心筋梗塞を経験しても心不全には至っていない患者にβ遮断薬を処方しても意味がない可能性のあることが、ルンド大学(スウェーデン)のインターベンション心臓専門医であるTroels Yndigegn氏らが実施した臨床試験で示唆された。この結果は、これまで数十年にわたって標準治療として行われてきた、全ての心筋梗塞後の患者にβ遮断薬を処方するというルーチンに疑問を投げかけるものだとYndigegn氏らは話している。試験結果の詳細は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に4月7日掲載されるとともに、米国心臓病学会(ACC 24、4月6~8日、米アトランタ)でも発表された。 この臨床試験の背景情報によると、心筋梗塞後の患者の約50%は、心不全には至らない。心不全とは全身に十分な血液を送り出すための心臓のポンプ機能が低下した状態を指し、1回の心拍ごとに拍出される血液の割合を示す駆出率(EF)に基づき評価される。EFは、40~50%以上であれば正常と見なされる。 β遮断薬には心臓の動きを速めるアドレナリンなどのホルモンを抑制する作用があり、心臓病患者によく使用される。多くの医師は通常、β遮断薬は心筋梗塞の再発予防に有効である可能性があるというこれまでのエビデンスに基づき、心筋梗塞後の患者に同薬を処方している。しかし、そのようなエビデンスを示した臨床試験は、バルーン血管形成術やステント留置術などの新しい治療法が登場する前に実施されたものであったとYndigegn氏は指摘する。さらに同氏は、「当時は心筋へのダメージが現在よりも大きかった」と話す。 今回報告された臨床試験には、スウェーデン、エストニア、ニュージーランドの45カ所の病院で心筋梗塞の治療を受けた患者5,020人が登録された。いずれの患者の駆出率も50%以上であった。Yndigegn氏らは、このうちの約半数(2,508人)を長期間にわたってβ遮断薬を使用する群(β遮断薬使用群)、残る2,512人を同薬を使用しない群(β遮断薬非使用群)にランダムに割り付けた。 その結果、中央値3.5年の追跡期間中に、主要評価項目としたあらゆる原因による死亡、心筋梗塞の再発、心不全、不整脈、脳卒中、低血圧、胸痛、息切れの複合に関しては、β遮断薬使用群とβ遮断薬非使用群の間に有意差はなかった(ハザード比0.96、95%信頼区間0.79〜1.16、P=0.64)。 この結果からYndigegn氏は「大きな心筋梗塞を発症し、心不全のある患者に対しては、現在もβ遮断薬の使用を支持するエビデンスがあると考えている。しかし、心不全の兆候がなく、駆出率が正常である患者に対しては、β遮断薬をルーチンで使用する必要性はないことが、今回の臨床試験によって確立された」と説明している。またYndigegn氏は、「この臨床試験の結果を受けて、多くの医師が全ての心筋梗塞後の患者に対してルーチンでβ遮断薬による治療の必要性を見出せなくなる可能性がある」と話す。 Yndigegn氏は、「β遮断薬を使用している多くの患者から、副作用あるいは副作用が疑われる症状が報告されている。したがって、この結果は多くの患者に影響を与えることになるだろう」とACCのニュースリリースの中で述べている。(HealthDay News 2024年4月10日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/beta-blocker-meds-may-not-help-some-heart-attack-survivors Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
心筋梗塞を経験しても心不全には至っていない患者にβ遮断薬を処方しても意味がない可能性のあることが、ルンド大学(スウェーデン)のインターベンション心臓専門医であるTroels Yndigegn氏らが実施した臨床試験で示唆された。この結果は、これまで数十年にわたって標準治療として行われてきた、全ての心筋梗塞後の患者にβ遮断薬を処方するというルーチンに疑問を投げかけるものだとYndigegn氏らは話している。試験結果の詳細は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に4月7日掲載されるとともに、米国心臓病学会(ACC 24、4月6~8日、米アトランタ)でも発表された。 この臨床試験の背景情報によると、心筋梗塞後の患者の約50%は、心不全には至らない。心不全とは全身に十分な血液を送り出すための心臓のポンプ機能が低下した状態を指し、1回の心拍ごとに拍出される血液の割合を示す駆出率(EF)に基づき評価される。EFは、40~50%以上であれば正常と見なされる。 β遮断薬には心臓の動きを速めるアドレナリンなどのホルモンを抑制する作用があり、心臓病患者によく使用される。多くの医師は通常、β遮断薬は心筋梗塞の再発予防に有効である可能性があるというこれまでのエビデンスに基づき、心筋梗塞後の患者に同薬を処方している。しかし、そのようなエビデンスを示した臨床試験は、バルーン血管形成術やステント留置術などの新しい治療法が登場する前に実施されたものであったとYndigegn氏は指摘する。さらに同氏は、「当時は心筋へのダメージが現在よりも大きかった」と話す。 今回報告された臨床試験には、スウェーデン、エストニア、ニュージーランドの45カ所の病院で心筋梗塞の治療を受けた患者5,020人が登録された。いずれの患者の駆出率も50%以上であった。Yndigegn氏らは、このうちの約半数(2,508人)を長期間にわたってβ遮断薬を使用する群(β遮断薬使用群)、残る2,512人を同薬を使用しない群(β遮断薬非使用群)にランダムに割り付けた。 その結果、中央値3.5年の追跡期間中に、主要評価項目としたあらゆる原因による死亡、心筋梗塞の再発、心不全、不整脈、脳卒中、低血圧、胸痛、息切れの複合に関しては、β遮断薬使用群とβ遮断薬非使用群の間に有意差はなかった(ハザード比0.96、95%信頼区間0.79〜1.16、P=0.64)。 この結果からYndigegn氏は「大きな心筋梗塞を発症し、心不全のある患者に対しては、現在もβ遮断薬の使用を支持するエビデンスがあると考えている。しかし、心不全の兆候がなく、駆出率が正常である患者に対しては、β遮断薬をルーチンで使用する必要性はないことが、今回の臨床試験によって確立された」と説明している。またYndigegn氏は、「この臨床試験の結果を受けて、多くの医師が全ての心筋梗塞後の患者に対してルーチンでβ遮断薬による治療の必要性を見出せなくなる可能性がある」と話す。 Yndigegn氏は、「β遮断薬を使用している多くの患者から、副作用あるいは副作用が疑われる症状が報告されている。したがって、この結果は多くの患者に影響を与えることになるだろう」とACCのニュースリリースの中で述べている。(HealthDay News 2024年4月10日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/beta-blocker-meds-may-not-help-some-heart-attack-survivors Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock