現在、米国の野鳥、家禽、牛の間で蔓延しているH5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザ(highly pathogenic avian influenza;HPAI)ウイルスに対する実験的なmRNAワクチンが、重症化と死亡を防ぐ上で極めて有効である可能性が、動物を用いた試験で示された。このウイルスがヒトに感染することはまれだが、このまま感染が拡大し続けると、ウイルスが変異してヒトの間にパンデミックを引き起こす可能性があるとして懸念されている。米ペンシルベニア大学ペレルマン医学部微生物学教授のScott Hensley氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications」に5月23日掲載された。 Hensley氏は、「例えば、2009年に新型インフルエンザウイルス(H1N1)がパンデミックを引き起こしたときのように、これまでは、パンデミックが発生してもすぐにワクチンを製造することができなかった」と話す。そして、「mRNAワクチンの技術を使えば、ワクチン開発の柔軟性が高まる。パンデミックを引き起こす可能性があるウイルス株の塩基配列の解析後数時間以内に、ワクチン作成を開始できる」と話す。 インフルエンザワクチンのほとんどは、鶏卵を使って製造されている。すなわち、次のインフルエンザシーズンに流行が予想されるインフルエンザウイルス株を鶏の受精卵に注入して複製させた後に不活化した上でワクチンにするのだ。しかし、この方法では製造に時間がかかるため、ワクチンが最も必要となるパンデミック発生後数カ月の間にワクチンを用意するのが難しいという問題が生じ得る。 これに対し、今回報告されたワクチン(H5 mRNA-LNP)は、新型コロナワクチンと同じmRNAワクチンの技術を用いて製造された。mRNAワクチンには、製造に鶏卵を必要としない上に、異なるインフルエンザウイルス株に、容易に、かつ迅速に対応させることができるという利点がある。今回のワクチンは、特定の系統(クレード2.3.4.4b)に属するHPAI(H5N1)ウイルス株の表面に存在する糖タンパク質のヘマグルチニン(HA)を標的とする。HAはウイルスが宿主細胞の中に侵入する際に重要な役割を果たす。 このワクチンを雌のマウスに投与したところ、H1N1への曝露歴にかかわりなく、マウスに強力なT細胞反応と抗体反応が誘導されることが確認された。誘導された抗体のレベルは、不活化ワクチンを接種した場合と同等であり、高い抗体レベルは1年後も維持されていた。さらに、雄のフェレットに、H5 mRNA-LNP、または鳥インフルエンザウイルスとは無関係のタンパク質を標的にしたワクチンを投与し、その後、H5N1ウイルスに曝露させた。その結果、H5 mRNA-LNPを接種したフェレットは、症状が少なく、全てが生存していたのに対し、H5 mRNA-LNPではないワクチンを投与されたフェレットは全て死亡した。このことから、H5 mRNA-LNPには鳥インフルエンザの発症と死亡を予防する効果のあることが示唆された。 論文の共著者であるペンシルベニア大学ペレルマン医学部のDrew Weissman氏は、「2020年以前にパンデミックを引き起こすリスクが最も高いと考えられていたのはインフルエンザウイルスであり、それが現実になった場合のワクチン製造の選択肢は限られていた」と説明。その上で、「新型コロナウイルス感染症を経験したことで、われわれは、新たに出現したウイルスからヒトを迅速に守るツールとしてのmRNAベースのワクチンの威力を知った。われわれは今や、インフルエンザウイルスなどのパンデミックを引き起こす可能性のあるさまざまなウイルスに対応する準備が、以前よりは整った状態にある」と話している。(HealthDay News 2024年5月28日) https://www.healthday.com/health-news/infectious-disease/scientists-developing-mrna-based-vaccine-against-h5n1-bird-flu Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
現在、米国の野鳥、家禽、牛の間で蔓延しているH5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザ(highly pathogenic avian influenza;HPAI)ウイルスに対する実験的なmRNAワクチンが、重症化と死亡を防ぐ上で極めて有効である可能性が、動物を用いた試験で示された。このウイルスがヒトに感染することはまれだが、このまま感染が拡大し続けると、ウイルスが変異してヒトの間にパンデミックを引き起こす可能性があるとして懸念されている。米ペンシルベニア大学ペレルマン医学部微生物学教授のScott Hensley氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications」に5月23日掲載された。 Hensley氏は、「例えば、2009年に新型インフルエンザウイルス(H1N1)がパンデミックを引き起こしたときのように、これまでは、パンデミックが発生してもすぐにワクチンを製造することができなかった」と話す。そして、「mRNAワクチンの技術を使えば、ワクチン開発の柔軟性が高まる。パンデミックを引き起こす可能性があるウイルス株の塩基配列の解析後数時間以内に、ワクチン作成を開始できる」と話す。 インフルエンザワクチンのほとんどは、鶏卵を使って製造されている。すなわち、次のインフルエンザシーズンに流行が予想されるインフルエンザウイルス株を鶏の受精卵に注入して複製させた後に不活化した上でワクチンにするのだ。しかし、この方法では製造に時間がかかるため、ワクチンが最も必要となるパンデミック発生後数カ月の間にワクチンを用意するのが難しいという問題が生じ得る。 これに対し、今回報告されたワクチン(H5 mRNA-LNP)は、新型コロナワクチンと同じmRNAワクチンの技術を用いて製造された。mRNAワクチンには、製造に鶏卵を必要としない上に、異なるインフルエンザウイルス株に、容易に、かつ迅速に対応させることができるという利点がある。今回のワクチンは、特定の系統(クレード2.3.4.4b)に属するHPAI(H5N1)ウイルス株の表面に存在する糖タンパク質のヘマグルチニン(HA)を標的とする。HAはウイルスが宿主細胞の中に侵入する際に重要な役割を果たす。 このワクチンを雌のマウスに投与したところ、H1N1への曝露歴にかかわりなく、マウスに強力なT細胞反応と抗体反応が誘導されることが確認された。誘導された抗体のレベルは、不活化ワクチンを接種した場合と同等であり、高い抗体レベルは1年後も維持されていた。さらに、雄のフェレットに、H5 mRNA-LNP、または鳥インフルエンザウイルスとは無関係のタンパク質を標的にしたワクチンを投与し、その後、H5N1ウイルスに曝露させた。その結果、H5 mRNA-LNPを接種したフェレットは、症状が少なく、全てが生存していたのに対し、H5 mRNA-LNPではないワクチンを投与されたフェレットは全て死亡した。このことから、H5 mRNA-LNPには鳥インフルエンザの発症と死亡を予防する効果のあることが示唆された。 論文の共著者であるペンシルベニア大学ペレルマン医学部のDrew Weissman氏は、「2020年以前にパンデミックを引き起こすリスクが最も高いと考えられていたのはインフルエンザウイルスであり、それが現実になった場合のワクチン製造の選択肢は限られていた」と説明。その上で、「新型コロナウイルス感染症を経験したことで、われわれは、新たに出現したウイルスからヒトを迅速に守るツールとしてのmRNAベースのワクチンの威力を知った。われわれは今や、インフルエンザウイルスなどのパンデミックを引き起こす可能性のあるさまざまなウイルスに対応する準備が、以前よりは整った状態にある」と話している。(HealthDay News 2024年5月28日) https://www.healthday.com/health-news/infectious-disease/scientists-developing-mrna-based-vaccine-against-h5n1-bird-flu Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock