらい、怖がっていた動きをしたときの痛みの再評価を促すことだ。また、患者に、痛みを増強させる可能性がある感情への対処法を身に付けさせることも治療目標の一つであるという。ただし、この研究は慢性腰痛について検討したものであるため、他の慢性疼痛に対しても同様の結果が得られるかどうかについて明らかにするためには、さらなる研究が必要である。(HealthDay News 2021年10月1日).https://consumer.healthday.com/b-10-1-2655188502.html.Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock