あるドイツ人男性が、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症が完治した7人目の患者となったと、シャリテ・ベルリン医科大学(ドイツ)のOlaf Penack氏らが報告した。報告書の中で「次のベルリンの患者(next Berlin patient)」と表記されているこの60歳の男性は、2015年10月に急性骨髄性白血病の治療のため幹細胞移植を受けていた。彼は2018年9月、エイズを引き起こすウイルスであるHIVを抑制するために必要な抗レトロウイルス薬の服用を中止したが、それ以来、約6年間にわたってHIVが検出されていないという。この症例については、同医科大学のChristian Gaebler氏が、第25回国際エイズ会議(AIDS 2024、7月22~26日、ドイツ・ミュンヘン)で報告予定。 男性の治療を担当した医師らは、この症例からHIV感染症の遺伝子治療が全ての患者に治癒をもたらす可能性を示す新たな知見が得られたと話している。これまでに報告されているHIV感染症の完治例とは、白血病などの血液がんの診断後に幹細胞移植を受けたという点が共通している。これらの症例でHIV感染症が完治に至ったのは、幹細胞提供ドナーが、白血球の表面に存在するCCR5(C-Cケモカイン受容体5)をコードする2つのCCR5遺伝子にCCR5-delta 32と呼ばれる変異を保有していたからだった。この遺伝子変異は、HIVが免疫細胞に侵入するのを阻害することで、この変異を保有する人にHIVに対する免疫を与えるとPenack氏らは説明している。 今回報告された「次のベルリンの患者」は、CCR5-delta 32を1コピーのみ持っているドナーから提供された幹細胞が移植され、完治に至った初めての例であるという。1コピーのみ持つドナーからの幹細胞の場合、HIVに感染する可能性は残るが、感染しても病気の進行は遅くなる。Penack氏は、「われわれはHIVに対して免疫を持つ幹細胞ドナーを見つけることはできなかったが、細胞にCCR5受容体の2つのバージョン、つまり正常なものと遺伝子変異したものの2種類を持つドナーを見つけることはできた」と言う。 遺伝子変異のコピーを2つ持っている人よりも1つだけ持っている人の方がはるかに多いため、将来的に血液がんを併発したHIV感染者のHIV感染症が完治する確率が高まる可能性があるとPenack氏らは期待を示している。 Penack氏は、「この患者が良好な健康状態で元気に過ごしていることを、われわれは極めて喜ばしく思っている」と話す。また同氏は、「彼は5年以上にわたって経過観察下にあるが、その間ずっとHIVが検出されない状態が続いている。このことは、彼の体からHIVを完全に消滅させることに成功したことを示している。したがって、われわれは彼のHIV感染症は完治したと考えている」としている。 Gaebler氏は、「幹細胞ドナーがHIVに対する免疫を持っていなかったにもかかわらず、この患者が完治に至ったことは極めて驚くべきことだ」とシャリテ・ベルリン医科大学病院のニュースリリースの中で述べ、「免疫のないドナーから提供された幹細胞の過去の移植症例では、移植の数カ月後にはHIVが複製を再開していた」としている。 国際エイズ学会会長のSharon Lewin氏は、「幹細胞移植は白血病のような他の疾患の患者に対してのみ行われる治療ではあるが、『次のベルリンの患者』の経験から、このような症例に対してドナープールを拡大できることが示唆された」と話す。また、同氏は、「このことは、将来的にHIV感染症を治癒に導く戦略につながり得るという点で有望だ。それは、寛解を達成するためにCCR5をひとつ残らず除去する必要はないことが示されたからだ」と同学会のニュースリリースの中で付け加えている。 ただし、このことはCCR5遺伝子の変異がHIV感染症の治癒には全く関与していない可能性も示しているとGaebler氏は指摘。その場合、ドナーから移植された免疫細胞が「次のベルリンの患者」のHIVに感染した全ての細胞を排除したことで、患者が治癒に至ったと考えられるとしている。(HealthDay News 2024年7月19日) https://www.healthday.com/health-news/infectious-disease/german-patient-is-7th-person-probably-cured-of-hiv Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
あるドイツ人男性が、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症が完治した7人目の患者となったと、シャリテ・ベルリン医科大学(ドイツ)のOlaf Penack氏らが報告した。報告書の中で「次のベルリンの患者(next Berlin patient)」と表記されているこの60歳の男性は、2015年10月に急性骨髄性白血病の治療のため幹細胞移植を受けていた。彼は2018年9月、エイズを引き起こすウイルスであるHIVを抑制するために必要な抗レトロウイルス薬の服用を中止したが、それ以来、約6年間にわたってHIVが検出されていないという。この症例については、同医科大学のChristian Gaebler氏が、第25回国際エイズ会議(AIDS 2024、7月22~26日、ドイツ・ミュンヘン)で報告予定。 男性の治療を担当した医師らは、この症例からHIV感染症の遺伝子治療が全ての患者に治癒をもたらす可能性を示す新たな知見が得られたと話している。これまでに報告されているHIV感染症の完治例とは、白血病などの血液がんの診断後に幹細胞移植を受けたという点が共通している。これらの症例でHIV感染症が完治に至ったのは、幹細胞提供ドナーが、白血球の表面に存在するCCR5(C-Cケモカイン受容体5)をコードする2つのCCR5遺伝子にCCR5-delta 32と呼ばれる変異を保有していたからだった。この遺伝子変異は、HIVが免疫細胞に侵入するのを阻害することで、この変異を保有する人にHIVに対する免疫を与えるとPenack氏らは説明している。 今回報告された「次のベルリンの患者」は、CCR5-delta 32を1コピーのみ持っているドナーから提供された幹細胞が移植され、完治に至った初めての例であるという。1コピーのみ持つドナーからの幹細胞の場合、HIVに感染する可能性は残るが、感染しても病気の進行は遅くなる。Penack氏は、「われわれはHIVに対して免疫を持つ幹細胞ドナーを見つけることはできなかったが、細胞にCCR5受容体の2つのバージョン、つまり正常なものと遺伝子変異したものの2種類を持つドナーを見つけることはできた」と言う。 遺伝子変異のコピーを2つ持っている人よりも1つだけ持っている人の方がはるかに多いため、将来的に血液がんを併発したHIV感染者のHIV感染症が完治する確率が高まる可能性があるとPenack氏らは期待を示している。 Penack氏は、「この患者が良好な健康状態で元気に過ごしていることを、われわれは極めて喜ばしく思っている」と話す。また同氏は、「彼は5年以上にわたって経過観察下にあるが、その間ずっとHIVが検出されない状態が続いている。このことは、彼の体からHIVを完全に消滅させることに成功したことを示している。したがって、われわれは彼のHIV感染症は完治したと考えている」としている。 Gaebler氏は、「幹細胞ドナーがHIVに対する免疫を持っていなかったにもかかわらず、この患者が完治に至ったことは極めて驚くべきことだ」とシャリテ・ベルリン医科大学病院のニュースリリースの中で述べ、「免疫のないドナーから提供された幹細胞の過去の移植症例では、移植の数カ月後にはHIVが複製を再開していた」としている。 国際エイズ学会会長のSharon Lewin氏は、「幹細胞移植は白血病のような他の疾患の患者に対してのみ行われる治療ではあるが、『次のベルリンの患者』の経験から、このような症例に対してドナープールを拡大できることが示唆された」と話す。また、同氏は、「このことは、将来的にHIV感染症を治癒に導く戦略につながり得るという点で有望だ。それは、寛解を達成するためにCCR5をひとつ残らず除去する必要はないことが示されたからだ」と同学会のニュースリリースの中で付け加えている。 ただし、このことはCCR5遺伝子の変異がHIV感染症の治癒には全く関与していない可能性も示しているとGaebler氏は指摘。その場合、ドナーから移植された免疫細胞が「次のベルリンの患者」のHIVに感染した全ての細胞を排除したことで、患者が治癒に至ったと考えられるとしている。(HealthDay News 2024年7月19日) https://www.healthday.com/health-news/infectious-disease/german-patient-is-7th-person-probably-cured-of-hiv Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock