抗精神病薬は認知症患者の脳卒中、静脈血栓塞栓症、心筋梗塞、心不全、骨折、肺炎、腎障害などのリスクを大幅に増加させる可能性のあることが、新たな研究で示唆された。論文の筆頭著者である、英マンチェスター大学のPearl Mok氏らによるこの研究の詳細は、「The BMJ」に4月17日掲載された。Mok氏は、「今すぐにでも抗精神病薬の過剰処方から脱却すべきだ」と主張している。 この研究では、1988年1月1日から2018年5月31日までの間に英国で認知症と診断された50歳以上の成人17万3,910人(診断時の平均年齢82.1歳、女性62.5%)のデータを用いて、認知症患者での抗精神病薬の使用と有害な健康アウトカム(脳卒中、静脈血栓塞栓症、心筋梗塞、心不全、心室性不整脈、骨折、肺炎、急性腎障害)との関連が検討された。これらの患者のうちの3万5,339人に新たに抗精神病薬が処方されていた。罹患密度サンプリングを用いてこれらの患者1人につき、抗精神病薬を使用していない患者を最大で15人マッチさせた。最終的に、抗精神病薬使用者2万4,696人とマッチさせた対照34万4,232人を対象に解析を行った。 最も多く処方された抗精神病薬は、リスペリドン、クエチアピン、ハロペリドール、オランザピンであり、これらを合わせると、全処方のほぼ80%を占めていた。解析の結果、抗精神病薬を使用していない場合と比べて、抗精神病薬を使用することで、心室性不整脈を除く全ての健康アウトカムのリスクが有意に上昇し、ハザード比は心不全での1.16から肺炎での2.03に及んだ。また、過去90日以内に薬が処方された現在の抗精神病薬使用者は特にリスクが高く、ハザード比は肺炎で2.19、急性腎障害で1.72、静脈血栓塞栓症で1.62、脳卒中で1.61であった。さらに、これらの患者での肺炎の累積罹患率は4.48%に上った(使用していない患者では1.49%)。 研究グループは、「国際的なガイドラインでは、抗精神病薬の使用を重度の行動・心理症状を有する認知症患者に制限するよう勧告している」と指摘する。しかし近年、抗精神病薬の処方率は上昇しているという。研究グループは、このような上昇の背景には、有効な非薬物代替療法が乏しいことや、現時点で利用できる代替療法の実施には多大な資源が必要なことがあると考察している。 米アルツハイマー病協会によると、抗精神病薬は眠気、錯乱、震え、ふらつきなどの副作用を引き起こすことがあるほか、下肢の腫れ、感染症、血栓のリスクも上昇するという。(HealthDay News 2024年4月18日) https://www.healthday.com/health-news/mental-health/antipsychotics-may-do-great-harm-to-people-with-dementia-report Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
抗精神病薬は認知症患者の脳卒中、静脈血栓塞栓症、心筋梗塞、心不全、骨折、肺炎、腎障害などのリスクを大幅に増加させる可能性のあることが、新たな研究で示唆された。論文の筆頭著者である、英マンチェスター大学のPearl Mok氏らによるこの研究の詳細は、「The BMJ」に4月17日掲載された。Mok氏は、「今すぐにでも抗精神病薬の過剰処方から脱却すべきだ」と主張している。 この研究では、1988年1月1日から2018年5月31日までの間に英国で認知症と診断された50歳以上の成人17万3,910人(診断時の平均年齢82.1歳、女性62.5%)のデータを用いて、認知症患者での抗精神病薬の使用と有害な健康アウトカム(脳卒中、静脈血栓塞栓症、心筋梗塞、心不全、心室性不整脈、骨折、肺炎、急性腎障害)との関連が検討された。これらの患者のうちの3万5,339人に新たに抗精神病薬が処方されていた。罹患密度サンプリングを用いてこれらの患者1人につき、抗精神病薬を使用していない患者を最大で15人マッチさせた。最終的に、抗精神病薬使用者2万4,696人とマッチさせた対照34万4,232人を対象に解析を行った。 最も多く処方された抗精神病薬は、リスペリドン、クエチアピン、ハロペリドール、オランザピンであり、これらを合わせると、全処方のほぼ80%を占めていた。解析の結果、抗精神病薬を使用していない場合と比べて、抗精神病薬を使用することで、心室性不整脈を除く全ての健康アウトカムのリスクが有意に上昇し、ハザード比は心不全での1.16から肺炎での2.03に及んだ。また、過去90日以内に薬が処方された現在の抗精神病薬使用者は特にリスクが高く、ハザード比は肺炎で2.19、急性腎障害で1.72、静脈血栓塞栓症で1.62、脳卒中で1.61であった。さらに、これらの患者での肺炎の累積罹患率は4.48%に上った(使用していない患者では1.49%)。 研究グループは、「国際的なガイドラインでは、抗精神病薬の使用を重度の行動・心理症状を有する認知症患者に制限するよう勧告している」と指摘する。しかし近年、抗精神病薬の処方率は上昇しているという。研究グループは、このような上昇の背景には、有効な非薬物代替療法が乏しいことや、現時点で利用できる代替療法の実施には多大な資源が必要なことがあると考察している。 米アルツハイマー病協会によると、抗精神病薬は眠気、錯乱、震え、ふらつきなどの副作用を引き起こすことがあるほか、下肢の腫れ、感染症、血栓のリスクも上昇するという。(HealthDay News 2024年4月18日) https://www.healthday.com/health-news/mental-health/antipsychotics-may-do-great-harm-to-people-with-dementia-report Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock