膝関節炎の理学療法(PT)は、糖質コルチコイド(副腎皮質ステロイド)の注射(以下、ステロイド注射)よりも患者の自己負担額が大きく、痛みの緩和にも手間暇がかかりがちだ。しかし、長期的に見ると、PTの費用対効果はステロイド注射と同等以上であるだけでなく、ステロイド注射よりも長期的な改善効果をもたらす可能性のあることが新たな研究で示唆された。米Brooke Army Medical CenterのDaniel Rhon氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に1月24日報告された。膝関節炎に対しては、腫れや痛みを和らげるためにステロイド注射を受けるか、一連のPTを受けるか、の主に2つの治療選択肢がある。Rhon氏によると、両者を比較した2020年発表の臨床試験では、ステロイド注射よりもPTの方が効果的であることが明らかにされたという。同氏は、「運動のような積極的な介入を行うと、膝が強化されて機能がわずかに向上するため、効果が長続きする。それに対して、ステロイド注射を受けても膝の強度が変わることはない。痛みが治っても、膝を強化しなければ膝の機能が向上することはない」と話す。しかしPTは一般的に、ステロイド注射よりも費用がかかる。研究グループによると、PT評価と7回の追加セッションの費用は557〜919ドル〔約6万4,000〜10万5,700円、1ドル115円換算(以下同)〕程度なのに対し、1回の注射代は99〜172ドル(約1万1,400〜1万9,800円)程度である。また、PTでは患者にかかる負担も大きい。PTを受けるには、週に2〜3回のセッションのために仕事を休む必要がある。さらに、度重なる再診で自己負担額が増えることもある。そこでRhon氏らは今回、上述の臨床試験の二次解析を行い、膝関節炎に対する一次治療としてのPTとステロイド注射の増分費用対効果(費用の増加分を効果の増加分で割ったもの)を調べた。臨床試験では、2012年10月1日から2017年5月4日の間に156人の試験参加者(平均年齢56.1歳、男性51.9%)が、PTを受ける群とステロイド注射を受ける群に1対1の割合でランダムに割り付けられ、1年間にわたって追跡されていた。膝関節炎に関わる1年間の治療費の中央値は、PT群で2,131ドル(約24万5,000円)、ステロイド注射群で2,113ドル(約24万3,000円)とほぼ同等であった。一方、両群での質調整生存年(QALY)には統計的に有意な差が認められ、PT群ではステロイド注射群に比べてQALYが0.08増加していた。また、1年間の追跡期間中に手術が必要になった参加者は、ステロイド注射群では4人だったのに対し、PT群では0人であり、ステロイド注射よりもPTを受けることで、より長期的なベネフィットを得られる可能性の高いことが明らかになった。Rhon氏は、「1年間を通じたPTにかかる初期費用はステロイド注射よりも高くなるかもしれない。しかし、膝の治療にかかった費用の総額と、得られたベネフィットを考え合わせると、PTのコストパフォーマンスの方が高いと言える」と語る。この研究には関与していない、米マウントサイナイ・ダウンタウンの整形外科医であるEdward Adler氏は、「ステロイド注射は痛みを素早く抑えるものの、その効果は時間の経過に伴い薄れる。痛みがひどい場合には、ステロイド注射による痛みの軽減が患者に安堵をもたらすが、問題の解決にはつながらない。これに対して、運動やPTを行えば、患者の筋力が増強して関節可動域も高まる」と話す。同氏はまた、「膝は痛いが手術は受けたくないという人は、減量と運動を行うと良いだろう」と助言している。一方、米ワシントン大学整形外科教授であるRobert Brophy氏は、「この結果は、2つの治療法の優劣を明確に示すものではない。双方の治療法を選択肢として治療法を検討することこそ、膝関節炎に苦しむ患者に対する積極的なサポートになるのではないだろうか」との見方を示している。(HealthDay News 2022年1月28日).https://consumer.healthday.com/1-26-rehab-or-stero….Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
膝関節炎の理学療法(PT)は、糖質コルチコイド(副腎皮質ステロイド)の注射(以下、ステロイド注射)よりも患者の自己負担額が大きく、痛みの緩和にも手間暇がかかりがちだ。しかし、長期的に見ると、PTの費用対効果はステロイド注射と同等以上であるだけでなく、ステロイド注射よりも長期的な改善効果をもたらす可能性のあることが新たな研究で示唆された。米Brooke Army Medical CenterのDaniel Rhon氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に1月24日報告された。膝関節炎に対しては、腫れや痛みを和らげるためにステロイド注射を受けるか、一連のPTを受けるか、の主に2つの治療選択肢がある。Rhon氏によると、両者を比較した2020年発表の臨床試験では、ステロイド注射よりもPTの方が効果的であることが明らかにされたという。同氏は、「運動のような積極的な介入を行うと、膝が強化されて機能がわずかに向上するため、効果が長続きする。それに対して、ステロイド注射を受けても膝の強度が変わることはない。痛みが治っても、膝を強化しなければ膝の機能が向上することはない」と話す。しかしPTは一般的に、ステロイド注射よりも費用がかかる。研究グループによると、PT評価と7回の追加セッションの費用は557〜919ドル〔約6万4,000〜10万5,700円、1ドル115円換算(以下同)〕程度なのに対し、1回の注射代は99〜172ドル(約1万1,400〜1万9,800円)程度である。また、PTでは患者にかかる負担も大きい。PTを受けるには、週に2〜3回のセッションのために仕事を休む必要がある。さらに、度重なる再診で自己負担額が増えることもある。そこでRhon氏らは今回、上述の臨床試験の二次解析を行い、膝関節炎に対する一次治療としてのPTとステロイド注射の増分費用対効果(費用の増加分を効果の増加分で割ったもの)を調べた。臨床試験では、2012年10月1日から2017年5月4日の間に156人の試験参加者(平均年齢56.1歳、男性51.9%)が、PTを受ける群とステロイド注射を受ける群に1対1の割合でランダムに割り付けられ、1年間にわたって追跡されていた。膝関節炎に関わる1年間の治療費の中央値は、PT群で2,131ドル(約24万5,000円)、ステロイド注射群で2,113ドル(約24万3,000円)とほぼ同等であった。一方、両群での質調整生存年(QALY)には統計的に有意な差が認められ、PT群ではステロイド注射群に比べてQALYが0.08増加していた。また、1年間の追跡期間中に手術が必要になった参加者は、ステロイド注射群では4人だったのに対し、PT群では0人であり、ステロイド注射よりもPTを受けることで、より長期的なベネフィットを得られる可能性の高いことが明らかになった。Rhon氏は、「1年間を通じたPTにかかる初期費用はステロイド注射よりも高くなるかもしれない。しかし、膝の治療にかかった費用の総額と、得られたベネフィットを考え合わせると、PTのコストパフォーマンスの方が高いと言える」と語る。この研究には関与していない、米マウントサイナイ・ダウンタウンの整形外科医であるEdward Adler氏は、「ステロイド注射は痛みを素早く抑えるものの、その効果は時間の経過に伴い薄れる。痛みがひどい場合には、ステロイド注射による痛みの軽減が患者に安堵をもたらすが、問題の解決にはつながらない。これに対して、運動やPTを行えば、患者の筋力が増強して関節可動域も高まる」と話す。同氏はまた、「膝は痛いが手術は受けたくないという人は、減量と運動を行うと良いだろう」と助言している。一方、米ワシントン大学整形外科教授であるRobert Brophy氏は、「この結果は、2つの治療法の優劣を明確に示すものではない。双方の治療法を選択肢として治療法を検討することこそ、膝関節炎に苦しむ患者に対する積極的なサポートになるのではないだろうか」との見方を示している。(HealthDay News 2022年1月28日).https://consumer.healthday.com/1-26-rehab-or-stero….Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock